悪事、成功?
「さぁ、アルさん。説明していただきますよ」
メリシアが詰め寄ってくる。
「説明ってもな…」
正直に話した所で信じるかは分からないし、そもそも強盗自体はやっちゃってるからどのみちアウトだしな……。
なんて考えていたら、カルスが辺りを見渡し、なにやら考え込んだあと、口を開いた。
「ふむ…、店の惨状、この場の状況、アルの持ってる物、それらを統合して考えるとこうか?
この店に強盗に入ったアル。上の連中を倒して宝飾品を強奪、その後何か他にも無いか探しにきた所でこの地下室を発見、突入してそこのスキンヘッドを倒し、そこで俺達がやって来た…、そんなとこか?」
「お前凄ぇな!?」
ほぼ正解じゃねぇか!?名推理にも程があるぞ!?まるで見ていたかのような推理…、もう凄いを通り越して恐いわ!
「お、その反応は正解か?」
「そうなんですか?アルさん」
「…あ、あぁ、まぁその通りだ。……流石、隊長って事か?」
「ハハッ、このくらいなら、メリシアにも解っただろ。なぁ?メリシア」
「え!?」
カルスの言葉に、分かりやすい位動揺するメリシア。…こいつ、気付いてないぞ。
「もも、もちろんじゃないですか!」
「どこ見て言ってんだ?」
そっちは壁だぞ。
「…さて、そういう訳で、俺はこの辺で……」
メリシアが動揺している内に逃げよう。そう思ってこの場を離れようとしたけど、カルスに捕まった。ダメか。
「おっと待て。今回はお前の犯罪を見逃す事は出来ないぞ?それに言っただろ?次に会ったらその時は逃がさないと」
「……はて、言ったかな?覚えてねぇや」
「じゃあ今言おう。逃がさないぞ?」
俺の肩を掴む力が強まった。…地味に痛いぞ。……それはともかくとして…だ。
「なぁ」
「ん?どうした?」
「俺を捕まえるのもいいけどさ、その前にあの子達を解放させるのが先じゃね?」
そう、俺に構う前に、まず子供達を助けるのが先だろ。怯えてるぞ?
「おっと、これは失礼。おいメリシア、こいつ見張っとけよ」
「はわ!あ、はい!」
…お前、いつまで壁に向かってんだよ。あと俺は犬か!
「さて。…もう大丈夫だからな、今出してやるからな」
柔らかい口調で子供達に告げるカルス。そして檻の扉をバキッとやって開ける。…力ずく~。
「ほら、開いたぞ。出て大丈夫だぞ」
「………」
カルスの言葉に、しかし子供達は応じない。というか、怯えてるな。…まぁ、檻を力ずくで破るとか、怖いか。
「…参ったな…、怖がられちまったか。…メリシア、変わってくれ」
「あ、はい」
カルスと交代でメリシアが子供達に近寄った。そしてカルスは俺の傍に。……チッ。
「…もう大丈夫だよ?お姉さん達は怖くないよ?ほら、出よっか」
……誰だアレ。…いや、そういや列車で最初に会った時もあんな感じだったな。あれは相手を油断させる為のアレなのか。…俺には残念ながら効かなかったから、すぐに素に戻ったけど。
「………。…お姉さん達、騎士の人?」
最年長らしき男の子が、恐る恐るそう聞いた。
「! そうだよ、私達は騎士だよ。私達が来たからにはもう大丈夫!」
メリシアが胸を張ってそう答えると、何故か子供達は丸くなって何かを話し合っていた。
「ど、どうしたの?」
メリシアがそう聞くと、女の子がじろっとした目でメリシアを見ながら聞いた。
「あのおにぃちゃんも、きし?」
そう言って指差した先にいたのは、俺だった。…?俺が騎士じゃないのは言ったと思うけど、理解できなかったのか?
「あー…、あの人は違うわ。あの人は…」
「ごうとうさん」
「そう、強盗さん。………え?」
「おねーさんたち、ごうとうさんをつかまえるの?」
「え、えぇ。それが役目だから…」
メリシアが肯定したその時、子供達が一斉に檻から飛び出してきて、メリシアとカルスにしがみついた。
「わ、わ」
「お、おいおい、いきなりだな」
二人も困惑している。…確かに唐突だな。と思っていたら、あの女の子がメリシアにしがみつきながら俺を見て言った。
「にげておにぃちゃん!つかまっちゃう!」
「え?」
「は?」
「そういう事か…!」
逃げてって…。まさかその為に、二人の動きを抑える為にしがみついて…?
「逃げて下さい!」
最年長の男の子も必死にカルスの動きを邪魔しながら言った。
「…なぜに?」
それが分からない。俺は別にこいつらを助けてはいないし、逆に見捨てようとしてたんだぜ?
