土くれの巨兵
「オラッ!」
「ブギュォッ……!」
「うし、これで終わりだな」
オークの首をはねた剣を払いながら、隊長は言った。その隊長の言葉通り、オークは今ので殲滅完了だ。
「おや、意外と時間掛かりましたね。鈍りました?」
「はいはい。団長殿には敵わねぇよ」
「おっと、失言だったかな」
「言ってろ」
二人はオーク殲滅の折、どちらが速く半分のオークを狩れるか競っていました。結果は聞いての通り、団長の勝利です。
「さて…と。これで貴方の手駒は全て倒した事になるのでしょうか?」
団長が黒衣の男に問い掛ける。…あの、まだ先輩が大蜥蜴と戦ってますよー…。
「…これが、騎士団の団長と副団長の実力という事か」
あ、黒衣の男も先輩に触れない。…あの、私は、応援してますよー…。頑張れー…。
「そういうことです。さぁ、もう何も無いなら、大人しく投降しなさい」
「ゼァァァ!」「ゲギョァァ!」
「…ふん、これで終わる私ではない」
「おわっ!?」「グゲァァ!!」
「へぇ、まだ何かあるってか?」
「のやろォ!!」「グギァ!?」
「貴様らがオークにかまけていてくれたおかげでな」
「うぶわっ!?」「ギャグァァ!!」
「そうかい、それなら「「ラァァァァ!!!」」…うるせぇぇぇぇぇ!!!!」
隊長が背後の戦闘音に我慢出来なくなって、乱入しました。…正直、私も気になり過ぎていて会話が耳に入っていかなかったので、良かったです。
「……ふぅ。さて、まだ何かあると?」
団長が後ろの事を無かった事にして話を進めました。
「……そうだ、貴様らは全員ここで死ぬ。……さぁ、蹂躙しろ!」
黒衣の男がそう言い放った直後、床が大きく揺れ始めました。
「出でよ土くれの巨兵、ゴーレムよ!!」
ドゴォォォォン!!!
団長と黒衣の男の間の地面が突然膨らみ、そこから巨大な腕の様なモノが出てきました。その腕が地面を掴み、どんどん何かが地面から出てきます。
「……これは、悠長な事をしていなければ良かったかな…」
ボソッとした団長の呟きが聞こえてきました。…まさか、団長でさえ気を引き締めなくてはならない相手…?
やがて、その巨兵がその姿を全て現しました。巨兵とはいっても、洞窟内なのでそこまで大きくはないけれど、それでもゆうに4、5メートルはありそうな巨躯です。形は人型だけど、異形の姿をしています。腕は太く長く、肩から肘までで既に膝近くまで伸びていて、そこから手までは足よりも長く、地面についてしまっています。
足はその姿からすると丁度いい長さだけれどかなり太い。土くれの…とか言っていたけれど、材質は岩のよう。
「……こりゃ、想像以上のデカブツが来やがったな」
「あれ、もう倒したんですか?」
見ると、隊長が団長に合流していました。
「いや、あと少しで倒せそうだから任せてきた。……流石にこんなのを放ってはおけねぇだろ」
「そうですか。…そうですね、正直これは厄介ですね」
「……ゴーレム、確かランク自体はBだったか?」
「えぇ、ランクは…ね。でもそれは戦闘面以外の欠点が目立つからランクが下がっているだけで、実質戦闘力はAランクと比べてもかなりのモノですよ」
「そりゃ……、…厄介だよな」
二人はそう言って、険しい顔のままゴーレムを睨み付けます。
「やれ」
黒衣の男がそう言った瞬間、ゴーレムの目が光り、動き出しました。
「っと、来たぞ!」
「カルスさんは左から、私は右から…」
「ォォォォォ!!」
低い唸り声と共に放たれた一撃は、大きく床を抉り岩の礫を辺りに撒き散らします。
「がぁっ!?」「ぐっ……」
二人共直撃は免れたみたいだけど、その余波だけで少し飛ばされています。…なんてデタラメな威力。
「…セインス」
「…えぇ、出し惜しみしている暇はありませんね」
「だな。…《覇剛纏》」
「《閃纏化》」
不可視の気合を纏う隊長と輝く光を纏う団長。恐らくは特級魔法。…私にはまだ、扱えない領域。
「行くぞオラァ!!」
叫び、駆ける隊長。一息で彼我の距離を縮め、剣を振るう。
「あぁ!?」
「ォォォ!」
「ゴッ…!!?」
しかしその一撃はゴーレムの身体を傷付ける事が出来ず、弾かれた隙を突かれ、あの一撃をモロに受けて、隊長は壁に激突した…。
「隊長!?」
「…ッラァ!! 痛ってぇな畜生が!!」
土煙を払って出てきた隊長は、毒づきながらも確かな足取りでゴーレムへ向かっていた。…あれで、殆どダメージが無いの…?
「ォォ…」
「おっと、相手はカルスさんだけではないだろう?」
隊長の方を向いていたゴーレムにそう告げる団長は、一瞬でゴーレムに肉薄し、その背中を切り裂いた。
「ォォォ!」
「遅いね…」
腕を伸ばしながら振り向くゴーレム。しかし団長は一瞬でその場を離れ、気付いたらゴーレムの左足を斬っていた。
「……硬い…な」
けれど、今度は微かに跡がついたのみで、効果を為していない。再びのゴーレムの攻撃を避け、隊長の傍に移動する団長。
「どうやら、腕や足は異様に硬いみたいだね」
「なら、狙うは上か」
「補助は?」
「いらねぇ、どうにかする」
「分かった」
短く言葉を交わしたあと、二人は別の方向から攻めていった。団長がその素早さを活かしてゴーレムの動きを撹乱し、隊長が隙を突いて確実に削る。
そうしてどれだけ過ぎただろう。恐らくはまだ数分しか経っていない。けれど、既に数時間も戦っている様にも思えた。削れてはいる。ダメージは通っている。けれど決定打がない。
「…くそ、これ以上はマズいな」
「…ですね」
そう言って、二人は魔法を解く。常時発動型の魔法は特に魔力の消費が激しく、それが特級ともなると、桁外れの消費量の筈だ。いくら二人が特級魔法使いだとしても、そう長くは使えないみたい。
「…このまま消耗戦やんのは馬鹿らしいし、デカイのぶっぱなすか」
「……それでダメだったら、かなりキツくなりますけどね」
「それ以外の策は?」
「……いえ、やりましょう」
途端に、二人から離れていても感じられる程の魔力が。そして、二人が、放った。
「《覇皇斬》!!!」
「《光爆尖》!!!」
音が消えた。視界も消えた。余りの衝撃に、感覚が吹き飛ぶ。しばらくして、徐々に感覚が戻る。
「……これ…は」
目に映ったのは、ドロドロに熔けて赤熱した床と、吹き飛んだ壁と天井、そしてゴーレムの残骸。
「……やったか?」
「…何故だろう、その言葉を聞くと不安が」
「あ?」
「………ほら」
「………マジか」
何と、ゴーレムの残骸が辺りの岩を取り込みながら再生していく……!
「…冗談キツいぜ…、あの耐久力で自己再生機能付きだと?」
「…ちょっと、マズいですね」
「……セインス、残りの魔力は?」
「……少し無理すれば、特級が二発…といった所ですかね。カルスさんは?」
「…特級一発放ってぶっ倒れるな」
「…マズいですね」
「…マズいな」
再生が完了したゴーレムを辟易しながら見る二人。…手伝いたいけど、身体が動かないし、魔力も回復しない。…もどかしい。




