表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪の限りを尽くす…つもり  作者: 雷抖
東大陸編
24/51

貴族街から商業区へ

「お、いい感じに夕暮れだな」


 カースメイル邸を出ると、既に辺りは朱く染まっていた。そこまで話し込んだつもりはなかったんだけどな。


「んー、商業区に着く頃には夜になりそうだな。なら、晩飯にはちょうどいいか」


 呟いて、歩き出す。そういえば騎士連中の姿が見えないな。巡回中か?


「………む」


 歩き出してすぐに、視線を感じた…気がする。歩く速度を変えずに辺りを探ると、微かにだが誰かの気配を感じる。…ん、監視されてんな。


「…ま、何事も無く帰れるとは思ってなかったけどな」


 あんな重要な話を、いくら恩人とはいえ素姓の知れない人間に話したんだ。相応の探りは入れてくるよな。…とはいえ、探られるとわりとマズイ身の上だからなー…。


「…うし、逃げるか」


 立派な門を出た瞬間、ある魔法を発動する。


「《隠身(いんしん)》」


 中級闇魔法《隠身》。不可視の膜で自らを包み込み姿を隠す魔法で、暗い所で真価を発揮する魔法だ。明るくても使えるけど、効力が著しく低下する。闇魔法は明るいのに弱いよね。

 …そういえば、あの誘拐三人組はどうなったんだろ。特に気にならないけど。


「…さて、逃げるか」


 ゆっくりその場を離れる。というのも、隠せるのは姿だけでそれ以外の音やら気配やらは隠せない。だから、気配を消しつつゆっくりと移動する。


「……流行ってんの?」


 俺が《隠身》を使った辺りに突如として黒装束の男が二人現れた。…姿を隠して監視するからって、わざわざ黒装束着込む必要はないと思うな。別にいいけど。

 黒装束達は暫く辺りを探し回り、やがて再び姿を消し、屋敷の方へ去っていった。


「ん、また別の奴が送られてくる前に逃げるか」


 物陰に隠れてから《隠身》を解く。下手に姿隠したまま商業区に行ったら、面倒な事になりそうだし。具体的には、相手からは完全に見えてないから、後ろから馬車に轢かれたりするかもしれないしな。これ、ホントに危ないぜ?

 物陰から路地に移り、サササッと進む。


「………ん?」


 そうやって路地を進んでいると、見覚えのある金髪ちゃんが居た。そして傍らにはもう一人の金髪ちゃんも。


「……でね、アルさんのおかげで、やっとあの魔法を覚えられたんだ!」


「………そう、アルさんが……ね」


 …しまった、口止めするの忘れてた…。…つーか、どんな偶然だよ、この広い王都で鉢合わせとか。…ん? ここ、貴族街だよな……。あれ? てことは二人とも貴族だったのか?

 確かテトラスだったか…。聞いた事は無いから、そこまで大きな家では無いか?


「ふふ、これで今度の魔導総戦が有利になった!」


「魔導総戦…、騎士錬成院でも代表の座を掛けての戦いをしたわね…。私は一度しか出てないけれど」


 二人は何やら話していて、こちらには気付いていない様だ。いや、違うか。そもそも俺は今現在も《幻変視(げんへんし)》を使ったままだったわ。


「その一度で国の代表になったんだもんね…、凄いよね…。私もお姉ちゃんに続いて代表になるぞー!」


「意気込むのはいいけれど、リーナの実力ではあの二人は倒せないんじゃないかしら。どちらも上級の魔法使いなんでしょう?」


「やる気を削ぐ発言禁止!」


 それなら、このまますれ違っても大丈夫か。平常心平常心。心の中で言って、前を向く。二人との距離はもうさほどない。…でもやっぱ顔は背けとこう。


「……あ、リーナ、ちょっとこっちに。ぶつかるわよ」


「え?」


ドンッ


「きゃっ」

「うぉ…」


 視線を外していたせいで、リーナにぶつかった。…いや待て、俺は少し避けながら歩いていたぞ。…てことはリーナがぶつかりに来たのか。ちゃんと周りを見ろよな。


「だから言ったのに。……妹がすみません」


 メリシアはそう言って俺に近寄る。すると、徐々にその顔が険しくなる。…え、なに?


