三級フラグ建築士
「「ほんっとーに、すみませんでしたー!!」」
「いや、別にいいよ。…ちょっぴり心の傷は負ったけど」
《雷閃》を蹴っ飛ばした後、とりあえず話をしようって事で院内に入り、椅子に座った所で二人が慌てて立ち上がって謝罪してきた。因みに俺が座っているのはユマの席で、当人たるユマは何故かずっと俺の背中に張り付いている。あ、待って、あんまり首絞めないで、苦しいから。………ふぅ。
「すすす、すみません!!」
俺の言葉に、ちょっと小柄な方の子が謝った。
「あぁ、スマン、別に気にしてねぇから大丈夫だって」
「で、でも…」
俺が気にしてないって言っても納得しない二人。意外と真面目だな。
「……んじゃ、お詫びとしていくつか質問に答えてくれ。もちろん、答えたくなかったら無理には聞かねぇけど」
少し気になる事があるしな。
「は、はい! なんでも答えます!」
「アタシも! …因みにミスラのスリーサイズは上から8もが…」
「わーっ! わーっ! ななな、何言ってるの!!?」
仲良いな。
「いや、別にそれ関係が聞きたい訳じゃねぇから」
ん? 何故かミスラって子が落ち込んだ。まぁいいや。
「とりあえず、自己紹介して貰っていいか?」
名前が分かんねぇと呼ぶのに不便だからな。俺の言葉に、ミスラが少し落ち込みながら口を開いた。
「…私の名前はミスラです。スリーサイズは教えませんけど、歳は15です」
「いや、だからそれはいいって」
? 何故にまた少し落ち込む?
「あはは…。えっと、アタシはスニア! スリーサイズは上から85・56・82だよ! そしてミスラと同じく歳は15だよ!」
「ハッ」
「鼻で笑われた!?」
驚愕するぺったんさん…じゃなくてスニア。小柄なぺったんさんが見栄を張って自爆したと同時に、隣に立つミスラが何かに気付いた様だ。スニアに食って掛かる。
「…ってスニア!? 今の私のサイズじゃ!?」
「言わなきゃ分かんないのにー」
「はっ!!?」
うん、まぁ、あれだ。こっちも自爆だな。…スニア、恐ろしい子! ミスラが床に崩れ落ちたけどいいや。
「っと、俺も言っとくか。俺はアル。カナトに聞いた通りの人間ではないのでよろしく」
「うん、よろし……今なんて?」
「あ、アルさん!?」
よろしくと言いかけたスニアが俺の言葉に疑問を持ち、カナトが慌てる。多分カナトは俺を聖人君子みたいな感じに言ってそうだからな。それどこのアルさん? 俺は知んない。
「ま、それは置いといて、質問いいか?」
「ちょっと置いとかれたくないけど、どうぞ」
若干不信感を抱いてるスニア。ハラハラしてるカナト。未だに落ち込んでるミスラ。何か寝てるユマ。…お前、大物になりそうだな。
「とりあえず1つ目。何で俺、あそこまで散々に言われたんだ? 二人と面識は無いと思うんだけど」
「あー…、やっぱりそれかー…。……まぁ、迷惑掛けちゃったし仕方ないか。…実は今日お店でちょっと嫌なお客の相手をしたんだけど、それがその……ね…」
歯切れ悪く言葉を濁すスニア。…つまりあれか。
「その嫌な客ってのが俺に似てたって事か」
俺の言葉に申し訳なさそうに頷くスニア。
「…ごめんなさい」
「いや、そういう事なら仕方ねぇしな。…まぁ、そこまで似てる奴がそんな嫌な奴ってのは何か嫌だけど」
下手すりゃそいつのとばっちり受けんじゃね? …いや、逆にそいつが俺のとばっちり受けるかも。強盗で捕まんないかなそいつ。
「んじゃ次の質問。さっきも言ったけど、言いたくなかったら言わなくていいからな」
「うん、どうぞ」
「…お前らって、何処で働いてんの?」
瞬間、明らかにスニアが嫌そうな顔をした。すぐに元に戻ったけど、バッチリ見た。ミスラも踞る振りをしながらこちらを窺ってる。…やっぱり言えない感じの店か。
「……それを聞いて、どうするの?」
声に若干の怯えが。………ふむ、特に気配は感じないけど…。
「いや、別にどうもしねぇよ。例え言えない感じのトコでも特に興味ねぇし」
「………」
こちらを窺いながら考え込むスニア。これは流石に言えないか? ま、別に良いけど。……スニアだけじゃなくミスラも反応がおかしいな。カナトとユマは特に何も無い所を見る限り、やっぱりあれか?
