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悪の限りを尽くす…つもり  作者: 雷抖
東大陸編
41/51

ガイア・ブルートーン

「………」


「フハハハ!! 馬鹿な奴だ。大人しくしていれば生き永らえたモノを」


 呪いを放ち、自らの勝利を疑わないオークマソが高らかに笑っている。笑う度に顎とも首とも分からない部分がプルプル震えていて、何とも気持ち悪い。


「……で? もう終わりか?」


「なっ!?」


 愉悦に顔を歪ませていたオークマソは、俺の声に驚愕した。…一々醜いな、早く視界から消し去りたい。


「ば、馬鹿な!? 《呪怠死(じゅたいし)》を受けて何故生きている!?」


「いや、何故も何も……」


 上級闇魔法《呪怠死》。呪い系の魔法でもそこそこ上位な魔法。これを受けたモノは一切の活動が面倒になり、心臓すらも役目を放棄する。即ち、死ぬという事だ。しかも呪い系の陰湿なトコは、死が定着すると同時に身体と混じり合って、痕跡を無くす所だ。他の魔法なら、その情報が身体に残っているからどんな魔法を使われたのかが分かるけど、呪い系はその痕跡を消し去る。だから、どうやって死んだのかが分からなくなる。


 と、そんな呪い系の魔法だけど、対抗策が無い訳じゃない。1つ目は、光魔法や流動魔法による防御。光魔法は闇魔法と相性がいいから、頑張れば中級魔法の《光纏(こうてん)》でも防げるし、流動魔法は魔力の流れに干渉出来るから、魔力の供給を止めれば発動自体をキャンセル出来る。ま、こっちのが手軽だな。

 んでもう1つは、耐性を上げる。耐性はその魔法をどれだけ理解しているかが重要だから、耐性を上げたいならその魔法を覚えるのが一番だ。つまり、使うのが得意な魔法は受けるのも得意って事だな。他には装備品とかで補うのも手だけど、効果はあくまでも底上げ程度。根本的な解決にはならない。


 そして現状、俺は特級までも扱える闇魔法使いだ。いくら致死率が高いとはいえ、上級程度ならどうにでもなる。…まぁ、これが気魔法だったり光魔法だったらちょっとヤバいけど。だってそもそも使えないから耐性も上がらない。源系統や聖系統の強者は相手にしたくないんだよね。


「俺、闇魔法は得意なんだよね」


「と、得意程度で防げる魔法では無いぞ!?」


 一番得意なのは別だけど、その次に得意なのは邪系統の魔法だ。《闇魅化(やみばけ)》しかり、《痺縛(ひばく)》しかり。まぁ、魂魄魔法は使えないんだけどね。


「んで? 他に何か使えんの? もう無いならさっさと終わらせてもらうけど」


「ぐぐっ…!!」


 俺の言葉に顔を歪めるオークマソ。…お、何かやる気だな。魔力が手に集まっていってる。


「…ォォ、死ねっ! 《影断撃(えいだんげき)》!!」


「邪魔」


「馬鹿な!?」


 上級闇魔法《影断撃》。影さえも断ち切る一撃を放つ魔法だ。具体的には、地面からズドドドドって暗い影みたいなモノが飛び出て、戻る。それがどんどん相手に近付いていく。その影は鋭利な刃物みたいに切れ味が鋭く、触れれば文字通り全てを断ち切られる。

 とはいえ、これも上級魔法だ。ちょっと気合いを入れて振り払うと、影が霧散してオークマソがまた驚愕した。


「…んじゃ次は俺なー」


「なっ、ま、待て!」


 自信のあった魔法を簡単にあしらわれたからか、僅かに怯えるオークマソ。


「《影撃(えいげき)》」


「は?」


 掌にボワッと黒い塊を生み出す。本来なら詠唱と同時に射出されるけど、慣れれば留める事も出来る。オークマソは理解するまで間抜けな顔を晒していたけど、俺が唱えたのが下級魔法だと理解した途端、明らかに嘲るような顔をした。イラッとする。


「は、ハハハ! 何をするかと思えば、下級魔法ではないか! そうか分かったぞ! 闇魔法の耐性を上げる装飾品でも身に付けているんだろう! だから余裕を見せていたのだな! だが、残念だったな! 下級魔法程度ではこの私に傷をつける事などとても…」

