第3話 / 菊山 麗奈
サラサラな長い黒髪。
綺麗に毛先だけカールされた前髪。
彼女の名前は、菊山 麗奈
みんなからはレイちゃんと呼ばれていた。
彼女のことは
何度も記憶から消そうとした。
けど、無理だった。
イジメの主犯核とも言える存在。
クラス1番の権力者。
裕福な家庭で育った彼女は、5年2組の女王様で
彼女に逆らうものならば待っているのは
"罰"だった。
私もその罰を受けた1人である。
クラスの中心で笑っていた彼女と
クラスの影で怯えていた私。
あの頃の私にとって、
彼女の存在は恐怖そのものでしかなかった。
「ゆみの席、あたしの後ろ」
レイちゃんはそう言って、私を席に案内した。
廊下側の1番後ろの席。
静かに椅子を引き、そっと溜め息をこぼす。
そして再び教室中をグルッと見渡すと
やっぱりそこには存在していた。
"5年2組"ーー。
決して居心地がいいとは言えない空間。
思い出される、数々の悲劇。
未だに、この非現実的な現状を
夢ではないかと疑ってしまう。
「気になってる?」
少し低めの声でそう言った彼女に
体が小さく反応した。
この恐怖心から抜け出せないのは
私が彼女を心から恐れている証拠。
世間は.. 残酷だ。
どうしてまた私達を巡り会わせたのか。
「・・・」
私が俯いたまま返事をしないでいると
レイちゃんが続けて口を開く。
「変だよね〜。
5年2組だった生徒全員が、また同じクラスになるなんて」
今度は明るめな口調で
苦笑いを浮かべながらそう言った。
「・・うん 」
彼女も私と同じ疑問を持っていた。
学校側が決めたことなのに...
誰かに仕組まれてるような、
そんな気がしてならないのは私だけだろうか。
私達は私立の小学校に通っていたから、
中学高校と自動的に進学は可能だ。
それでも
全員が同じクラスになるなんて、
普通ならあり得ない話。
それぞれ高校の選択技はあったはずだから。
今ここにいるクラスメイト全員が
そう思っているに違いない。
「不思議」
今はその言葉を呟くだけ。
ーーふと、教室の後ろに目を向けると
そこにはさっき少し言葉を交わした神城君がいた。
ロッカーに寄り掛かりながら本を読んでいる。
すらっと伸びた脚を組むその姿は
やっぱり大人びて見えた。
相変わらず前髪は長いけれど
今の彼の容姿なら、女子から人気が出てもおかしくはない。
けど、誰1人彼に近付く気配はない。
みんな彼の存在を無視しているようにも見える。
あの時と同じことを繰り返そうとしているのか。
...はぁ、思い込みも程々にしなきゃ。
機会があれば彼に声を掛けよう。
ほんの一言でもいい。
そしていつか、この1年の内にあの言葉を伝える。
そう心に決めて、担任の先生を待つことにした。
もうすぐ、朝のチャイムが鳴る。