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悪の限りを尽くす…つもり  作者: 雷抖
東大陸編
12/51

悪事、成功?

「さぁ、アルさん。説明していただきますよ」


 メリシアが詰め寄ってくる。


「説明ってもな…」


 正直に話した所で信じるかは分からないし、そもそも強盗自体はやっちゃってるからどのみちアウトだしな……。

 なんて考えていたら、カルスが辺りを見渡し、なにやら考え込んだあと、口を開いた。


「ふむ…、店の惨状、この場の状況、アルの持ってる物、それらを統合して考えるとこうか?

 この店に強盗に入ったアル。上の連中を倒して宝飾品を強奪、その後何か他にも無いか探しにきた所でこの地下室を発見、突入してそこのスキンヘッドを倒し、そこで俺達がやって来た…、そんなとこか?」


「お前凄ぇな!?」


 ほぼ正解じゃねぇか!?名推理にも程があるぞ!?まるで見ていたかのような推理…、もう凄いを通り越して恐いわ!


「お、その反応は正解か?」


「そうなんですか?アルさん」


「…あ、あぁ、まぁその通りだ。……流石、隊長って事か?」


「ハハッ、このくらいなら、メリシアにも解っただろ。なぁ?メリシア」


「え!?」


 カルスの言葉に、分かりやすい位動揺するメリシア。…こいつ、気付いてないぞ。


「もも、もちろんじゃないですか!」


「どこ見て言ってんだ?」


 そっちは壁だぞ。


「…さて、そういう訳で、俺はこの辺で……」


 メリシアが動揺している内に逃げよう。そう思ってこの場を離れようとしたけど、カルスに捕まった。ダメか。


「おっと待て。今回はお前の犯罪を見逃す事は出来ないぞ?それに言っただろ?次に会ったらその時は逃がさないと」


「……はて、言ったかな?覚えてねぇや」


「じゃあ今言おう。逃がさないぞ?」


 俺の肩を掴む力が強まった。…地味に痛いぞ。……それはともかくとして…だ。


「なぁ」


「ん?どうした?」


「俺を捕まえるのもいいけどさ、その前にあの子達を解放させるのが先じゃね?」


 そう、俺に構う前に、まず子供達を助けるのが先だろ。怯えてるぞ?


「おっと、これは失礼。おいメリシア、こいつ見張っとけよ」


「はわ!あ、はい!」


 …お前、いつまで壁に向かってんだよ。あと俺は犬か!


「さて。…もう大丈夫だからな、今出してやるからな」


 柔らかい口調で子供達に告げるカルス。そして檻の扉をバキッとやって開ける。…力ずく~。


「ほら、開いたぞ。出て大丈夫だぞ」


「………」


 カルスの言葉に、しかし子供達は応じない。というか、怯えてるな。…まぁ、檻を力ずくで破るとか、怖いか。


「…参ったな…、怖がられちまったか。…メリシア、変わってくれ」


「あ、はい」


 カルスと交代でメリシアが子供達に近寄った。そしてカルスは俺の傍に。……チッ。


「…もう大丈夫だよ?お姉さん達は怖くないよ?ほら、出よっか」


 ……誰だアレ。…いや、そういや列車で最初に会った時もあんな感じだったな。あれは相手を油断させる為のアレなのか。…俺には残念ながら効かなかったから、すぐに素に戻ったけど。


「………。…お姉さん達、騎士の人?」


 最年長らしき男の子が、恐る恐るそう聞いた。


「! そうだよ、私達は騎士だよ。私達が来たからにはもう大丈夫!」


 メリシアが胸を張ってそう答えると、何故か子供達は丸くなって何かを話し合っていた。


「ど、どうしたの?」


 メリシアがそう聞くと、女の子がじろっとした目でメリシアを見ながら聞いた。


「あのおにぃちゃんも、きし?」


 そう言って指差した先にいたのは、俺だった。…?俺が騎士じゃないのは言ったと思うけど、理解できなかったのか?


「あー…、あの人は違うわ。あの人は…」


「ごうとうさん」


「そう、強盗さん。………え?」


「おねーさんたち、ごうとうさんをつかまえるの?」


「え、えぇ。それが役目だから…」


 メリシアが肯定したその時、子供達が一斉に檻から飛び出してきて、メリシアとカルスにしがみついた。


「わ、わ」


「お、おいおい、いきなりだな」


 二人も困惑している。…確かに唐突だな。と思っていたら、あの女の子がメリシアにしがみつきながら俺を見て言った。


「にげておにぃちゃん!つかまっちゃう!」


「え?」

「は?」

「そういう事か…!」


 逃げてって…。まさかその為に、二人の動きを抑える為にしがみついて…?


「逃げて下さい!」


 最年長の男の子も必死にカルスの動きを邪魔しながら言った。


「…なぜに?」


 それが分からない。俺は別にこいつらを助けてはいないし、逆に見捨てようとしてたんだぜ?


