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悪の限りを尽くす…つもり  作者: 雷抖
東大陸編
14/51

手下

「さて…、…ん?」


「…おい、しっかりしろ!」


 獄鳴亭を出て少し歩くと、目の前に見た事のある筋肉ゴリラが居た。というかさっき蹴散らした筋肉ゴリラと他二人だ。筋肉ゴリラが二人を抱えながらのそのそと歩いていた。


「…お前ら、まだ居たの?」


 思わず声を掛けると、筋肉ゴリラはびくっとして動きを止め、ゆっくりこちらを見た。


「お、お前は!?…まだ居たも何も、お前がこいつらをぶっ倒したから大変なんだよ!そもそも今さっきの出来事だろうが!」


「あぁ、そういやそうか。……それはさておき、随分な口のきき方だな?また潰されたいのか?」


「あ……いや、悪かったよ…」


「悪かった?」


「申し訳ありませんでした!」


 ちょっと威圧して問うと、面白いくらいにピシッと背筋を伸ばして謝った。…それはいいけど、同時に仲間二人を落としてるぞ。


「………ふむ、そういや、悪党にはこんな感じの手下がつきものだよな」


 何となくのイメージだが、手下を統べる大悪党。それ、かなり良いね。そうと決まれば。


「おい筋肉ゴリラ。お前らって誰かの配下か?」


 おっと、この聞き方は違うか。これじゃ答える訳が…


「誰が筋肉……、ああん?俺達はゴギゲ三人衆だぜ?誰の指図も受けねぇ!」


 答えた。馬鹿だった。


「……なにその名前。…とにかく、誰の配下でも無いんだな?」


「おうよ!」


「なら、お前ら今から俺の手下な」


「………は?」


 俺の言葉が理解出来なかったのか、筋肉ゴリラは間抜けな顔を披露した。


「お前ら俺に負けただろ?だから、俺の手下な」


「ま、待て待て待て!どうしてそうなる!?」


「…お前ら、負けた。俺、勝った。敗者、勝者に従う。解る?」


「……少なくともテメェが馬鹿にしてんのは分かった」


「馬鹿にはしてねぇよ?馬鹿だとは思っているけど」


「おい!」


「……面倒臭いな」


 筋肉ゴリラの頭を掴む。


「あ?」


「よいしょ」


 そして、徐々に力を込めていく。因みに、まだ《護影装(ごえいそう)》と《腕昇(わんしょう)》の効果は継続中だったり。


「い、いで……、痛い…痛…、イタタ!イデデデデデ!!?」


「さて、もう一回だけ言ってやるよ。…手下になれ」


「イギァァァ!!?わ、わか、解った!!てし、手下になる!手下になるから離しアァァァァ!!!?」


「手下に…なる?」


 更に力を込める。


「アギャァァァ!!?て、手下になります!…手下にしてくれ…下さい!た、頼みますから手下にして下さァァァ!!!」


「ふむ、頼まれちゃ仕方無い。手下にしてやるよ」


 筋肉ゴリラから手を離す。…おっと、ちょっとやり過ぎたかも。血が滲んでる。


「イギッ……、イハッ……ウゥグ……」


「……スマン、ちょっとやり過ぎた。《治球(ちきゅう)》」


 下級治癒魔法《治球》。球体状の淡い光を生み出す魔法で、その光る球体を対象に押し当てると、軽度の傷や疲労を癒す事が出来る。下級だから癒す力も弱いし、一人にしか効果が無いけど、今みたいな時に使える。一般に広く知られる魔法の一つだ。他には光魔法の《灯光(ともしび)》や熱魔法の《種火(しゅか)》が有名だな。生活に役立つ魔法としてだけど。


「……あれ?痛く…ねぇ…」


「まぁ、手下にしたからには、このくらいはな」


 このくらいも何も原因は俺だけど。


「ついでにほいっと」


 倒れてる二人にもそれぞれ《治球》をかけてやる。すると、小さく呻いた後に目を開けた。


「…うぅ、ここは?」

「……ぁべ、……?」


「二人共、大丈夫か?」


「あ、あぁ……、何があったんだっけ…」

「…ぐ、…はて?」


 混乱していた二人だったが、俺を見て何があったか思い出した様だ。


「て、テメェは!?」

「!!」


「ハァ、またこれか。おい手下1号。説明」


「…手下1号って」


「だって名前知らないし」


「お、おい!何仲良く話してんだよ!」


 ヒョロ長身改め手下2号が叫んだ。


「……、…ゴリダンだ」


「ゴリラ?」


「ゴ・リ・ダ・ン!!誰がゴリラ…いや何でも無いですすみません」


 筋肉ゴリラその一改め手下1号改め、ゴリダン。威圧的になるなら、相応の覚悟を持ってからな?そんなゴリダンがすんなり名前を言った事に衝撃を受けたらしい手下2号。手下3号は黙ってる。


