決着
「お……らぁぁ!!」
ゴーレムの背面を斬る。そしてそのまま背面を足場に飛び上がり、頭を斬り飛ばす。
「ォォォ…」
吹っ飛んだ頭から小さい呻き声が上がるがそれを無視して棒立ちのゴーレムを蹴っ飛ばす。ゴーレムは抵抗もなく倒れるが、すぐに起き上がり頭の再生が始まる。
「フッ…!!」
その隙を乃逃さず、セインスが屈みがちなゴーレムの胴体に次々と風穴を開けていく。ゴーレムを倒すには、原動力である核を壊さなくてはならない。核を壊さない限りは永遠に再生し続けるからだ。
しかも厄介な事に核を壊すには、一点集中の攻撃で貫かなくてはならねぇ。面での攻撃じゃ壊せないみたいだ。だからこそ、さっきの特級魔法二連発でも倒せなかった。
「ォォォォ!!」
「…く、また外れか」
そう溢すセインス。…これでもう何度目なんだっつー話だよ。
「…おい団長さんよ、いい加減決めてもらわねぇとこっちももたねぇんだが」
「…私としてもどうにかしたいんですけどね、中々大変なんですよ」
「……ハァ、それでもやるしかねぇからな」
「そうですね。…さぁ、いきまょう!」
言葉を交わし、再びゴーレムへ迫る。
「………ん?」
よく見ると、ゴーレムの体色が変化してるような…? さっきまではくすんだ灰色だったのに、今は少し赤みがかっている?
「ォォ…ォォォ!!!」
「嘘だろ待てぉがっ!!、」
「カルスさん!?」
「隊長!?」
劇的な変化ではなかった。だけど、慣れ過ぎるほど慣れた速度から僅かに速くなっていて、回避が遅れた。殴り飛ばされ、セインスとメリシアが俺を呼ぶ。
「……ゴホッ…。やってくれたなおい…!」
騎士団でも隊長格だけが着けられる金の甲冑が悲惨な事になってるぜ…。ったく、これ直すのにどんだけおここど言われるか知ってんのか畜生。
あーもういい。後を考えて余力残しとこうと思ったけど、んな事言ってられねぇな。
「セインス!!」
「! なんです!?」
「ぶっぱなすから後頼んだぞ!!」
「!! …分かりました!」
これでよし。…さぁいくぞ石ころ野郎、粉々になりやがれ!!
「オォォォォァァア!!」
残り少ない魔力を振り絞り、剣に込める。この剣は魔力を蓄積させる事が出来て、何も無い状態で放つよりも高い効果を発揮出来るようになる魔道具の一種だ。魔法武具って奴だな。
「吹っ飛べ!! 《覇皇斬》!!!」
特級気魔法の《覇皇斬》。極限まで圧縮した気を解き放ち、全てを吹き飛ばす不可視の一撃を放つ魔法だ。だが、俺が持ってるこの剣の効果によって、超強力な斬撃を放つ魔法となっている。
俺の一撃がゴーレムにぶち当たる。そしてその身体を真っ二つに切り離し、追加効果の衝撃波で抉り飛ばす。
「セインス!」
「分かってます!!」
これを逃せば勝機がほぼ消える。呼び掛けると、セインスは答えつつ魔法に集中している。そしてゴーレムの再生が始まった瞬間、その中心に向けて渾身の魔法を放った。
「《貫裂閃》!!!」
セインスの剣から眩い光が解き放たれ、ゴーレムの紅い核を正確に穿ち貫いた。
「ォォ……ォ…ォォォ……」
核を貫かれたゴーレムは小さな呻き声を上げ、ビクビクと痙攣し始める。やがて一回大きく震えた後、ガラガラと崩れ落ちた。同時に、俺も崩れ落ちる。
「隊長!」
「あー…、もうダメだ…。腕一本動かねぇ」
指は動くけどな。
「…お疲れ様でした、カルスさん」
仰向けに倒れる俺の元に、確かな足取りで歩み寄ってくるセインス。…流石は団長殿、あれだけ魔法使ってまだ大丈夫なんだもんな。
「ホントに疲れたぜ…。もうこりゃあれだな、筋肉痛確定だな」
「はは、三日後にですか?」
「よし分かった喧嘩売ってんな? 動けるようになったら覚悟しろよ?」
「あははは」
「……隊長、元気そうですね」
なんて話してると、よたよたとメリシアが歩いてきた。
「何処をどう見ても満身創痍だろうが」
「そうなんですけどね…」
しかしそれにしても…
「メリシア、お前さんまた随分と過激な恰好してんな」
今のメリシアは甲冑が殆ど無く、下の服もボロボロで目のやり場に困る。ホントごちそうさまです。
「訴えますよ?」
「心の中すらダメなの!?」
「……何を考えてたんですか…」
あ、止めろ、そんなゴミを見る様な目で見るな!