「僕たちを助けてくれたのは騎士さんではなくあなただ!だから、逃げて下さい!!」


「ちょ、ちょっと、どういう事?」


「…ったく、厄介な奴だな。子供達を手懐けてやがったか」


「にげておにぃちゃん!」


「………」


 誤解…なんだけど、厚意は素直に受け取っとくか。


「おぅ、ありがとな!」


「あ、待って!…みんな離して!」


「……こりゃ、意外と手強い相手だな」


 地下室を抜けると、騎士らしき奴らが二人事務室に居た。


「ん?誰だお前?」


「そこどけ!《流纏(りゅうてん)》!」


「うわ!?」


 中級流動魔法、《流纏》。色んなモノを受け流す流れを自分の周りに纏う魔法で、固定されていない物や人、飛道具や下級の魔法なんかを受け流す事が出来る。中級なので汎用性はそこまでではないけど、邪魔されずに走りたい時とかに使える。ちなみにこれ以上になると相手を吹き飛ばしたりしてしまう為、被害が増してしまったりするので、そっちは使いにくい。…相手を考えなければ使えるけど、子供達に助けて貰ったから、それ使うのはね。


「よいしょ!」


 窓から脱出して逃げる。そのまま裏路地をしばらく走って、スラム付近まで来てから、ようやく止まる。


「はぁ、ふぅ……。ここまでくりゃ、大丈夫だろ。…あーあ、突然だったから奪ったモノ全部置いてきちまった…。」


 通りで軽い訳だ。結局今回も失敗か…。


カチャン


「……ん?」


 何か落ちた。拾ってみるとそれは、青い宝石のはまったペンダントだった。


「これ、どっかに引っ掛かってたのか?」


 てことは…。


「悪事、成功?…でも、これ一個とか、強盗じゃなくて万引きだよな」


 いや、店に押し入ったし、一応は強盗か?…でも、正直ショボいな。一個だけじゃあんまり金にならないだろうし、つーか盗品売れる所とか知らないし、どうしよ。

 そんな事を考えていると、前方に見覚えのあるちっちゃいのが…。


「おーい、ゼビュンー!」


 俺が叫ぶと、ゼビュンは肩をビクッとさせて周りを見回し、俺を見つけると凄い形相で向かって来た。


「俺様に恨みでもあんのか兄ちゃん!」


 開口一番、そんな事を言ってくるゼビュン。


「恨み…、そういや昨日は匂いが染み付いて大変だったぜ」


「そんなことで俺様を牢にぶち込む気か!?どんだけ潔癖症なんだよ!」


「…なんか、話が通じてない気がするぞ。」


「……ハァ。あのな、昨日も言ったが俺様の仕事は犯罪だ。しかもある程度は悪名も通ってる。なのに兄ちゃんは…」


「……あぁ、名前叫んじまったな。悪い、気が付かなかった」


「…まぁ、今回は許してやるけど、次は気を付けろよ。…んで、用件は何だ?まさか見掛けたから声を掛けただけとか言わねぇよな」


「違うけど、ダメなのか?」


 すると、何故か少し赤くなりながらゼビュンは言う。


「…別に、ダメじゃねぇけどさ…」


「? 声を掛けたのは、これをやろうと思ってさ」


 そう言って、俺はペンダントをゼビュンに渡す。


「何だ?…ってこれ!?どどど、どういう事だ!?なな、何で俺様にこんな……!?」


 やけに慌ててるな。もしかしてちょうど欲しかった奴だとか?


「いや、さっき宝飾店に強盗しに行ったんだけど、色々あってそれしか盗ってこれなかったんだよ。一つだけあっても仕方無いし、どうしようかと思ってた時にお前を見掛けたからさ」


「………強盗?兄ちゃん、その為にここに来たのか?」


「強盗の為ってか、悪事の為だな。なんせ俺は悪人だからな!」


「……兄ちゃんは悪人ってより善人って感じだけどな。見た目とか、雰囲気とか」


「ありゃ、まだまだ悪党オーラが弱いか」


 ま、数をこなせば強まるだろ。


「…けどさ、一つだけって言うけどよ、このペンダント結構な値打ちモンじゃねーのか?売ればそこそこの金になると思うぞ?」


「いや、いいよ。何処で売ればいいかも知らねぇし、そこそこじゃな…」


「俺様が裏の質屋紹介してやろうか?」


「いや、大丈夫。俺の初めて成功した悪事の記念に、貰ってくれ」


「記念にって…」


「要らないなら売っ払ってくれても良いからさ。…じゃ、また会おうぜ!」


「あ、おい!」


 宿に向けて走り出す。


「………売るわけねぇじゃん」


 そんな声が、路地に消えた。

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