「………助けられたし、迷惑も掛けた…」
「ん?」
スニアは小さく何か呟いた後、意を決した様に俺を見る。
「アタシ達が何処で働いているか…だよね?」
「おう」
「……アタシ達は、スラムの側にある『シーフィランプ』ってお店で働いてる」
「『シーフィランプ』? 何の店なんだ?」
「うぐ…」
意地が悪いか?
「…その、そのお店は、……………です」
「………今、なんて?」
聞き返すと、スニアは顔を赤くしながら答えた。
「お姫様喫茶…です」
「……………」
……………………………………ん?
「……あ、あの…?」
何の反応も示さないからか、おずおずとスニアが呼び掛けてきた。………いや、ちょっと待ってくれ。
「ちょっと待った。………カナトー、ちょっと来い」
「ぅえっ!? 僕ですか?」
カナトを呼び、スニア達から少し離れてから小声で話す。
「……おい、どういう事だ?」
「……ど、どういう事とは…?」
「……お前言ったよな、年頃の二人が働く様な所って」
「……え、えぇ、ですからその通りでしょう?」
確かにその通りだけど、こんな所に住んでて、年頃で、ってきたら………。いや、ただ単に俺が勘違いしただけか。
「…あぁ、そうだな。悪い」
「な、何で謝るんです?」
「こっちの話だ」
ヒソヒソ話を終え、席に戻る。あ、ミスラが復活してる。
「突然どうしたんです?」
「……いや、ちょっと再認識しただけだ。そういやカナトはまだ十歳なんだよな。………ハァ」
「?」
「……んで、そのお姫様喫茶ってのは一体何なんだ?」
俺が言うと、二人が顔を赤くする。………どうした?
「……その、お姫様喫茶っていうのは、私達がその、お姫様の恰好をして接客する喫茶店の事です」
「……………はぁ?」
何だその店。馬鹿なのか?
「アルさん、知らないの? 東大陸で今流行ってるお店なんだよ?」
「………大丈夫か、この大陸。…とりあえず、分かった。意味分かんねぇのが分かった。…んじゃ最後の質問」
「うん」
一番気になった事を聞く。
「……お前らが言ってたその嫌な客と、何があった?」
予想外だったのか、困惑する二人。…けど、俺の予想が正しかったら、何かある筈だ。
「……分かり…ました。お話しします」
「…いいの? ミスラ」
「……仕方ないよ。…いつも通り働いている時でした、あの男が店に来たのは」
以下、ミスラの話を要約。
その客は店内の従業員(全員女子)を下卑た目つきで舐める様に見た後、接客する為対応しにきたミスラに向かって、色々と下衆い事を言ったらしい。
たまにそういう客がいるのは知っているから、最初はきちんと対応していたけど、それで調子に乗った男が夜の交際を迫ってきたそうだ。
もちろん却下したけど、既に手遅れなその男がミスラの身体に触れてきて、それを引き離したスニアにも迫ってきた所で、店長から騎士団に通報した旨を告げられて、逃げていったそうだ。
「……と、いう訳です」
「…………やっぱりか」
「え?」
今の話を聞いて確信した。…回りくどい事してんなぁ、おい。
「…ちょいと失礼」
「「え?」」
困惑する二人の額に手を当てる。瞬間、二人が暴れる。
「ちょっ! 何するのよ!?」
「やめっ、やめろよ変態!!」
「《静状拍》」
「「!?」」
俺の魔法を受けた二人は、数秒動きが止まった後、俺の手を払って後ろに下がる。
「な、何をした……の…!?」
「この、へんた……い…!?」
「あ、アルさん? 一体何を…?」
二人が再び止まった所で、状況が分からないカナトが問い掛けてきた。
「ん? …見てれば分かるよ」
「え?」
信じられないモノを見ているかの様なスニアとミスラだったけど、やがて再起動し、震える指で俺を指して問い掛けてきた。
