トレインジャックの結末
「…アル…さん…?」
メリシアが呆然と、俺を見ている。
「…【明光騎士団】の甲冑。つまりこいつは騎士様か。…んで、そんな騎士様と仲良さそうなお前は結局何なんだ?」
そしてカジーフが俺を睨む。うぇー…、またやり直さなくちゃなんねぇの?
「いや、だから…」
「お、お頭ぁー!」
そこで、緑の布を被ってる盗賊が駆けてきた。
「…アレクサンディアか」
「何その凄い名前!?」
どこぞの王族かよ!?
「ちょいとお頭!それは罰ゲームの時の名前でしょうが!」
「スマンスマン。で、何だ?こっちも忙しいんだが…」
「………?…っとそうだ!やべぇぜお頭!何か強そうな奴らがこっちに向かってきてる!アッシらじゃ足止めしかできねぇ!」
「………チッ、さっきまでの茶番は時間稼ぎか」
「え?いや…」
「おい!他の手下共に伝えろ!撤退ってな!」
「へい!お頭は?」
「…ちょっとやることがあっからな、先に行ってろ」
「合点!」
そうして緑布は走り出して、すぐに立ち止まった。
「お頭、撤退って何でしたっけ?」
「逃げろって意味だ馬鹿!!」
「あ、分かりやした!」
そう言って、今度は立ち止まらずに走り去る。
「…大変だな」
「うるせぇ撤退原因」
苦々しく言い放って、カジーフは低く構える。
「俺も逃げさせてもらうがその前に、テメェに一泡吹かせねぇと気がすまねェ」
「いや、だから、俺は違…」
「問答無用だ《豪覇》!!」
「お、気魔法か」
気魔法とは、魔力を気という性質に変化させる魔法だ。気魔法は魔法であって魔法でないため、魔法を防ぐ魔法や道具の影響を受けないという利点がある。
そしてカジーフが放った《豪覇》は、簡単に説明すれば威圧だ。耐性の無い者や心の弱い者が受けると、体が硬直し、呼吸が困難になり、だけど目は背けられないという状態になる。
「まぁ、俺には効かないけどな」
「…顔面蒼白で何言ってやがる」
うん、強がりました。生憎と俺は気魔法は使えない。そして耐性もそんなに高くない。だから、わりとヤバい。もっと空気を肺に!
「…規格外なテメェにも弱点らしいのがあってホッとしたぜ。…んじゃ俺は逃げさせてもらうぜ」
「待て!逃げるなら魔法を解いてからだ!じゃないと俺がキツイ!」
「それ聞いて解くと思うか?…ったく面白い奴だな」
最後にそう言い残し、カジーフは去っていった。魔法を解かずに。
「………まぁ、自分で治せるけどさ。《静拍》」
精神魔法で怯えを治す。と同時にメリシアにかけた《痺縛》も解けた様だ。
「……ッ!」
瞬間、飛び起きるメリシア。
「……アルさん、色々と聞きたい事があります」
「俺はないかなーって事でさらば!」
「あっ!!」
面倒事に発展する前に逃亡!…しようとしたけど。
「残念、ここは通行止めだ」
「げっ…」
通路の向こうから二人の騎士が歩いてきた。無理すれば突破できなくもないけど、無理すんのは疲れるからやめよう。
「お?何だ急に大人しくなったな。…っと、メリシア。無事か?」
「あ…はい。カルス隊長」
「……隊長?」
メリシアの言葉を聞いて目の前の騎士を見る。
このちょいワル風オジさんが、【閃鈴】の隊長?
「ん?おう。俺が【明光騎士団】第二部隊【閃鈴】隊長のカルスだ。よろしくな、手配犯」
「騎士って顔かよ……、手配犯?」
「顔はいいだろ。ん?お前、オーディアで指名手配されてるだろ?」
「…あんな馬鹿みたいな懸賞金かけられる様な事した覚えはねぇけどな」
「あぁ、確かに。あの額は凄まじいよな。歴代でも最高金額じゃねぇかな?」
「ちょっと待て。………え?俺今いくら懸かってんの?」
「ん?それは…」
「たかが誘拐未遂に国家予算の一割懸けるとか頭おかしいんじゃねぇのかあのオッサン!!!?」
ありえねぇ…本気でありえねぇ…。そして意味分かんねぇ…。何がそこまであのオッサンを駆り立てるんだ?
