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悪の限りを尽くす…つもり  作者: 雷抖
東大陸編
44/51

ジオとリーナ

 魔導総戦。それは大陸最強の学生を決める闘いであり、様々な組織、団体が有力な人材を見定める舞台でもある。この場での活躍により、卒業後の選択肢が膨大なモノとなるのだ。学生にとって魔導総戦は、自らの存在を国内外に示せる場でもあるのだ。

 しかし、誰もがその舞台に立てる訳ではない。各国で行われる代表選定戦(代表決定戦でも可)にて目覚ましい実力を示せた者のみが魔導総戦の本舞台へと進めるのだ。


 ここ、ネルディ王国での魔導総戦代表選定戦における出場条件は、中級魔法を三種以上、もしくは上級魔法を一種以上扱える事。試験用に造り出された改造魔獣の討伐。そして、今回からの新しい条件として、優秀な人材からの推薦があること。後者に関しては魔導総戦を取り仕切る団体の長が新たな人材に変わった事による変更である。また、前者の条件が各国と比べて少々易しいのは、それでも尚条件を満たせる者が少ないからだ。ネルディ王国は東大陸全体で見ると、学生の魔法技術が平均より少し低めなのだ。最底辺ではないが、決して高くは無い。それが、今のネルディ王国の実状である。


 ………もう、そんな事は言わせない。示してみせよう、ネルディ王国の強さを。


「…ワタシが、かならず……!!」


 とある少女は、決意を新たに、代表選定戦へと臨む。しかしその熱意は本戦にのみ向けられている。何故なら確信しているからだ。この国最強の学生は、自分であると。さぁ、向かおう。勝利が確定している茶番の舞台へ。





「……ん…と。こんなモンか」


 身支度を整え、軽く動きを確かめてから呟く。今着ているモノはいつもの灰と白の服ではなく、濃紺と漆黒を基調とした戦闘服だ。とはいえ、魔法的な効果があるわけではない、丈夫なだけの運動服とも言える。ポーチの中をさらっていたら見付けたモノだ。特に深い意味は無い。