「もう黙ってくれない?」


 《影撃》をオークマソに向けて放つ。影の塊は一直線に進み、オークマソに命中した。


「フハハハ! その程度の魔法、防ぐまでもなゴブォッ!!!?」


 俺が放った《影撃》は、弛みきったオークマソの腹部に当たり、そしてその身体を吹き飛ばした。飛んだオークマソは壁みたいな建物に激突する。


「ゴ、ゴブォッ……! な、何だ今のは…? 本当に《影撃》か…?」


「もちろん《影撃》だ。まぁ、お前とは練度が違うけどな」


 下級魔法といえど、極めればこれほどの威力となる。まぁ、生半可な覚悟じゃ辿り着けない境地ではあるけど。


「まだ、やるか?」


「ぐ…、わ、私はオークマソ家の…!! こんな所でこんな愚民に負けるなど…!!」


 はぁ、これだから貴族は嫌なんだよ。無駄にプライドが高いから諦めが悪い。…いっそ手足の三、四本ぶち折ってやろうか?


「そこまでだ!!」


「ん?」「おおっ!」


 ちょっと危ない事を考えていると、そんな声とともに誰かが…ゲッ。


「貴様は既に包囲されている! 無駄な抵抗はせずに大人しくしろ!」


 現れたのは白銀の甲冑に身を包んだ集団。そう、【明光騎士団】だ。集団の中から、顔を覆い尽くすフルフェイスヘルムを被った隊長っぽい奴が歩み出てきた。


「さぁ大人しく…!?」


「ん?」


 何だ? フルフェイスが俺の顔を見て戸惑ってるっぽい。どっかで会ったか?


「お、おぉ! 貴方は【護封】の副隊長であらせられるブルートーン殿ではないか!」


 説明乙でーす。…じゃねぇよ、何元気になってんだよ………あ、そういや確かこいつ騎士団の幹部と懇意だとか言ってたっけ。…となるとマズいな、俺の言葉は無視されるかも。


「……いかにも、僕は【明光騎士団】第一部隊【護封】副隊長、ガイア・ブルートーンだ。言っておくけど、反逆者に手心は加えない。覚悟するんだね」


「………チッ」


 こいつは、本物だ。他の連中はわりと有象無象だけど、こいつだけは本物の実力者だ。それこそカルスやセインスに匹敵する、実力者だ。…面倒な相手だな。


「…わざわざ、【護封】が出張ってくるとはな。あんたらの管轄は貴族街じゃなかったか?」


「普段ならそうだけど、今は少々事情があってね。管轄を越えて出動する必要があるんだ」


 ……つーかこの副隊長、フルフェイスで声が篭っているけど、なんか幼い感じがするぞ。言葉遣いも軽いし、いいのか? 騎士団。


「ふ、フハハハ! いくら貴様でも、騎士団が相手ならどうする事もできまい! 勝負あったな!」


 うぜぇ。この上なくうぜぇ。俺を指差して嘲笑するオークマソ。…やっぱりぶち折るか。背骨もボキッて。


「……何か勘違いをしているみたいだね」


 フルフェイスことガイアは、オークマソに冷めた口調で言いながら、俺の隣に立った。……ん?


「僕達が用があるのは君だよ、ブルフ・オークマソ。」


「な…、なんだと…?」


「君には現在、禁忌魔法である呪術系魔法を使用した疑いが掛かっている。また、その解呪を餌に複数の女性に淫行の強要を迫った疑いもね。…まぁ、疑いじゃなくて事実だろうけど」


 うわぁ、この豚そんな事までやってたのか。…まぁ、俺が居なかったらミスラ達もヤられていたかもな。……もう死刑でいいんじゃね?


「ば、馬鹿な! な、何を根拠にそのような…!?」


「大丈夫、しっかりと証拠は揃えたから。苦労したんだよ? 呪術系の魔法は痕跡が残りにくいから、魔力の特定に時間が掛かったしね」


 呪いを受けて死ぬとその呪いは身体と混ざって定着し、根拠が消え去る。しかし呪いが掛かっている状態や、呪いを解いた場合は、どんな魔法だったのかが特定出来る。とはいえそう簡単ではないけどな。また、残っている魔法の跡から魔力を解析すれば、誰が放ったモノかも特定出来るけど、その難易度はすこぶる高い。よくやるよ。


「どうやら、解呪した場合は魔力痕が残る事は知らなかったみたいだね」


「う……ぐ…」


 顔を歪めに歪めたオークマソ。ガイアさんよ、追い詰めるのもいいけど、追い詰めすぎると碌な事にならないぜ? なーんか、嫌な予感がするね。

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