「…仲が良いですね」
「ん? あぁまぁな…」「いえ、まったく」
「………」
「…何で泣きそうな顔するんですか」
心にちょっぴり傷を負った所で、あることに気付く。
「…つーかあの黒い奴何処行った?」
「「あ」」
俺の言葉に、二人が慌てて周りを見回す。しかし何処にも見当たらない。
「…しまった、逃げられたか…」
「…申し訳ありません。戦闘に参加していない私が見張っていれば…」
「いや、ゴーレムに気を取られ過ぎた私達も同罪だから、気にしなくていいよ」
「ですが…」
「隊長ー!」
遠くから声が聞こえてきた。
「ん? リルか」
大蜥蜴にてこずってた【閃鈴】の隊員。そういやあいつも途中から見なかったな。そのリルが、何かを引摺りながらこちらへ走ってきていた。
「そちらも終わったんですね」
「あぁ、何とかな。…んで、どうした?」
「いえ、こいつがコソコソ逃げようとしてたんで、捕まえときました」
そう言って引き摺ってた何かをこちらに見せる。それは、黒衣の男だった。今は顔を覆っていた布も取り払われていて、その顔を晒している。
「おぉ、でかした!」
「へへ、でしょ?」
「うん。本当に良くやってくれた。これで、奴らの尻尾を掴めるだろう」
盗賊団【カジーフロット】。その幹部を遂に捕らえる事が出来た。
「…漸く、一歩前進だな」
「えぇ。…ひとまずは帰りましょうか。他の団員達の治療もしないといけませんし」
「本来ならその必要は無い筈なんだがな」
「あはは」
「誤魔化すな」
「…あの」
メリシアがおずおずと聞いてくる。
「ん、どうした?」
「……今日中に帰れますか?」
そういやなんかずっとそわそわしてたよな。明日何かあんのかね。
「……早くても明日の夜ですかね」
セインスの答えに、あからさまに落ち込むメリシア。
「そう…ですか」
「何故です?」
「…明日、妹が魔導総戦の代表を決める戦いをするんですけど、その時に実力のある推薦人が同伴していないといけないんです」
「あぁ、それで。…でも、他の誰かに…」
「…探したのですけれど、見つからなくて」
「…まぁ、急な出兵でしたからね。申し訳ない」
「い、いえ、それは仕方ないですし…。伝が無い私達のせいですから」
あーあ、落ち込んじゃったよ。
「苛めんなよ団長」
「いや苛めてないですよ!」
しかし、そりゃ不憫だな。
「……そういう事なら、もう一人押さえておかばよかったかな」
「え?」
「いえ、私の妹も明日の代表決定戦に選ばれているんですが、私が行けそうに無かったので、副隊長に代わりをお願いしていたんです」
「……そう…なんですか…」
「…てか妹居たんだな」
「はい、可愛い声のやんちゃな妹が一人」
「へー…」
「………」
まぁ何だ、運が悪かったってことで。…言ったら蹴っ飛ばされそうだから言わねぇけど。




