表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪の限りを尽くす…つもり  作者: 雷抖
東大陸編
32/51

地下での戦闘

「……ぅ…」


 目を開く。するとそこは、真っ暗な空間だった。床はゴツゴツとした岩の様な感触で洞窟を思わせる。…何故、こんな所に?

 疑問が浮かんだけど、すぐに思い出す。そういえば、あの不審な岩の傍で誰かに殴られた様な気がする。


「ッ!」


 そこまで考えた所で、後頭部に鈍い痛みが走った。痛みに顔をしかめつつ、目を凝らす。すると徐々に辺りが見えてきた。

 どうやら地下牢の様な場所に閉じ込められてしまった様ね。格子状の柵を掴む。そう簡単に壊れそうもない。


「………はぁ、失態だわ」


 よりにもよって捕まってしまうなんて。


「…いえ、反省は後ね。まずはここから出ないと」


 とは言ったものの、どうやって出ようか。魔法は封じられているだろうし、剣も取り上げられている。甲冑がそのままなのがちょっと気になるけれど。…いえ、やる前から決めつけるのはよくないわね。一回試してみましょう。


「《種火(しゅか)》」


 下級熱魔法の《種火》を唱える。するとボッという小さな音と共に、掌に収まるサイズの小さな火が、指の先に現れる。問題なく発動した様ね。


「…えっと、魔法は普通に使えるのかな?」


 少々拍子抜けしつつ、《種火》を消して、違う魔法を使う。


「《腕昇》」


 下級の強化魔法を唱え、柵に手をかける。そして力を込めると、ミキバキという音と共に柵が砕けた。これで外に出られるようになったけど、今の音を聞いた敵がやってくるだろうから、急いで脱出しないと。


 決断し、牢を出てそのまま道なりに進む。途中途中分岐点があったけど、迷わずまっすぐ突き進む。そして行き止まりだったら戻って別の道へ。


 遠くなのか近くなのか反響していてよく分からないけど、敵の怒号が聞こえてくる。どうやら逃げたのがバレてしまった様ね。


 そのままひたすら洞窟の様な道を走っていると、やがて段々と明るくなってきた。どうやら出口が近いみたいね。同時に、背後から敵が迫ってきているのも感じる。…ちょっとだけ足止めをしておこうか。


「《砂城(さじょう)》」


 中級の土魔法である《砂城》は一見ただの砂で作られた城に見えるけど、実は中に石の矢が詰まっていて、接近してきた相手目掛けて射出される罠の様な魔法。

 そんな《砂城》を残して駆ける。やがて広い空間に出た。


「ここは…?」


 広々としたその空間には、私が通ってきたのと同じ様な通路へと繋がる穴がいくつかあって、私から一番離れた通路から、光が漏れていた。あそこが出口のようね。

 よくよく見てみると、その通路の傍に見慣れた剣が、無造作に立て掛けられていた。あれは、私の剣! そして急いで向かおうとした矢先、それぞれの通路から獣の気配を察知する。


「ゴガァァァ!!」「グラァァァ!!」「ゲギョッゲギョッ!!」


「……そう簡単には行かない…か」


 通路から飛び出てきたのは、三体の改造魔獣だった。異形の犬の様な改造魔獣が二体と、気色悪い色をした蜥蜴の様な改造魔獣だ。


「…まったく、面倒ですね…」


 呟き、犬と蜥蜴を睨む。蜥蜴の方はともかく、犬の方はネームド(名前付き)の改造魔獣のようね。ネームドとは実在している魔獣を模した改造魔獣の事で、その性能は本物には劣るものの、同ランクの改造魔獣とは一線を画す強さを持つ。因みに、以前倒した恥ずかしい名前の改造魔獣がいたけど、あれはネームドではなく、ただそう名付けただけの痛い改造魔獣です。


 今眼前にいるのは、ヘルハウンドね。ヘルハウンドとは黒犬型の魔獣で、地の底に住まうとされている非常に獰猛な魔獣の事。改造魔獣としての位階はCランクだけど、実際の強さはBランクと変わりない。


