二人の実力
人間、極限状態になると、信じられない力を発揮するわよね。
「フッ…フッ…」
迫りくる溶解の舌を紙一重でかわしながら近付き、着実に傷を増やしていく。
「ゲギョォォォッ!!!」
「ハッ…!」
当てられない事に苛立っているのか、段々と粗雑に、しかし更に素早く攻撃してくる大蜥蜴。とはいえ、攻撃自体が単調になっているなら、例え目で追うのがやっとの攻撃も避けられる。
そうして避けながら斬り続けてどれぐらい経ったか。遂に、大蜥蜴にかなり大きな傷を与えられた。そしてそれを境に、大蜥蜴はその動きを急激に鈍らせ始めた。
「グゲキョ……」
「セァッ!」
そして致命的に動きが鈍くなった瞬間を見計らい、憎き邪魔尻尾を断ち切った。
「グギィァァ!!」
「ヤァァァ!!」
残る力を振り絞り、暴れまわる大蜥蜴の首を、寸断する。
「ゲグッ……!?」
「これで…」
終わったと、思った。背後で、切り落とした尻尾が、跳ねた。そして、無防備な私を、打った。
「ぁ……」
それは、そこまで威力の高い一撃ではなかったし、何かの布石でもなかった。その一発を最期に、大蜥蜴は絶命し、その姿が消え失せたから。けれど、既に限界だった私には十分過ぎる一撃で、私は力なく倒れた。
「……ダメ、力が…入らない…」
何とか意識は保っているけど、身体に力が入らない。…仕方ない、少し休もう。
しかし運命はそれを許さない。
「ブヒ、ヒヒヒ…」
「!!!?」
のそり…と、何かが立ち上がる。それは、特に描写もなく吹っ飛ばされた最後のオークだった。
「ブリュヒ…ブリュヒヒ」
「や、やめろ…来るな…!」
生命の危機だったからか、私の姿のせいか、一部を膨らませた豚が、ゆっくりと、しかし確実に、私に迫ってきた。
「くっ…、こんな…こんなのって…!」
立ち上がる事はおろか、這いずる力さえ残っていない。このままでは、私は、あの豚に……。
「き、騎士として、屈する訳には…いかない!」
ほんの僅かにだけど、力が戻る。これなら…と思って腕に力を込めた時、目の前に影が。
「ぁ……」
「ブヒィィヒヒヒッ!!」
もうすでに、やつは、めのまえに、いた。
「……ぁぁ」
豚が手を伸ばしてくる。私は目を「ブギ」きつく閉じ、全てを拒んだ。
「………?」
けれど、何も起こらないまま数秒が過ぎる。いえ、途中で何か聞こえた様な…。恐る恐る目を開けてみると、そこには何も居なかった。
「え………?」
何が起こったのか、状況が把握出来ない。更に数分が経過し、辛うじて魔力が僅かに回復したので《治球》を唱えて身体を癒す。
何とか動ける程度には回復したので、立ち上がる。一体何が起こったのか。
「………あ」
"それ"を見つけて、私は全てを理解した。
「そうか、そういうことね」
それは、岩だった。先が尖った岩。先端が汚い血で染まった岩。
「上から降ってきたのね」
見ると、天井には他にもグラグラしている岩が見受けられる。先程までの戦闘で崩れそうになっていたのね。
「ふぅ、幸運だったわね」
そして私は、出口に向けて歩き出す。漸くここを出られそうね。
「ふぅ、皆と合流したら、ひとまず休みたいかな」
なんて呟きながら通路を進むと、やがて光が…。
「「「ゲギョッゲギョッ」」」
「ほう、まさか単独でヘヴリグを討伐するとは、少々見誤っていたかな?」
「………」
辿り着いた先は、煌々と明かりで照らされた大きな部屋で、黒衣の男が一人と、大蜥蜴が三体待ち受けていた。
「ククク、その様子だと、既に戦闘力は残っていない様だな。…しかしオーク共の繁殖用に捕らえたは良いが、逆に殲滅されるとは、やはりあの改造ではダメだったか」
「………貴様…」
「うん? 何を怒っている? 繁殖用だったからこそ、生かしておいてやったのだぞ? むしろ感謝して欲しいな」
「ふざけるなっ!!」
黒衣の男に剣を向ける。
「貴様は絶対に許さない! 捕らえて牢獄に繋いでくれる!」
「………状況が理解出来ていない様だな」
男がパチンと指を鳴らすと、大蜥蜴達がわさわさと私を取り囲む。
「っ…!」
「……ふむ、オークの繁殖用にと思ったが、ヘヴリグの玩具にでもするか」
「おっと、それは聞き捨てならないね」
「誰だ!」
唐突に、黒衣の男よりも向こうから声がした。聞き覚えのあるその声の主は、壮麗な剣を抜き放つ。
「貴様…、騎士団の者か! どうやってここに…!? そんな報告は…」
「あぁ、向こうの連中なら既に捕縛済みですよ」
「ば、馬鹿な!?」
「いやぁ、大変でしたよ? 何せ貴方の目がある限り、向こうの位置は掴めないのですから。…まぁ、貴方が丁度何かに目を奪われていたので、どうにかなりましたけど」
その言葉に、男は私を見る。
「…そうか、この娘は囮か…」
「え…」
囮?