「「………誰?」」
よし、ちゃんと解けたみたいだな。上級精神魔法《静状拍》。状態魔法等によって受けた状態異常を癒す魔法で、精神状態を正常にする効果がある。前に使った《静拍》はこれの下位版の中級精神魔法だ。《静拍》は自分にしか効果が無いけど、《静状拍》なら術者が触れている者にも効果がある。
いくらなんでも反応が少しおかしかったから掛けてみたけど、やっぱり何かしらの魔法を使われていたみたいだな。多分、特定の特徴を持つ人物に強い嫌悪感を抱かせる魔法か? その魔法に心当たりはある。
「調子はどうだ? ちゃんと俺が見えてるか? …さっきとは違う姿で」
俺の言葉に、未だに混乱している二人はこくりと頷く。
「…十中八九、お前達に魔法を掛けたのは、その嫌な客って奴だな。そいつに触れられた時、触った時に掛けられたんだろ」
「そ、そんな…」
「全然…、気付かなかった」
「まぁ、無理もない。掛けられてたのは恐らく上級闇魔法の《呪界視》って魔法だからな」
上級闇魔法《呪界視》。相手の視覚に干渉して、特定の特徴を持つ人物を深く敵視させる魔法。仲間割れさせるのにピッタリな悪趣味な魔法だ。…一応俺も使えるけど、こういう呪い系のは好みじゃない。…そう、呪い。魔法であり魔法でない呪い系の魔法は、痕跡が残り難い。魔法探知にも引っ掛かりにくいから、最初は分かんなかった。…それに、呪いはそのままにしておくと精神に定着して、融合する。そうなったら解除は至難の技だ。
幸いにも二人は今日やられたばかりだったから事なきを得たけどな。
「とはいえ、もう呪いは解いたから大丈夫だ。安心しろ」
「「………」」
「………ん?」
何故か二人がボーッと俺を見つめている。心なし顔が赤いな。………まさか。
「…まだ、解除しきれてなかったか?」
精神魔法はそこまで得意じゃねぇからな…。確認した方がいいな。
「スニア」
「は、はひ!?」
…やっぱりおかしいな。
「ちょっと手、出してくれ」
「へ? …こ、こうですか?」
そろーっと出された手を両手で包む。魔力の流れを視る為の措置だ。
「あっ……!」
「ちょっとだけ、我慢してくれ」
目を閉じ、魔力の流れを視る。………ふむ、正常だな。となると、何で挙動不審になっていたのか。…ミスラの方からの干渉か?
「…ふぅ、悪かったな」
「あ………」
何故か少し残念そうなスニアから、何かを期待しているミスラへと顔を向ける。…? どうした? お菓子は持ってないぞ?
「ミスラも手を…」
「はいっ!」
「お、おう……」
何故か即座に手を出してきたミスラ。その手を両手で包む。
「はぅ………!」
「………」
やっぱりミスラに何か残っているのか? 目を閉じて魔力の流れを視る。………あれ? ミスラも正常だ。…んじゃ、一体何が?
目を開けると、目を閉じて口元をニマニマさせているミスラと、それを見て歯を食いしばっているスニアが視界に映る。…え、どういう状況?
「…えっと、悪かったな」
「あ………」
スニアと同じく何故か少し残念そうなミスラ。………女の子って、よく分かんねぇな。
フラグ建築士は三級、二級、一級、特級の四段階にわかれており、特級フラグ建築士になると称号として『異性の心を極めし者』『ハーレムマスター』、『同性の怨敵』、『夜道と背後にご注意を』などが贈られます。また特典として、某バレンなあの日に『愛憎入り交じるカカオ菓子』が自宅や仕事先、果ては道端や屋根の上で渡されるイベントが強制的に発生しますので、当日は是非同性の嫉妬を一身に受けやがれこんちくしょうでございます。
嘘です。