 私が単独で倒せるのは、Bランクの改造魔獣が三体といった所ね。あの蜥蜴のランクは分からないけど、多分何とかなる。…ただし、剣を装備している時は…なんだけどね。


「……どうにか剣を取り戻さないと、マズイわね…」


 じりじりと詰め寄ってくるヘルハウンドと蜥蜴。…先手必勝ね。


「…ハァァ、《光烈灯(こうれつとう)》!!」


「グギャウッ!!?」「ギャイゥッ!!?」


 上級光魔法の《光烈灯》。目が眩む程の閃光を発する魔法で、相性によっては相手の視覚を永久に奪う事もある。弱点としては、一定以上の距離を取られると効果が半減する、明るい場所だと少々効果が落ちる等。でもその分、こういった暗い場所だと十全に効果を発揮する。


 《光烈灯》をマトモに見たヘルハウンド達は、混乱して闇雲に転げ回っている。…今の内に!


「ゲギョォォォ!!!」


「なっ!?」


 走り出した瞬間、蜥蜴の尻尾による攻撃を受けて、数メートル吹っ飛んだ。何とか着地しつつ、しかし膝をつく。今ので甲冑の左脇部分が砕かれて、肋骨が折れたみたい…。


「ゲホッ! …ぐ、《癒膜(ゆまく)》」


 吐血しながら、治癒魔法を唱える。中級治癒魔法の《癒膜》は淡く光る膜を張る魔法で、その膜の中ではどんどん傷が癒えていく。とはいえ中級だから、傷が癒える速度は決して速く無い。


「ヘルハウンドに目眩ましが効いて、少し油断してしまったわね…」


 砕けた甲冑は直らないけど、折れた肋骨は大分治ってきた。《癒膜》を維持したまま、少しずつ後退る。ちょうど剣がある方角に吹き飛ばされたようね。不幸中の幸いといった所かしら。


「グルルルル…」「ゴルルルル…」「ゲギョッゲギョッ!」


「……くっ、ヘルハウンドも正気に戻ったみたいね…」


 未だに目は見えていない様だけど、嗅覚でこちらを捉えているようね。だけどこちらも、ひとまずは治った。《癒膜》を解いて、別の魔法を発動する。


「《疾脚(しっきゃく)》!」


 強化魔法で脚力を強化し、一気に剣の元へ。同時に、ヘルハウンド達が向かってくる。


「「ゴルガァァァァ!!!」」


「間に合えっ!」


 何とか剣を取り戻し、そのまま通路に飛び込む。


「ガガァァァ!!」「ギャインッ!?」


 通路はそれほど大きくなく、一体は入れたけれど、もう一体のヘルハウンドは壁に激突した。


「《疾脚》解除、そして《焦剣(しょうけん)》!!」


 先程から何故一々魔法を解除しているかというと、二重では魔法を発動出来ないから。魔法を重ねて発動しようとしても、普通はうまく発動しない。でも熟練した魔法使いなら重ねて発動出来るらしいし、実際、セインス団長は魔法を二重行使できる。


 中級熱魔法の《焦剣》は、剣に超高温を付加する魔法で、一応剣が無くても、剣の形をした魔法となるけど、剣に付加した方が数倍効果が高い。


「セァア!」


 振り向き、ヘルハウンドに駆け寄り、噛みつく為に大きく広げたであろう口へ剣を滑り込ませ、そのまま一直線に身体を断ち切る。


「ギァォ……」


 ズシャァ! とヘルハウンドは地面に倒れ込む。上半身と下半身が分かたれているけれど、傷口が焼かれているのであまり血は出ない。

 やがて、ヘルハウンドの身体が空気に溶ける様に消えていった。


「ハァッ!」


「グギャッ!?」


 壁に激突し、フラフラしていたもう一体のヘルハウンドの首を斬り飛ばす。残るは、あの蜥蜴だけね。…でも、あの蜥蜴を無視してこのままここを脱出するのも一つの手よね。


「……いえ、敵に背を向けて逃げるのは騎士として恥ずべき事」


 遠巻きにこちらを窺っている蜥蜴を睨み、剣を構える。そして《焦剣》を保ったまま、ゆっくりと蜥蜴へ近付いていった。


「さぁ…、覚悟しなさい!」


 そして、一気に距離を詰めて、剣を振るった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