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悪の限りを尽くす…つもり  作者: 雷抖
東大陸編
17/51

アルの魔法講習

「…んで?行き詰まってるのはどの魔法なんだ?」


 そう聞くと、リーナは持っていた鞄から一冊の魔法書を取り出して、渡してきた。


「これなんだけど…」


 受け取った魔法書を確認する。白い魔法書だ。


「聖系統か…」


「うん。…アルさんって、光魔法は使えるの?」


「あー…、残念ながら光魔法は適性外だったんだよな」


 適性外。その人物にとって上達が非常に困難かつ一定以上の階級を覚える事が出来ない魔法を指す。俺でいえばそれが光魔法だった。

 俺がそう告げると、リーナは少し落胆した様な顔をする。


「適性外か…、じゃあダメだね…」


「おっと、諦めるのはまだ早いぞ。あくまでも使えないってだけで、どうすれば習得出来るかは知ってる。…まぁ、中級ならなんとかなるだろ」


「…アルさん、どの階級まで扱えるの?」


「……それは、ナイショだ」


 顔の前で人指し指を立ててニヤッと笑うと、何故かリーナは僅かに顔を赤くした。…はて?


「…で、中級光魔法の何が解らないんだ?」


 すると再起動したリーナが魔法書をペラペラと捲り、あるページを開いた。


「……この魔法、解る?」


 リーナが何の説明もせずにそのページを指差す。…なるほど、俺が本当に解るかどうか確かめてるのか。


「………。…あぁ、《光纏(こうてん)》か」


 魔法書に書かれた魔法文字を読み解き、俺は答える。するとリーナが驚いた表情で口を開く。


「…ホントに、解るんだね」


 それぞれの魔法の種類によって書かれる魔法文字は異なり、同じ聖系統でも光魔法の魔法文字、治癒魔法の魔法文字、精神魔法の魔法文字と、別の魔法文字が使われる。だから普通は自分が扱えない魔法の魔法文字は知らない。覚える必要性を感じていないから。……普通というか、一般の魔法使いは……だが。


「これなら、説明出来そうだな」


「ほ、本当!?」


 身を乗り出してくるリーナ。近い近い。


「あぁ。……でもこの位の魔法なら、お前の姉でも説明出来ると思うんだけど」


「……お姉ちゃん、習得するのは上手いけど、教えるのは…」


「…あぁ、そういうことね」


 あの生真面目ちゃん、意外と説明下手なんだな。


「さて、講習の時間ですよ」


「はい!お願いしますアル先生!」


「元気があってよろしい」


 そこまで言って、二人して吹き出す。こういうノリもいいのな、リーナって。


「んじゃ始めるけど、まず質問。リーナは《光布(こうふ)》は使えるか?」


「《光布》?下級魔法の?」


「あぁ」


「うん、使えるよ」


「なら、問題ない」


 《光纏》の情報を読み解く限り、まず《光布》を扱えないと話にならなそうだからな。


「じゃあ、イメージしろ。魔力を身体全体にまんべんなく張り巡らし、魔力の膜を作る」


「うん」


「その魔力を、光の粒子へと変える。これは出来るよな?」


「うん」


「その光の粒子を結合させると、光の束になる。後は魔法名を唱えつつ、よりイメージを具現化させれば、《光布》になる。ここまでは習得しているよな」


「うん」


「それじゃ本題の方だけど、魔力を光の粒子に変換した時、その粒子の大きさって解るか?」


「え?…凄く、ちっちゃい」


「うん、まぁそうだけど、その大きさって結構バラバラなんだよ。ある粒子の何倍も大きな粒子があったりな。そのバラバラの粒子を、均一にする事。まずそれが1つ目のポイントだ」


「…バラバラの粒子を、均一に……」


 徐にリーナは席をたち、椅子や壁から離れてから閉眼する。そして魔力を全身に張り巡らし、それを光へと変える。無色の魔力が淡い光に変わった。しかし、その輝きは一定ではない。所々ぼんやりとしていたり、逆に少し強かったりと、安定していない。これが、光の粒子が均一ではない証拠だ。


