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一話 ゲーム直前

 真夜中。一人の人間がとあるパソコンを使ってゲームに入力ミスがないか、などを調べていた。一室にこもってパソコンを操作している姿は、妙に心をざわつかせる。光源は、それから漏れだす光以外、どこにもない。


 器用な手つきでキーボードを飛ぶようにたたき、綿密に構成されたプログラムをチェックしていくたび、『その人』は感嘆のため息が出た。『その人』はこのゲーム制作に夢中だった。画面を食い入るように見つめ、寝食を忘れ、一心不乱にゲームにこの身をささげた。

 世界の現在の常識を完全に超越したプログラム。

 作るにあたって三年の月日を消費したが、ゲームの複雑さを知る『その人』にとっては、まさに奇跡のように短い年月だった。本来はもっと製作が長く伸び、ゲーム実施の期間には間に合わないはずだったが、その人はたった三年で作り終えたのだから。


 あたりは静寂に包まれていて、キーボードをたたく音以外、何も聞こえない。パソコンの画面にはとある怪しげなページに大量の文字が書き込まれていった。


 一人暮らし用の寂しい部屋は、もうこれでお別れだ。その人はそう口走った。

 不意に、キーボードをたたく音が止まる。ざっとプログラムされた内容を、数十分ほどかけて、確認していく。それが終わったあと、大きく体をそらし、気持ち良い伸びをした。体が引き締まった感覚に陥った気がした。


 「やった……やったよ……ようやく完成した。やったぞ……」


 思わず口元が緩む。これでこのプログラムは、完全に完成したのだ。唯一無二といっても過言ではないゲームを。


 体中がほてるように熱い。まるで内部爆発でもしそうな勢いの興奮に身をゆだね、勢い良く立ち上がる。それと同時に毎日携帯している刃先三十センチメートルほどのサバイバルナイフを手に取り、寂しい部屋の片隅のホワイトボードを見た。そこには、このゲームの参加者たちの隠し撮り写真が貼られていた。ゲーム制作中、友人が渡してくれたものだった。


 ゲームプレイヤーは九人。自分を含めれば十人になる。男性四名、女性六名。


 「フフフ……」

 思わず口から微笑が流れる。プログラムを保存し、その人、いや『黒幕』はパソコンの電源を切った。

 このゲームの出来には絶対的自信があった。ストーリーなどもすべて。


 この中で、だれが生き残れるのかな?黒幕の口から軽やかな口調でそう意味もなく問うた。


 タイムリミットまであと十日を切っている。

 このゲームの趣旨は、一言でいえば殺し合いだった。十人の人間が互いにいがみ合い、殺しあう。その手の小説などではよく登場しているデスゲーム、だ。


 だけど、写真を見る限り九人が九人、頭のよさそうな顔をしていた。一筋縄には自分の考えた通りに進んでくれないことは明白だった。それは黒幕にとって脅威だった。もしこのメンバーが殺し合いをせず、生存者が減らなかったとしたら?


 彼らよりも頭の良い黒幕は、その手の対策を打っていた。殺人を簡単に犯す怪物を一体導入し、時間制限を作り、そして誰かが誰かを殺害しなければいけない状態を作ったのだ。われながら本当に外道だと思う。


 ゲームで生き残れるのはたった一人。それ以外はこのゲームでみんな死亡することになる。とあるルールでは複数人生存することは可能だが。

 黒幕はサバイバルナイフを無造作に一人の女性が写っている写真に突き刺した。刺しにくい素材だが、そんなことは関係なかった。ホワイトボードに刃先が食い込む。その女性の胸を貫いたナイフを引き抜き、すぐさま隣の写真の男の顔に突き刺す。

 その次も、その次も、一人ずつ、このゲームに選ばれた者の写真を傷つけていった。

 もちろん、このゲームを作って、それに参加する黒幕も殺害される可能性だって考えられた。だけど、ほかのメンバーからしたら、自分の位置はどう考えても有利だった。ほかのメンバーには悪いが、黒幕は自分が生存できると信じていた。


 そして、怪物。それは黒幕の好みのモンスターを選ばせてもらった。黒幕の好きなキャラクターそれは…。


 そこまで考え、黒幕はぞわぞわしたような感覚を覚える。下手したら、彼も殺されるくらいの怪物を登場させたのだ。ゲームは、よりもっと面白くなる。


 不敵な笑みを浮かべ、黒幕はホワイトボードの隙間に書かれた、ゲームプレイヤーたちの名前を見た。

五条台智樹。大川向日葵。鯖戸克之。藤野目ユリ。北条孝明。氏家湯姫。津田英子。東山美佐奈。沖見俊介。浅井千夏。計十名。自分の名前も含まれている。年齢は十九歳から十三歳までばらばらだ。


 「さあてと」


 黒幕はゆっくりと冷蔵庫に近づき、中にある缶ジュースを取り出す。爪を使い、缶を開け、中の液体をごくごくと飲み干す。

 飲み終えてから、黒幕は口元を袖口で拭き、


 「誰が生き残るかな?」


 と愉快そうに言い、ホワイトボードを見た。


 ホワイトボードに貼られていた写真は、すべてずたずたに切り裂かれていた。


 ゲーム名は……一人の勝者・九人の敗北者。


 それから九日後。二名の中学生が、居眠り運転で突進してきたトラックによって事故死したという記事が、その地方の新聞の片隅に小さく載ることになった。

                            残る生存者…十名。

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