「さて、んじゃ行きますか」


 扉を開ける。すると、相変わらず部屋の前で倒れている馬鹿が数人居た。


「お前らも懲りないな。いい加減諦めたら?」


 嘆息しつつそいつらを跨いで廊下を進み、入口へ。するとそこにはやはり、ロットが待ち構えていた。


「おやおや、これはお客様。おはようございます。本日はお早いご出立ですね」


 こちらも相変わらずの張りついた笑顔で挨拶してくるロット。


「ん、まぁな。今日はちょっと用事があるからな」


「そうでございますか。………ふむ」


 そこで少し考え込むロット。不思議に思っていると、やがて口を開いた。


「空巣に入るなら、もう少し特徴の無い服のが宜しいのでは?」


「妙な勘違いすんな」


 いや、確かに盗人とかが着そうな色合いだけどさ、違うからな? 今日はそういうのは、違うから。


「おや、そうですか。それは残念」


「お前は俺にどうして欲しいんだよ」


 どうにもこいつ、俺に悪事を働いて欲しがっているんだよなぁ。でもさ、そうなるとやりたくなくなってくるよな。


「はぁ、時間ねぇし、もう行くな」


「そうですか。それでは、行ってらっしゃいませ。沢山稼げるといいですね」


「違うっての!」


 獄鳴亭を出る。なんかもうどっと疲れた。やっぱり帰って寝ようかな。リーナ、ゴメン! ってさ。


「…まぁ、怒られるわな」


 1つタメ息を吐いて、子羊食堂へと向かう。特に何事もなく歩いていると、スラムの終わり辺りで、見慣れた三人に出くわす。


「あ、おーい、ゴキゲン三馬鹿衆ー!」


「ゴギゲ三人衆だ何処の誰だオラァ……、おっとっと、アルの旦那じゃないですか」


「よう。……ところで、今俺に怒鳴ったか?」


 右手をゴキッとさせながら言うと、ゴリダンは慌てて首を振る。


「いえいえいえいえ!! そんな滅相もない! なぁ! 二人とも!」


「お、おう。そうですぜ旦那!」


「う、ウス!」


「あっそ。別にいいけど」


「「「ふぅ……」」」


 揃って汗を拭う三馬鹿ことゴリダン、ギムド、ゲンドウの三人。…つーか、昨日も思ったけどさ。


「お前ら、結構早起きなのな」


「ん? そうですかね? 普通に夜寝ればこんなモンじゃないですか?」


「意外と規則正しい生活してんのな」


 びっくりだ。


「それで、アルの旦那。何かご用で?」


「ん? 別に? 見掛けたから声掛けただけ」


「そうですか。…そういや旦那、知ってます?」


「んぁ? なにを?」


 ゴリダンの問い掛けにそう返すと、ゴリダンは懐から1枚の紙を取り出した。…くしゃくしゃだな。


「これなんですけどね」


「………あー…」


 ゴリダンが見せてきた紙に書かれていたのは、とある指名手配書だった。とはいえ、名前も肖像画も描かれていない文字だけのモノだが。


「凄いですよね、この金額。凄すぎてむしろ関わりたくないぐらいで」


「……そーだな」


 そこに書かれていたのは、黒い髪に緑の瞳、白と灰の服を着た青年を捕まえた者に、馬鹿げた大金を進呈するといった内容だ。つまり、俺だな。…そうか、遂に市井にも情報が流れたのか。


「これ、何処で手に入れたんだ?」


「これですか? これは道端に落っこってたのを拾ったモノです」


「……そうか」


 何だろう。自分の事が書かれているからか、少し悲しい。…つーか、道端に落ちてるって何だよ、もっと大事に扱いなさい!


「それ、どのぐらい広まっているんだ?」


「そうですね…。数は少ないですけど、大体の所に張ってあるかと」


「……そろそろ、潮時か?」


 この国に来てまだ数日だけど、そろそろ国を出る準備はしとくか。完全に知れ渡ったら、身動き取りにくいし。


「まぁ、いいや。教えてくれてありがとな」


「いえ、そんな」


「……ふむ、これやるよ」


 懐から硬貨を一枚取り出して、ゴリダンへ弾く。


「? って、これ、金貨じゃないですか!?」


「え? あ、間違えた。本当は銅貨やるつもりだったのに」


「いや、銅貨一枚貰ってもどうにも…。えっと、これは…」


 おずおずと金貨を俺に差し出してくるゴリダン。…んー、でもまぁ、いいか。


「いや、いいよ。それはお前らにやる」


「ぅえっ!? ほ、本当ですか!?」

「お、おいゴリダン! ちゃんも分けろよ!?」

「飯だ! 飯が食える!」


 一気に騒がしくなった三人。まぁ、喜んでもらえたようで。


「んじゃ、俺はもう行くからなー。じゃあなー」


「「「ありがとうございます!」」」


 三人揃って頭を下げた。そこから視線を外し、子羊食堂へと向かう。そこまで朝早いって程じゃないけど、スラムの奴らの生活サイクル的には早朝といってもいい時間帯だからか、人通りがまったくない。静かな道を進むと、やがてこじんまりとしたあの店が見えてくる。


「………ん?」


 食堂の前に誰か居るな。よくよく見てみると、リーナだった。流石に早いね。


「あっ、アル…さん!」


 一瞬複雑そうな顔をしたリーナだけど、すぐに笑顔で隠して手を振ってきた。なんだ? 緊張してんのか?


「よう、早いな」


「ううん、今着いたところだから」


「そうか」


「うん」


 一旦会話が途切れる。…ふむ、やっぱり緊張してんのかな? いつもの元気がねぇな。


「大丈夫か? 今日は大事な日なんだろ?」


「え? だ、大丈夫! …うん、大丈夫。そうだよ、大事な日だもんね、うん。……よーし!」


 ペチンと頬を叩き、気合いを入れるリーナ。少し赤くなったけど、その顔はやる気に満ちている。…大丈夫そうだな。


「アルさんこそ大丈夫?」


「ん? 俺?」


「そうだよ、アルさんだよ。アルさんが実力を示して私を推薦してくれないと、全部水の泡なんだからね?」


 あぁ、そういやそんな感じだっけか。…しかし、実力を示せ…ねぇ。適当に特級魔法ぶっぱなせばいいのか? それなら大得意だけど。


「ま、多分大丈夫だと思うぜ」


「多分かぁ…。でも、そうだね。やってみないと分からないもんね! よし、じゃあ行こ、アルさん」


「ん、了解」


 リーナに促され、後を着いていく。…そういや、まだ聞いてなかったけど。


「なぁ、リーナ」


「うん? なに?」


「いや、そもそも何処に行くんだ?」


「えっ? ……あ、そっか、そういえば言ってなかったかも」


 かも、じゃなくて言ってないぞ。


「えっとね、今から向かうのは私が通っている学校、『ネルディ王国立魔法学院』だよ」


「…魔法学院? …確か騎士錬成院とは違って、魔法のみを学ぶ所だっけか?」


「そうだよ」


 騎士錬成院とは、簡単に言えば騎士もして育てる場所だ。騎士は魔法だけではなく…というよりも、体術に重きを置く。体術、武器術といった、肉体を使う戦いが主だ。だけど、それだけでは魔法使い相手にどうにも出来なくなる。だからこそ、魔法も同時に覚えるが、一般的な騎士はあくまでも魔法を補助的なモノとして使い、基本は武器で戦う。一部、例外として魔法をメインで使う奴らもいるけど、それは本当に一部の、特に優れた奴ぐらいだ。