「…ふむ、聞いていた話と違うな。…そもそも、何かおかしい気はしてたが…」
俺の叫びに、カルスも思案顔だ。そうだ!こんなのおかしい!
「…ですが隊長。結局彼、誘拐未遂はしていますよね?」
「あぁ、そうだな。そういやそうだ」
「そうだ結局それがあった……!!」
ダメじゃん。冤罪ではないじゃん。額が狂ってるだけで、犯罪者は犯罪者じゃん俺。
「…フム。どうするかな…」
「何を迷う事があるのですか?」
あ、空気さんが喋った。…名前知らねぇや。
「いや、また戻って報告に行くの面倒だなと思って」
「ちょっ、隊長!?」
「何を言っているんですか!?」
「お、隊長さん。何か気が合う様な気がする」
「貴方は黙っていて下さい!」
怒られた。
「…よし、決めた。…お前、名前は?」
「ワタシ、ナマエ、シラナイ」
「アルさんですよね?」
「…わ、ワタシ、シラナイ」
「そうかアルか」
「…ピューピューピュピュー」
「おいアル」
「ん?なに?」
「あっさりしてんなぁ…。まぁいい。お前さんの沙汰だが…、今回は見逃そう」
「「隊長!?」」
二人が同時にカルスに詰め寄る。
「まぁ待て。あくまでも見逃すのは今回、今だけだ。…次に見付けたら問答無用で捕まるから、覚悟しとけ」
「…へぇ、捕まえられるかな?」
「《豪覇》」
「は、ははは、そそんなのの、きか、効かねええななな!」
「効果抜群じゃねぇか」
呆れた様な声でカルスは告げて、魔法を解いた。
「おぉ、解いてくれた。お前カジーフより良い奴だな」
「盗賊の頭と比べられてもな」
「まぁいいや。んじゃ俺逃げるなー」
「あ、待て!」
「いいって」
空気さんが俺を止めようとしたが、それをカルスが止めた。…何考えてんだろな?
とりあえず、列車からダイブ。《護影装》のおかげで、身体は問題無し。服は…。
「王都で買うか」
呟いて、もう視認出来る距離まで近付いたネルディ王国の王都を見る。さて、ネルディではどんな悪事をしようかな。…あと、どうやって【明光騎士団】から逃げるかな。
こうして、俺はネルディ王国に到着した。
◆
「それで、理由は説明して下さるんですよね?」
アルさんが動力炉から去ってから、隊長に問う。因みにドズダン殿はアルさんを監視しに行った。でも何故でしょう。見つからない気がします。
「…んー、どうすっかなー」
「隊長。今回の件、隊長らしくありませんよ?」
「…アイツ、どっかで見たんだよな」
「え?」
「どこで見たのか、誰だったのかは思い出せねぇけど、何か気になるんだよな」
「それで、見逃したと?」
「まぁ、それだけが理由じゃないさ。…なんとなくだけど、アイツを泳がしとけば、奴らとの因縁にケリをつけられる。…そんな気がするんだよな」
「…【カジーフロット】。ですが、もし彼が奴らの仲間だったら?」
「それなら捕まえるだけだ。…一先ずは、様子見だな」
その時、ドズダン殿が戻ってきました。
「申し訳ありません隊長!奴を逃がしました!」
「あ?逃がした?いや、おかしいだろそれ。まさか列車から飛び降りた訳じゃ」
「飛び降りて逃げて行きました!」
「………やべ、早まったかも」
「隊長…」
本当に大丈夫なんでしょうか。
◆
「これで、あと必要なのは二つか…」
「頭、動力炉のマスター情報が書き換えられやした」
「あぁ、別にいい。もう目的は達したからな。…奪ったもん、いつものようにな」
「へい」
「…あと、二つ」
次回からネルディ王国編スタートです。ここからが本編みたいなものです。




