第2話 / 6文字の言葉
・・ 7年後 ・・
私は今日から高校3年生になる。
高校最後の1年間、
悔いのないように過ごさなきゃ。
そんな事を思いながら
学校までの道路を歩く。
どんなクラスでも
あの時のような過ちはもう二度と犯さない。
そう心に決めてーー。
正門には多くの先生が並んでいた。
生徒1人ひとりの身だしなみをチェックしている。
私はスカートを短くしたことがないから
特に呼び止められることもなく、スムーズに校内に辿り着いた。
「おはよう」
「...おはようございます」
すれ違い様に挨拶をくれた先生の声は
どこか聞き覚えがあった。
まぁ、何かの間違いかな。
下駄箱に靴を入れ
新しい上履きに履き替える。
そして廊下を歩いて、階段を上がり
また廊下を歩く。
緊張と不安が混じり合う中、
少しだけ期待もしていた。
これからどんな学校生活が待っているのだろうかとーー。
ふと、教室の扉の前で立ち止まる私。
3年2組ーー。
あれから7年...
あの悲劇からもうそんなに時が経ってしまった。
けど、そう感じているのはきっと私だけ。
あの頃は教室の扉を開けるのが怖かった。
毎朝、ここで立ち止まっては1度深呼吸をしていた。
この先に待っていたのは地獄の空間だったからーー。
けど、今は違う。
違うと、言わせてほしかった。
「・・あ 」
数秒だけ、
時が止まったような気がした。
止まったのは時間じゃなくて、
私の思考だったけど。
思わず手の平で両目を覆い、
頭を横に振る私。
ウソだ、うそ。
これは夢だと自分に言い聞かせ
もう1度、両目から手を離し、ゆっくりと視界を見渡す。
さっきと何も変わらない光景。
見覚えのあるクラスメイト達に
目を疑わずにはいられなくなる。
何故ここに
"5年2組"だったクラスメイトが集まっているのか。
悪夢以外の何でもない。
私は再び頭を横に振る。
目を覚ませ、と何度も自分に言い聞かせながら。
ーーー「何してるの?此原サン」
「・・えっ」
突然名前を呼ばれ、慌てて顔を上げる。
「久しぶり」
受け入れることができない現実。
声を交わしたことなど1度もなかった。
けど、私はすぐに彼の正体が
「神城 咲、くん?」
あの転校生だと気付いたーー。
周りの男子よりも背が高く
制服を着ているのに、どこか大人びて見えた。
あの頃とは少し雰囲気が違う。
私は彼を見上げ、意を決して口を開く。
もし、もう1度会うことができたなら
私はこの一言を伝えると決めていた。
彼がいなくなってから、ずっとーー。
「神城君!
あ、あの時はーー・・
・・・・・・!」
あれ...
何故だろう...
絶対に言おうと決めていたのに。
この時が来るのを
どれだけ待ち望んだことか。
それなのに、どうして...
たった6文字の言葉は
私の口から出ることを大きく拒んだ。
「・・・」
それはまだ
自分が臆病な証。
今更言う資格はないと
分かっているから。
バカだな、私。
一方的にあの言葉を伝えるのは
やっぱり間違っている。
小さく息を吐き、
彼の横を通り過ぎようとした時ーー
「ゆみ!」
今度は
私の下の名前を呼ぶクラスメイトが現れた。