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悪の限りを尽くす…つもり  作者: 雷抖
東大陸編
30/51

闇より暗き麦の厄災

ちょっと色々と修正しました。でもまだ完璧ではないです。

「……はぁ、リーナは大丈夫かしら…」


 王都から離れた北方の荒野地帯で、私はそう呟いた。眼前に広がるのは雄大な山脈で、辺りを見渡しても荒れ果てた野が広がる色彩乏しい場所。


「…こんな所に、本当にあの盗賊の拠点があるのかしら……?」


 昨夜、隊長であるカルスによって呼び出され聞かされた内容は、この辺りにかの盗賊団、【カジーフロット】の拠点があるらしいとの報告を受けたから、国の矛である私達【閃鈴】に調査に行って欲しいとの事。こういった厄介事の処理を回される辺り、【明光騎士団】での私達の扱いが窺い知れるモノね。らしいなんて曖昧な情報で行かせるのはどうかと思うのだけれど。


「はぁ、分かっていた事とはいえ、この問題を解決するのは容易ではないわね……」


「おーい、テトラスー! そっちはどうだー?」


 何て事を考えていると、遠方から他の隊員の声が聞こえてきました。そうでした、今は奴らの拠点を探さないと。


「いえ! 今の所は特に何もありません!」


「そうかー! 何かあったら報告しろよー!」


「分かりましたー!」


 とにかく今は辺りを捜索して、何かしらの手掛かりを見付けないと。…もしくは、何も無かったと言えるだけ捜索をしないと。そうしないと帰れません。


「…でもやっぱり、リーナが心配…」


 それだけが心残りで、それこそが心残りね。何故なら明日はリーナにとって大事な日だから。

 魔導総戦。大陸の国々から選ばれた代表者同士で魔法を競い合う競技会で、その代表者に選ばれるだけで将来が明るくなるとされる。…現に、数年前に開かれた魔導総戦に出場出来たからこそ、私はカルス隊長の目に留まったのだから。…と言っても、そこから私に実際に声が掛けられるまで数年が経ったのだけれど。

 とにかく、魔導総戦は魔法を扱う学生にとって憧れの舞台であり、重要な転機となりうる。


「今までなら、私が居なくても特に問題は無かったのだけれど…」


 今回から、急に新しい決まりが追加されたのだ。それは、優秀な推薦人の有無。何だそれはと問い質したくなるようなその決まりが、今回から急遽導入された。その背景には、魔導総戦を運営している団体のトップが変わったからという噂が流れている。


 意味が分からない。実際に競い合うのは代表者達で、そこに推薦人の存在なんて関係が無い。その新しいトップの人が何をしたいのか、させたいのかが分からない。


 でも、私が分からないからといって、どうにかなる訳でも無い。新しい決まりを遵守するほかない。そしてそのせいで、リーナが今、危機的状況に陥ってしまった。


 何故なら、リーナを推薦する筈だった私が、明日の推薦人の確認に立ち会えないからだ。事前の申告は無効で、当日に立ち会った推薦人の力量を測り、推薦人として相応しいかを判断するらしいからだ。私は隊長に掛け合った。今回の仕事だけは何とか私抜きで出来ないか。しかし、今回の仕事は団長自ら指揮を取るとの事で、あえなく却下された。全隊員参加必須だそうだ。何故、今なのか、そう愚痴りたくなったけれど、それは私だけではなかった様で、代表としてカルス隊長が何度もセインス団長に直訴したらしいけれど、それでもダメだったそうだ。


 ここからは見えない位置にいる団長に少しばかりの恨みの念を送る。本当に、何で今なのか。


「………はぁぁ…、…うん?」


 深くタメ息を吐いた時だった。特に何の前触れも無かったし、何の予兆も無かった。本当に、偶々、視界に入ったのだ。


 一見何の変哲もないただの岩が、微かに動いたのが。


「……気の…せい…?」


 思わず呟いたけれど、頭の中の何処かで、それを否定していた。そう、何かがあると、勘が告げている。


「…念のため…」


 ただの見間違いの可能性もあるし、むしろそちらの可能性の方が高い。だから、一人でその岩に近寄った。


「………」


 それは、私の肩辺りまでの高さの岩で、私と同じ体格の人が四人手を伸ばして辛うじて囲める程の大きさの岩だった。

 岩の周りをぐるっと見て回る。しかし、特に気になる点は見受けられない。やはり、ただの勘違いだったのだろうか…?