「…あてて、ごめんなさい。……って、お姉ちゃん?」


「リーナ、下がって」


 メリシアの雰囲気を不思議に思ったリーナが問うと、メリシアは俺から視線を背けずにリーナに告げる。

 そして、厳しい目つきで俺に問い掛けてきた。


「……貴方、何故姿を偽っているの? …ここで、この貴族街で何をするつもりなのかしら?」


「………」


 うわ、最悪。メリシアには完全に見抜かれてる。と言っても、俺がアル・レーベンってバレた訳ではなく、俺が《幻変視》で姿を偽っている事に気付いただけだが、あんまり気休めにはならないな。


「……黙っているって事は、何か後ろ暗い事情があるのかしら?…騎士として、見過ごせないわね」


「お、お姉ちゃん…」


 メリシアが剣に手を掛ける。その剣、普段から持ち歩いているのかよ。…しかしどうするか。逃げるのは簡単だけど、あまり派手な事をしたらさっきの奴らに気付かれるかもしんない。


「もう一度だけ問うわ。貴方の目的は?」


「………」


 時間切れ間近だな。とりあえず選択肢は3つ。逃亡、説明、制圧。逃亡が一番無難だな。説明は…、どう説明すればいいか分かんねぇから却下で、制圧は…………………、うん、却下。別にいたぶる必要は無い。

 んじゃ逃げるか。


「………あくまで、沈黙を続けるのね。……なら」


 メリシアが剣を握る。だけど、抜かせはしないよ。


「……《瞬烈動(しゅんれつどう)》」


 上級強化魔法《瞬烈動》。まるで瞬間移動かと思うほどの速さを得る魔法。強化魔法の中でも愛用者が多い魔法だが、一瞬しか速くなれないから、長距離移動には向いていない。因みにこれの完全上位互換版として特級強化魔法《閃烈動(せんれつどう)》というのがあるけど、そちらならある程度の時間速さを保てる為、強化魔法を使っている人の目標とされている。ただしこちらは光魔法も併用するから、俺には使えない。


「なっ…消えた!?」


「あ、あれ!?」


 遠くで二人の慌てた声が聞こえる。このまま立ち止まっていても意味無いから、さっさと離れる。


「……ふぅ、逃亡成功ってね」


 貴族街と商業区を隔てる壁の近くまで来て、一息吐く。商業区や居住区、スラム街には隔てる壁なんて無いけど、貴族街と商業区、スラム街の間には強固な壁が築かれている。

 そして貴族街と商業区を行き来するには検閲所の様な所を通らなければならない。ロンウェンに連れられてここに来た時は、ロンウェンが何やら説明していたから普通に通れたけど、今はどうしよう。


「……あ、さっきの紙使えばいいのか?」


 多分、貴族街と商業区を行き来するくらいなら、この紙が通行証がわりになるかも。…じゃなきゃ、ここから出られないし。ロンウェンなら俺が商業区の方に行く事は分かっていただろうし、その為の事は特に何も言ってなかったから、これを使えって事だよな?そうだよな?………違かったら文句言いに行ってやる。


「…とりあえず、行くだけ行かなきゃな」


 そう結論付けて、進む。壁の近くに建物は無く、遮る物が何もない。…もしメリシアが来たら一発でバレるな。

 少し移動速度を上げる。そのまま暫く進むと、検閲所が見えてきた。


「………ん?お前は確か、ロンウェン殿と一緒に居た…」


「んぁ?」


 検閲所に着くと、係員が俺を見てそう言った。…そういや、来た時に見た顔のような違うような…。

 そんな風にぼんやり考えていると、係員が俺を促す。


「お前が来たら通してくれとロンウェン殿に言われていたからな。通っていいぞ」


「……ぁ、おう」


 紙関係無かった。そもそも言付けてたから何も言わなかったのか。…それならそれで言って欲しかったけど。


「…しかし、お前みたいな奴を素通りさせるのは歯痒いな」


「面と向かって言うなよ」


「おう、聞いてたのか、スマン」


「……悪びれてねぇ…」


 妙に軽いノリの係員を横目に、検閲所を通り抜ける。商業区に帰ってきた。

 空はいい感じに暗くなっていて、星が輝いている。ふむ、飯時だな。途中途中運動してたからそこそこお腹減ったな。


「……んー、何処で食うかな」


 大通りを進む。至るところで灯りが灯されていて、夜だけど十分に明るい。それに、そこかしこから空腹を刺激する良い匂いが漂ってきている。………何処にするか決めるの面倒だし、近いトコ入ろ。

 ちょうど、一軒の建物が目に映った。そこはどうやら宿屋と料理屋が一緒になっている建物の様だ。


「えっと、……子山羊亭。…いや、あの店は関係ないよな」


 ただ名前が似ているだけだな。よく見ると、数軒隣の宿屋は仔牛亭って書いてあるし。灯りに灯された仔牛の看板が特徴的な宿屋だな。


「うん。もうここでいいや」


 というわけで、仔山羊亭に入る。……熊が居ませんように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