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悪の限りを尽くす…つもり  作者: 雷抖
東大陸編
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王城にて

 ここは、ネルディ王国の王城内の謁見の間。


「……以上が、オーディアでの任務の顛末です。詳細については、のちほどバイアス執政官殿に報告書を提出致しますので、そちらを確認して頂きたい」


 丁寧ながらも何処か荒く聞こえるのは、報告している者の風格によるモノだろう。


 鈍く輝く金の髪を後ろに流し、灰の三白眼で睨む様な目つきのその人物は、【明光騎士団】の隊長各のみが纏う純白のマントと騎士団の象徴たる金と紅の甲冑に身を包んでいる。

 【明光騎士団】第二部隊【閃鈴(せんりん)】の隊長である、カルス・バーンオウルである。壮麗な甲冑に身を包んで尚漂う破壊者の気配。それもそのはず、【閃鈴】は王国の矛であり、敵対するモノを叩き潰すのがその役目。そんな部隊の隊長ならば、成る程破壊者の気配を漂わせるのも当然だろう。


 そして彼の隣で深々と頭を垂れ、眼前の主に最大の敬意を払っているのが、【閃鈴】に所属してまだ日が浅い、メリシア・テトラスである。争いの中に身を置いているにも関わらず、まるで上質な絹を思わせる、長く、そしてうっすらと輝く様な金の髪を後ろで一つに括り、穏やかながらも強い意思が感じられる碧の瞳の少女は、静かに、上官と主の会話を聞いていた。


もう一人ドズダンもいるが、まぁそれはいいだろう。


「フム、そうか。やはり此度の事件、オーディアの息が掛かっていたか」


 苦々しくそう呟くのは、ネルディ王国の国王、アヴァルム・ネルディである。老齢たる彼は、髪や髭こそ白く染まっているが、その眼光は鋭く、燃え盛る金炎の瞳を見れば、未だその身に衰えは無いと感じるだろう。


「えぇ。…とはいえ、あくまでも協力者が単独で支援していただけで、国としては一切の関与は無いとの事でしたが…」


「何処まで信じられるか…だな」


「はい」


 オーディアとネルディは表面上は仲が良く、またネルディには【明光騎士団】もあるため、外からは対等の関係に見えるだろう。

 しかし実際は、オーディアの植民地に近い状態となっている。いや、オーディアだけではなく、ガルフェイクの植民地でもあるのだが、とにかく、決して対等な関係等ではなく、オーディアは度々勝手な理由理屈をつけては、ネルディの政治や国交に口を出してくる。

 それに反発すると、ネルディ王国内で何かしらの事件が起き、その黒幕を辿ると大抵はオーディアに行き着くのだ。たまにガルフェイクにも行き着くが。そしてその事を糾弾しようとすれば、必ずといっていいほど、どこぞの貴族の単独行動であり、国は関与していないと言ってあしらわれる。

 それ以上強く出ようモノなら、分かっているな?との脅し付きで。


 ならばガルフェイクに庇護を求めればいいのでは?そんな事はとっくに実行しているが、ガルフェイクもまた、今の状態の方がが安定しているからと、それを許可しない。

 結局は両国とも、完全な味方につけるよりは、飼い殺しにした方が得だと考えているのだ。そこにネルディへの思いやり等は無い。


「…一先ず、顛末は分かった。ご苦労であったな、充分に休むが良い。」


「ハッ、それでは失礼致します」


 言って、カルスは立ち上がる。続いてメリシアとドズダンも立ち上がる。そして三人は謁見の間を後にする。


「……ふぅ、緊張しました」


「…お前は頭を垂れていただけだろう。何を緊張する事があった」


 タメ息と共に呟いたメリシアにドズダンが呆れ混じりに言う。


「何をせずとも、王の御前に控えるだけで十分緊張するに値しますよ。」


「ハッハッ!まぁお前さんはまだ王と余り会う機会が無いからな、仕方ないだろう。ま、慣れだな、慣れ」


「ほら、隊長もこう仰っています、ドズダン殿女心が分かっていませんね」


「今の、女心関係あるか?」


「そういう質問が、既に女心が分かっていないんです」


「…何とも面倒に感性だな」


「ハッハッ!っとそうだ。ドズダン、これをバイアス執政官に渡してきてくれ」


 一笑いした後、カルスはドズダンに数枚の書類を渡す。


「隊長が行かれては?」


「やーだよ。何でわざわざあんな頭でっかちに嫌味言われに行かなきゃなんねぇんだよ」


「…私も余り得意では無いのですが」


「上官命令。ほれ、行ってこい。渡してきたらもう直帰でいいからよ」


「はぁ、では行って参ります」


 渋々とバイアスの執務室に向かうドズダン。


「うし、これで頭でっかちに会わずに済む。なぁメリシア、帰りに一杯どうだ?」


「遠慮させていただきます。隊長に付き合うと、翌日まともに動けなくなりますから」


「つれないねぇ。もう酒も飲める歳なんだし、少しくらうぉぉっ!?」


「こんな場所で人の年齢に関する事を言わないで下さい!」


「だからって殴りかかんなよ…、俺上官だぜ?」


「セクハラで訴えますよ?」


「負けるから勘弁してくれ」


「無駄に潔いですね…」


 呆れつつ呟くメリシア。


「やれやれ、危ねぇな…。列車の時も思ったけどよ、ちょっと堅すぎねぇか?もっと柔らかくいこうぜ」


「隊長は柔らかすぎます。…列車と言えば、彼は今どうしているのでしょうね?」


「ん?…あぁ、アル…だっけ?」


「はい。王都に入る前に逃げましたから、壁の外で立ち尽くしているかもしれませんね」


「それは無いと思うぜ?あいつは《護影装(ごえいそう)》を使える程の実力者だ、どうにかして王都内に侵入してんじゃねぇのかな?」


「……あの時も思った事ですが、隊長はアルさんに少々期待し過ぎなのでは?」


「ん……、まぁそうだな。だが、油断し過ぎるよりはいいと思うぜ」


「……確かに、彼は何処か掴めないですからね」


「どうせ今頃、壁を鼻で笑いながら突破してんじゃね?」


「それは都市の防衛力的に問題があるのですが…」


 二人は、青年について考察しながら、王城を歩いていた。





「暗いよ臭いよ滑るよ臭いよ気持ち悪いよ臭いよもうやだ帰りたい陽の光が恋しいよ臭いよー………」


「いい加減諦めろよ、兄ちゃん。うるせぇし…、つかどんだけ匂いに敏感なんだよ…」


「うぁー……、死ぬー……」


「臭いだけで死ぬならスラムなんかねぇぞ。ほらしっかりしろ!」


 カルスやメリシアが思っているほど、アルは有能では無いようだ。



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