「お、おいゴリダン!何でそんなアッサリ答えてんだ!?」


「手下2号、あと3号。お前らの名前は?」


「だ、誰が教えるかよ!」

「お、オウよ!」


「………へぇ」


 薄く笑みを浮かべる。ゴリダンが「知らねぇぞ…」とか言ってる。



~30秒後~


「ギ、ギムドだ…ギムドです!!」

「げ、ゲンドウです!!」


「…やっぱりか」


 アッサリ答えた2号改めギムドと3号改めゲンドウ。それを見てゴリダンが遠い目をしながら呟いた。


「よし、ゴリダンにギムドにゲンドウか。…ん?ゴギゲ三人衆ってもしかして…?」


「…俺達の名前から取った…取りました」


 やっぱりか。安易だなー。【カジーフロット】にしろコイツらにしろ。流行ってるの?


「さて、手下共。最初の命令だ」


「何だ…、何でしょう?」


 ゴリダン…、いい加減諦めろよ。…いや違うか、敬語に慣れて無いのか。誰の指図も受けないとか言ってたしな。


「美味しい料理屋まで案内しろ。腹へった」


「……美味い料理屋?」


 俺がそう告げると、三人が丸くなって相談を始めた。…おっと、失敗したかも。コイツらがマトモな味覚を有しているか定かじゃないしな。……解毒は、大丈夫。使える。


「…なら、商業区の外れにある、子羊食堂はどうですかい?」


「なにその可愛い名前。お前らそんなトコで食ってんの?」


「別に何処で食ってもいいじゃない…ですか」


「…てか商業区の外れ?大通りの方じゃなくて?」


 あれか?ちょっと外れにある寂れつつも美味い店的な?


「あ、いや…、俺らはその、大通りは…」


「……あぁ、そうか」


 確かに、コイツらが商業区の大通りを歩いてたら、即座に騎士団の連中が飛んでくるな。


「…ま、俺も今大通りは行きたくねぇし、ちょうどいいか」


「え?」


「何でもねぇよ。…ほれ、案内しろ」


「………。」


「奢ってやるから」

「さぁ!こっちですぜ!」

「早いとこ行きやしょう!」

「飯!飯!」


「……現金な奴らだな」


 急に乗り気になった三人に先導されながら歩く。しばらく歩いていると、ゴリダンが遠慮がちに聞いてきた。


「あの……、えっと…親分」


「親分…。親分はなんかやだな」


「な、なら何て呼びましょう?というか、お名前をまだ聞いて無いんですが…」


「あ?そうだっけ?…俺の名前は、アル。アル・レーベンだ。」


「それじゃあ……、アルの旦那?」


「……ん、まぁそんなトコか?」


 アルの旦那。…ま、いっか。


「んで?どうした?」


「アルの旦那は…、何でこんなトコに?」


「…それは、何でスラムに居るか…って意味でいいのか?」


「へい。…言っちゃなんですが、アルの旦那はその、この辺を歩く様な人に見えないモンで…」


 む、また言われたな。ゼビュンにも言われたけど、どうも俺は悪の貫禄が無いみたいだな。…貫禄も何も、まだそんなに経っていないもんな。出るわけねぇか。

 それでも、言う。


「俺は、悪党だからな」


「悪党……、確かにやってる事はそうですね」


「あ?」


「何でもございません!」


 この短い間に、ずいぶんと慣れたな。ゴリラ…じゃなくてゴリダン。


「…お、見えて来たぜ。あれが子羊食堂ですぜ」


 ギムドが指差す先には、一軒の建物が。全体的にこじんまりとしていて、あまり大人数では入れなさそうだ。というか、煙突からの煙と看板が無かったら、ただの誰かの家だな。建物の左側に建物の二倍程の高さの木が生えていた。…建物がそこまで大きくないから、木の高さもそれなりだけど。


「…本当にあれがそうか?」


「ウス、あれがスラムの人間も入れる料理屋、子羊食堂です」


「…ゲンドウ、よだれ拭け」


「おっと失礼」


 食い意地張った筋肉がゲンドウか。そして敬語に慣れてきた筋肉がゴリダンでまだ何か敬語になりきってないヒョロがギムド。


「…まぁいいか。んじゃ入ろうぜ」


 三人を伴って、子羊食堂の扉を開いた。

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