「…異常無し…かな」


 そう呟いて、徐に岩に手を当てた。特に意味は無かった。何の思惑も無かった。だけど、


「あれ…?」


 岩に触れた瞬間、感じた。この岩に掛けられた、何かしらの魔法の痕跡を。


「っ!?」


 慌てて手を離す。岩は相変わらず岩の姿をしているけれど、私にはもうこの岩が、ただの岩には思えなくなっていた。


「…これは、皆に知らせる必要がありそうね…」


 呟き、踵を返す。後から思えば、この行動は些か以上に思慮に欠ける。そんな明らかに怪しさを覚えた物体に、何の躊躇いもなく背を向けたのだから。


 だから、


「あっ……」


 背後でその岩が動き、中から現れた人物によって意識を刈り取られたのは、当然の結果ともいえる。


「たいちょ…う……、リー…ナ…」


 薄れ行く意識の中、私はそう呟き、そして闇に落ちていった。





「………ふむ、潜入成功…といった所か?」


 メリシアが何者かに意識を刈り取られ、そして岩の中に連れ込まれる様子を見ながら、セインスは呟いた。


「……いい加減にしろよ、セインス。団員はテメェのオモチャじゃねェんだぞ…?」


 その背後で、カルスが激情に満ちた形相でセインスを睨んでいた。場所は、メリシアの居た地点から離れた小さな丘の上で、セインスは視覚を強化する事で遠く離れたメリシアの様子を観察していた。…囮が、上手く効果を発揮するかを。


「これは心外だな、カルスさん。私は団員をオモチャ扱いした覚えは無いよ?」


 瞬間、カルスはセインスの澄ました顔をぶん殴ろうかと思った。


「…なら、アレはどういう事だ?」


 殴る代わりにカルスは指を指す。その指の先には、死屍累々という表現がピッタリな光景が広がっていた。カルスが激怒していたのは、メリシアの事ではなくこの事だ。といって、カルスがメリシアを軽視している訳ではない。ただ単に、彼らが居る場所からでは、セインスの様に視覚を強化しないとメリシアの様子など確認出来ないだけなのだ。


「あいつらは、お前が下した無茶な命令のせいで、あんな事になっているんだぞ…!!」


 恐ろしい形相で睨みながら荒々しく言い放つカルス。しかし対するセインスは、冷ややかな顔で、特に興味も無さそうに告げた。


「あの程度で倒れ伏すとは、少々期待し過ぎたか?」


「ふざけんな!!」


 失望した様なセインスの言い草に、今度こそカルスはセインスの胸倉を掴み、拳を握り締めた。そして、言った。




「テメェが差し入れた大量の闇より暗き麦の厄災(パルムに似た劇毒物)のせいだろうがっ!!!」


「いやぁ、ここに来る前は美味しそうだったんだけどね」


 そう、この惨状の原因は、セインスが団員達の為にと用意したパルムのせいだった。


「まさかコルチャーナーの吐息にあんな効果があるなんて、知らなかったからね」


「その変質したパルムを喰わせる必要は無かっただろ!?」


「いやぁ、団員達の為にと私個人の財布から支払ったからねぇ、無駄にはしたく無かったんですよ」


「それでその団員達をのたうち回らせたら元も子もねぇだろうが!!」


「ま、まぁ、幸い治癒魔法を扱える後方支援の団員は食べていなかったから、治療は出来るしいいじゃないですか」


「いいわけあるか!!」


 と、ギャーギャー騒いでる二人。あぁメリシアよ、自分でどうにか頑張ってね。

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