表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪の限りを尽くす…つもり  作者: 雷抖
東大陸編
15/51

子羊食堂

 子羊食堂の扉を開く。


「いらっしゃい」


 開いた先に熊がいたので閉める。…おかしい、子羊食堂の扉を開いた筈なのに、大熊が居た。大熊食堂では無い筈だ。もう一度看板を確認し、確かに子羊食堂で合っているか確かめる。


「どうしやした?アルの旦那」


「…いや、大丈夫」


 確かに子羊食堂だ。こじんまりとした店、子羊食堂と書かれた看板。うん、大丈夫。さっきのは気のせいだ。そう無理矢理思い込んで、再び扉を開く。


「いらっしゃい」


 やっぱり熊が居た。大熊が服を着てカウンターの向こうに立っていた。


「………」


「………」


 俺と熊との間に、妙な沈黙が流れる。それを破ったのはゴリダンだ。


「アルの旦那、そこに立たれちゃ俺達が入れないですよ」


「あ、あぁ…悪い」


 中に入って少しよける。そして三人が入ってきた途端、大熊の表情が変わった。


「よ、大将」


「誰かと思えば三馬鹿共か。何しに来た」


「三馬鹿……、何しにって、飯食いに来たに決まってるだろ」


 すると大熊はハンッと鼻を鳴らして口を開く。


「またツケでか?いい加減、誰か一人置いていって貰うぞ?」


「うぐ……」


 お前ら…


「ツケで食ってんのかよ…、三馬鹿」


「アルの旦那まで!?」


 ゴリダンの言葉に、大熊が俺をジロリと見た。


「む?おい新顔のアンちゃん、コイツらの知り合いか?」


「…一応な。今急速に他人になりたくなってきてるけど」


「そ、そりゃないぜアルの旦那!」


「どういう関係だ?」


「……まぁ、一応コイツらを手下にした」


「手下…?なら、お前さんがこの馬鹿共の親分って事か」


「あんまり、親分って呼び名は好きじゃないけどな。…アルだ、よろしくな」


 スッと手を出すと、大熊も大きな手を出して俺の手を握る。


「そうか。俺はこの食堂の店主をやってるベアンドだ」


 大熊改めベアンドが、強面をニカッとさせながらそう言った。そして、俺の手を握ったまま告げる。


「あんたがコイツらの親分になったんなら、コイツらのツケはあんたが払ってくれるんだよな?」


「…やっぱそうなる?」


「そうなるな」


 ハァ、仕方無いか。払わなきゃ手を離してくれそうにないし。


「…分かった、いくらだ?」


 すると、俺がそう言うのが意外だったのか、大熊と三馬鹿が驚き目を見開いた。…おい、何でお前らまで驚く。


「……本当か?本当に払うのか?」


「とはいっても、あんまり高過ぎる場合はその限りじゃないけどな」


「……お前ら…、ずいぶん良い人に拾われたな」


「へへ、まぁな」


「…あぁもう、そういうのはいいから、いくらだよ!」


 何となくむず痒くなって、叫んだ。おいやめろ、生暖かい目で見るな!


「おう、少し待ってくれよ………」


 そう言ってベアンドはカウンターの下でゴソゴソやり始めた。恐らくあの下に色々とあるんだろう。…いつまでも立っているのもなんだし、座るか。


「っと、席は…」


 店内を見回す。外から見た通り店内はこじんまりとしていて、カウンター席が5つとテーブル席が2つしかない。テーブル席は一応四人掛けの様だけど、筋肉ゴリラが二人もいるから、四人で座るのはちょっとやだ。因みに、他の客はいない。


「…よし、んじゃお前らテーブル席な。俺はカウンターに座るから」


「ウッス!」


 三人がテーブル席に向かい、ギムドとゲンドウが並んで座り、その向かいにゴリダンが座った。俺はカウンターの一番端、テーブル席のすぐ近くに座る。

 店内の造りは、扉を開けるとすぐ目の前にカウンター席があって、右奥にテーブル席。カウンターの向こう側に厨房がある様だ。といっても厨房が見える造りではなく、仕切りがしてある。フロア、壁、厨房って感じだな。