「僕たちを助けてくれたのは騎士さんではなくあなただ!だから、逃げて下さい!!」
「ちょ、ちょっと、どういう事?」
「…ったく、厄介な奴だな。子供達を手懐けてやがったか」
「にげておにぃちゃん!」
「………」
誤解…なんだけど、厚意は素直に受け取っとくか。
「おぅ、ありがとな!」
「あ、待って!…みんな離して!」
「……こりゃ、意外と手強い相手だな」
地下室を抜けると、騎士らしき奴らが二人事務室に居た。
「ん?誰だお前?」
「そこどけ!《流纏》!」
「うわ!?」
中級流動魔法、《流纏》。色んなモノを受け流す流れを自分の周りに纏う魔法で、固定されていない物や人、飛道具や下級の魔法なんかを受け流す事が出来る。中級なので汎用性はそこまでではないけど、邪魔されずに走りたい時とかに使える。ちなみにこれ以上になると相手を吹き飛ばしたりしてしまう為、被害が増してしまったりするので、そっちは使いにくい。…相手を考えなければ使えるけど、子供達に助けて貰ったから、それ使うのはね。
「よいしょ!」
窓から脱出して逃げる。そのまま裏路地をしばらく走って、スラム付近まで来てから、ようやく止まる。
「はぁ、ふぅ……。ここまでくりゃ、大丈夫だろ。…あーあ、突然だったから奪ったモノ全部置いてきちまった…。」
通りで軽い訳だ。結局今回も失敗か…。
カチャン
「……ん?」
何か落ちた。拾ってみるとそれは、青い宝石のはまったペンダントだった。
「これ、どっかに引っ掛かってたのか?」
てことは…。
「悪事、成功?…でも、これ一個とか、強盗じゃなくて万引きだよな」
いや、店に押し入ったし、一応は強盗か?…でも、正直ショボいな。一個だけじゃあんまり金にならないだろうし、つーか盗品売れる所とか知らないし、どうしよ。
そんな事を考えていると、前方に見覚えのあるちっちゃいのが…。
「おーい、ゼビュンー!」
俺が叫ぶと、ゼビュンは肩をビクッとさせて周りを見回し、俺を見つけると凄い形相で向かって来た。
「俺様に恨みでもあんのか兄ちゃん!」
開口一番、そんな事を言ってくるゼビュン。
「恨み…、そういや昨日は匂いが染み付いて大変だったぜ」
「そんなことで俺様を牢にぶち込む気か!?どんだけ潔癖症なんだよ!」
「…なんか、話が通じてない気がするぞ。」
「……ハァ。あのな、昨日も言ったが俺様の仕事は犯罪だ。しかもある程度は悪名も通ってる。なのに兄ちゃんは…」
「……あぁ、名前叫んじまったな。悪い、気が付かなかった」
「…まぁ、今回は許してやるけど、次は気を付けろよ。…んで、用件は何だ?まさか見掛けたから声を掛けただけとか言わねぇよな」
「違うけど、ダメなのか?」
すると、何故か少し赤くなりながらゼビュンは言う。
「…別に、ダメじゃねぇけどさ…」
「? 声を掛けたのは、これをやろうと思ってさ」
そう言って、俺はペンダントをゼビュンに渡す。
「何だ?…ってこれ!?どどど、どういう事だ!?なな、何で俺様にこんな……!?」
やけに慌ててるな。もしかしてちょうど欲しかった奴だとか?
「いや、さっき宝飾店に強盗しに行ったんだけど、色々あってそれしか盗ってこれなかったんだよ。一つだけあっても仕方無いし、どうしようかと思ってた時にお前を見掛けたからさ」
「………強盗?兄ちゃん、その為にここに来たのか?」
「強盗の為ってか、悪事の為だな。なんせ俺は悪人だからな!」
「……兄ちゃんは悪人ってより善人って感じだけどな。見た目とか、雰囲気とか」
「ありゃ、まだまだ悪党オーラが弱いか」
ま、数をこなせば強まるだろ。
「…けどさ、一つだけって言うけどよ、このペンダント結構な値打ちモンじゃねーのか?売ればそこそこの金になると思うぞ?」
「いや、いいよ。何処で売ればいいかも知らねぇし、そこそこじゃな…」
「俺様が裏の質屋紹介してやろうか?」
「いや、大丈夫。俺の初めて成功した悪事の記念に、貰ってくれ」
「記念にって…」
「要らないなら売っ払ってくれても良いからさ。…じゃ、また会おうぜ!」
「あ、おい!」
宿に向けて走り出す。
「………売るわけねぇじゃん」
そんな声が、路地に消えた。