「あぁ、テトラス。その事については後で説明するから、ちょっと待っていて」
そう言って、【明光騎士団】団長、セインス・カースメイルは、高らかに宣言する。
「無駄な抵抗は止めて、大人しくしろ。さもなければ、斬って捨てるぞ」
「……ふん、貴様一人で、こいつらを倒せるとでも?」
私を取り囲んでいた大蜥蜴がが、セインス団長に接近する。
「…つまり、大人しくするつもりはないと」
「当たり前だろう。…さぁ、やれ!」
男の声に、大蜥蜴達が団長に飛び掛かる。
「ゲギョォォォッ!!」
「うるっせぇぞデカトカゲ!!」
「ゼイヤァァ!!」
「さて、では私も……フッ」
団長の後ろから、カルス隊長と【閃鈴】の隊員が飛び出して大蜥蜴を迎え撃った。そして団長も一体の大蜥蜴を押し止める。
「ったくよォ! テメェのせいで人手不足だぜこんちきしょう!」
「あはは、もういいじゃないですか、しつこいなぁ」
「笑って済ませられる問題じゃねぇだろうが! 無事なのが俺を含めて五人しかいねぇんだぞ!」
「それで制圧出来るんですから、優秀ですよね」
隊長と団長が何かを言い合っている。そういえば、他の皆の姿が見えない。何かあったのかな?
「っと、ちょこまかとウザッたらしいトカゲだなおい! 《剛扇火》!!」
「もっとスマートにいきましょうよ。《光彩刃》」
「「グゲァァ!!?」」
カルス隊長は扇状に広がる荒れ狂う炎を放ち、セインス団長は光を纏った剣で大蜥蜴を切り裂いた。どちらも、私では扱えない魔法だった。
「…チッ、意外としぶといなコイツ」
「ですね」
吐き捨てる様に言う隊長。でも、大蜥蜴は所々が黒く焼けていて、かなりの痛手だと思う。それに団長の方に至っては、右後ろ足のつけ根から尻尾のつけ根までを斜めに切り裂いている。もうあれはトカ/ゲって感じね。
「……これが、【明光騎士団】の力という訳か。だが、ヘヴリグの真価はこの程度ではない!」
男はそう叫んで、再び指を鳴らす。すると今度は、何処からともなくオーク共が涌き出てきた。気持ち悪い。
「ゲギョッ!」
「あん?」
「ほう」
「マズい…!」
大蜥蜴がオークを喰らう。すると、先程戦ったモノと同様、傷が再生していく。
「へぇ、メシ喰って再生ね」
「それなら」
二人が同じ様に剣を振りかぶり、同時に口を開く。
「「一撃で仕留める!!」」
「《覇撃閃》!!」
「《光凰斬》!!」
同時に降り下ろした剣からは、異なる魔法が放たれた。
カルス隊長からは、身がすくむ様な迫力が込められた不可視の一撃が。
セインス団長からは、光輝く鳥の様な姿をした神秘的な一撃が。
「「グギャッ……!!?」」
せっかく再生した大蜥蜴だけど、今度は跡形もなく消し飛んだ。…これが、特級魔法使いの実力…か。
「さぁーて、あとは邪魔なザコを一掃すればおしまいか?」
オーク共を睨み付ける隊長に、団長は首を横に振る。
「いや、あと一体居るよ」
「あ?」
団長が促した先には、【閃鈴】の先輩(私目線)が大蜥蜴相手に四苦八苦していた。
「……ま、放っといても何とかするだろ」
「そうですね」
あっさりそう言ってオーク殲滅を開始する二人。…先輩、頑張って下さい!