「…これを、均一に」


 呟いて、集中している。すると、少しずつだが輝きのばらつきが無くなっていく。…それなりに、いいセンスだな。


「リーナ、右側がまだ大きい。あと、足の方は小さいぞ」


「………」


 聴こえてはいる様だが、答える余裕はないようだ。だが、確実に粒子の均一化は進んでいる。

 …そして、全ての粒子の大きさが揃った。


「…よし、次はそれを結合させろ。大きさが均一になった分、前よりは楽だと思うぞ」


「………うん」


 お、返事が返ってきた。そして、光の粒子が次々に結合し、やがて1つの束となる。だが、まだ終わりではない。


「まだ気を抜くなよ。同じ事を後二回やって、光の束を三重にするんだ」


「……これを、維持したまま?」


「当たり前だろ。じゃなきゃそれはちょっと質のいい《光布》のままだ。それを三重に束ね、1つへと重ね合わせて初めて《光纏》の完成だ」


「……う、うぅ」


「大丈夫。1つ成功していればそんなに難しくない。…ほら、やってみろ」


「……うん」


 そしてリーナはまた魔力を張り巡らせる。


「他の光の束にくっつかない様にな」


「………」


 それから同じ工程を繰り返し、遂に3つの光の束が完成した。


「……でき、た」


「…よし、それを重ね合わせろ。…ゆっくりでいいから、丁寧にな」


「………うん」


 徐々に光の束が重なる。それに合わせて、輝きも増してくる。


「………」


「………っ」


「大丈夫、慌てなくていい」


「………」


 やがて、光の束が1つに重なる。瞬間、淡く光っていた束が、白く輝いた。それほど強い光量では無かったが、俺は僅かに眼を細める。


「…さぁ、リーナ。仕上げだ」


「……うん」


 一度深呼吸した後、リーナは眼を開いて唱える。


「《光纏》!」


 静止していた光が、リーナの周りを巡る。


「……出来…た?」


「…まだだ」


 恐る恐る問い掛けてきたリーナにそう答えてから、俺はリーナに手を向けて、魔法を放つ。


「《影弾(えいだん)》」


「きゃっ!」


 下級闇魔法《影弾》。影の如く暗い弾を打ち出す魔法で、大きさは掌に収まる程度だが、まともに当たれば相手を少し吹っ飛ばせる威力はある。しかし、影の弾はリーナの《光纏》に触れた瞬間、溶ける様に消えた。

 中級光魔法《光纏》。実体伴わない魔法を防ぐ魔法で、下級の魔法ならほぼ全ての魔法を防げるし、相性によっては上級の魔法さえ防ぐ事が出来る、中々に使い勝手のいい魔法だな。弱点としては、防げるのは実体を伴わない魔法だけで、土魔法なんかは防げないし、生身の攻撃も防げない。ま、遠距離での魔法戦とかで使うのがベストだな。


「…よし、ちゃんと発動してるな」


 俺がそう言うと、リーナは頬を膨らませながら詰め寄って来た。


「ちょっとアルさん!いきなり攻撃しないでよ!びっくりしたでしょ!」


「あぁ悪い悪い。ちゃんと成功したか確認の為にな」


「だから、それは一言言ってからでも問題無いでしょ!もしも成功してなかったらどうするの!?」


「いや、《影弾》程度なら当たっても大丈夫だろ」


「大丈夫じゃない!」


 うーん。思ったより怒られた。…ちょっと数メートル吹っ飛ぶ位、問題無いと思うんだけどなぁ。


「………教えてくれてる時は、あんなに優しかったのに…」


「ん?どうした?」


「何でもない!……アルさん」


「ん?」


 まだ幾分不機嫌そうだが、それでも柔らかく微笑んで、リーナは告げる。


「教えてくれて、ありがとう」


「……俺が教えなくても、自分でどうにか出来てたと思うけどな。」


 実際、一発で成功させたし。


「…もしそうだとしても、それなりに時間が掛かってた。アルさんが教えてくれていなかったら、まだしばらくはトゲトゲしていたと思う。…だから、ありがとう」


「………」


 何だろう。思ったより気恥ずかしい。別にお礼言われる為に教えた訳じゃ無かったんだけどな。


「…それで、相談料はいくら払えばいいのかな?」


「あん?」


 相談料?…あぁ、そういやそうだったな。途中からそんなの忘れてたぜ。


「…そうだな、んじゃ、今回の飯代払ってくれよ。いくらだか知んないけど」


「え?…でも、それじゃ…」


「それだけでいいよ」


 すると、リーナはまた柔らかく微笑んだ。


「…分かった。…本当に、ありがとう」


「ん」


 そうして、特別魔法講習は終わった。

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