「……フム、計算し終わったぞ」


「ん、いくらだ?」


「今までのツケ全部引っくるめて、128イースだな」


「………おい、三馬鹿」


「あ、あれぇー……?そ、そんなにいってたかな……」

「お、おかしいなぁ~……」

「……ピスー、ピスー…」


 凄まじく挙動不審になる三馬鹿。あとゲンドウ、吹けてないぞ。

 …しかし128イースか…。


「……分かった、ちょっと待ってくれ」


 仕方無い。まがりなりにもコイツらの頭だからな。…ハァ。心の中でタメ息を吐いて、ポーチから東大陸用の貨幣入れを取り出す。そして、銀貨一枚と銅板五枚を取り出す。

 そういえば前に貨幣の説明をしたけど、その時にちょっと説明し忘れがあった。それが銅板だ。銅板は一枚10イース。銅貨十枚で銅板一枚であり、銅板十枚で銀貨一枚である。

 また貨幣の大きさなんだけど、銅貨や銀貨等の硬貨は、親指と人差し指で輪っかを作ったぐらいの大きさで、銅板や金板等は硬貨が2つ並んだぐらいの大きさだ。補足説明終了。


「ほい、代金」


「本当に払ってくれるとは…。…って、おいアンちゃん、銅板が二枚ほど多いぞ」


「あぁそれ?どうせコイツら、他にもベアンドさんに迷惑を掛けているだろ?その迷惑料とでも思ってくれ」


「だ、旦那……!」

「俺達の為にそこまで…!!」

「うぅ、眩しくて旦那が見えないっス!」


「…ホント現金な奴らだな」


 わざとらしく泣くな。鬱陶しい。…あと恥ずかしい。


「………。アルと言ったか?」


「ん?あぁ」


「俺の事は呼び捨てで良い。…何か困った事があったら俺に言え。力になってやる」


 ドンッと胸を叩いてそう告げたベアンド。…ん?何か気に入られたな。


「お!じゃあ大将!あの…」


「テメェらは自分でどうにかしろ!!俺が気に入ったのはアルだけだ!」


「…ちぇー……」


「ハハ…。…んじゃ、何かあったら遠慮なく相談させてもらうわ」


「おう!」


 そう言ってベアンドは豪快な笑みを浮かべた。…でも、ベアンドにどこまでの力があるか解らないから、愚痴聞いて貰うとかそんな感じの事で頼らせてもらおう。


「…そういや大将、今日はリーナちゃんは休みか?」


 ん?誰?と思った瞬間、ベアンドから殺気が…!?


「…休みだが何だ?…ちょっかいかける気なら、刻んで炒めるぞ……!!」


「お、おぉう……」


「…なぁベアンド、リーナって誰?」


「…フム、お前さんになら教えても良いか。リーナはウチのもう一人の従業員で、この店の看板娘だな」


「へぇ」


「リーナちゃんが休みだからこんなにガラガラなん……うぉわ!!?」


「ウルセェぞ穀潰し!ミンチにしてこねて焼くぞ!!」


「…ベアンドの脅しは相手を料理する事なんだな」


 その料理は食いたくないな。そんな事を思っていると、店の扉が開いて、一人の少女が入ってきた。


「やっほー店長!」


「む?リーナか?どうした、今日は休みだろ?」


 この子がリーナか。淡い金髪を左右で縛り、元気そうな碧い瞳が特徴的な少女だ。若干幼さが感じられる顔立ちだが、それなりに起伏に富んだ体つきをしている。少なくとも服を押し上げる程度には主張している。…何処がとは言わないけど。


「えへへ。ちょっと暇だったし、店長一人で大丈夫かなー?って思って」


「そうか。心配してくれて嬉しいが、この通り客は殆どいないからな、大丈夫だ」


「リーナちゃーん!久し振りー!」


「げっ、三馬鹿じゃん」


「おう辛辣!だがそこがいい!」


「うわぁ…」


 おいゲンドウ、引かれてるぞ。…お前、そんなキャラだったのか。


「ま、あの馬鹿共は放っておいていい」


「うん。……あれ?貴方、見ない顔だね」


 リーナが俺を見て聞いてきた。……何だろう。この子と面識は無い筈なんだけど、何か見覚えがある様な…。


「ん、今日初めてここに来たからな」


「あ、そうなんだ!私、ここでお手伝いしてるリーナ、よろしくね!」


 煌めく笑顔で言うリーナ。…後ろでゲンドウが倒れたな。…それにしても、何か記憶を刺激するな…。面識は、無い筈。


「ん、アルだ。……なぁ、何処かで会った事あったっけ?」


「お、ナンパかな?ふふ、その手には乗らないよん」


「いや違うから…、おいベアンド、怒気鎮めろ、違うって言ってるだろ。あとゲンドウ、殺気を向けるな、後でお仕置きな」


「って確定!?」


 ゲンドウが何か喚いているけど無視。


「…何か、何処かで見た様な気がするんだよな……」


「…え?うーん、私は見覚えないけどなー…」


 何かこう、何かが足りない様な、逆に多い様な………。…あ。


「えっと、リーナ…でいいか?」


「え?……まぁ、良いけど?」


「んじゃリーナ、もしかしてだけど君、お姉さんとかいない?」


 金髪、碧眼、そして何処かで見た気がする顔立ち。つまり似ている顔立ち。…まさか。


「もしかして、お姉ちゃんの知り合い?」


「てことはいるんだな?」


「うん。結構有名だよ?」


 有名…。確定か?一応確認してみよう。


「もしかしてリーナのお姉さんって……、メリシア?」


 恐る恐る聞いてみると、リーナはあっさり肯定した。


「そうだよ。私はリーナ・テトラス。【明光騎士団】のメリシア・テトラスは私のお姉ちゃんだよ」


「………」


 世界は、狭いね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