 そして魔法学院はその名の通り、魔法を学ぶ、魔法使いの為の場所だな。魔法に重きを置いているから身体能力はあまり向上しないけど、それを補うほどに魔法を覚える。もちろん、中には覚えの悪い奴もいる。場所によって異なるが、物凄い厳しい所では、どんどん退学者が出て、卒業出来るのがほんの一握りな学校もある。もちろんその分、卒業した奴は他の学校の奴に比べても突出しているけどな。


「にしても、学校ねぇ…」


「どうしたの? 懐かしくなった?」


「んや。そもそも俺は学校なんて行ってねぇしな」


「えっ!?」


 俺の言葉に驚き、立ち止まるリーナ。…どした? そんなに意外か?


「が、学校にも行ってないのに、あんなに魔法を扱えるの!?」


 あぁ、それか。


「んー…、学校ではねぇけど、学ぶ機会はあったからな」


「そ、そうなんだ…」


 そんなに驚く事かね。…驚く事か。まぁ俺の経歴は、ちょっとってかそれなりってかかなりってか物凄く一般人とは掛け離れているからな。


「…んで、その魔法学院って何処にあるんだ?」


「え、えっとね、お城から少し離れた…」


「ちょっと待った」


 待て待て、ちょっと待て。今少しばかり看過できねぇ事が聞こえたぞ。


「ど、どうしたの?」


「……もしかして、魔法学院って、貴族街の中なのか?」


「え、そうだけど?」


「……ぅぁー…」


 考えてみれば、魔法を学ぶのはかなり大変なんだよな。覚えるのもそうだけど、そもそも魔法書自体が割と高価なモノだから、平民庶民は殆どが目にすることもない。そんな高価なモノを教材としてるんだ。治安的な意味も含めて、貴族街か…。…そういや、あそこでも、魔法を学べるのは平民が易々とは入れない場所だったな。…忘れてた。


「……どうすっかな」


「あの、アルさん?」


 このまま行くと、まず間違いなく騎士連中に目をつけられる。……やっぱり、アレしかねぇか。


「リーナ、ちょっとこっちに来てくれ」


「え? う、うん」


 リーナを連れて路地裏に入る。そして誰もいない事を確認してから、リーナに告げる。


「リーナ、昨日言った事は覚えているか?」


「え…? ……えっと、確か、何があっても詮索しない…だったっけ?」


「あぁ。…約束出来るよな?」


「………。…あの、アルさん」


 …ん? 心なしリーナの顔が赤くなってる気が。


「ん?」


「…あのね、その…、詮索はしないけどね、その、……抵抗はするかも…。もちろん、ナニをするかにもよるけど」


「………何かよく分からんが、酷い誤解をしている気がするな。あー…、要は、俺が今からやる事に文句は言うなって事なんだけど」


「や、ヤる事…。…まさか、こんな路地裏が私の初めて…」


 両腕で体を抱き、顔を赤くしながら潤んだ瞳でブツブツ何かを言ってるリーナ。…やっぱり、酷い誤解をしている気がする。


「まぁ、いいや。やるか」


「っ!!」


 不安がりながらも何故か少し期待する様な目で俺を見るリーナ。それを無視して俺は魔法を唱える。


「《闇魅化(やみばけ)》」


「へ?」


 《闇魅化》を唱えて姿を変える。もちろん、変えた姿はジオだ。


「あ、アル……さん? ……! こ、この前の!?」


「まぁ、こうなるとは思ったさ」


 一度この姿で相対したけど、その時はメリシアのせいで面倒な事になったからな。


「ほら、落ち着け。…意味分かったか? 俺の条件の意味」


「……う、うん。…そっか、だからか…。…ねぇアルさん。アルさんの本当の姿ってどっちなの?」


「ん? そりゃもちろん、今までの方の姿だよ」


「…そっか。……よかった」


「んぁ?」


 何故か少し安心した感じのリーナ。…思ったよりは、動揺がないかな?

 お知らせ。


 とある事情により、暫く更新を停止します。閲覧して下さっている皆様にはご迷惑をお掛けします。再開予定は未定ですが、更新再開致しましたら、また読んでいただけると嬉しいです。


追記 諸事情により、次話の掲載を削除しました。あと少しだけ、待っていただけると幸いです。

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