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『長大に引き延ばされた一瞬という特異な磁場』

作者: tomo-p

つまりこれは、私がこの状況に気付いてから死の瞬間を迎えるまでの僅か数秒間だ。


いわゆる走馬燈というやつだろう。時間が引きのばされている感覚。そしてあれだけ長く苦痛だった人生が一瞬で過ぎ去るという矛盾。研ぎ澄まされた感覚と引き伸ばされた感覚が同居する奇跡。


人が死ぬ前の一瞬、誰しもが走馬燈体験をするというのなら、きっと人が生きてる意味はこれなのかもしれない。それほどまでにこの体験は快楽であった。まるで来たる死を緩和しているようだ。


そもそも、一瞬なのにもう十分もこうやってしゃべっているのはおかしいと思うかもしれない。私もそう思っていたところだ。


時の流れが場の重力や磁力によってかわるということを、私は走馬燈をみながら思い出していた。

死の直前の精神エネルギーが時の流れに逆らうほどのものであることも容易に想像できる。


残された短いながらも悠久の時に僕は何をしていたか。


残された家族への言葉も考えた。

今までの人生も何度も振り返った。

こうして小説も書いた。

それでもまだまだ時間が残されている。


もう楽になりたい。苦しくなりたい。永遠に続く快楽は拷問と変わりはなかった。

しかし残された時間は続く。


ああ。いつまで私は死にむかって歩み続けるのだろう。

いや、人間はだれしもが生まれたとこから死へ歩み始めているのだ。


その後真の数秒間が経過した。男は死亡。死後にゼク(死体解剖)にまわされたが、大脳白質に著明な萎縮を認めたため、若年性の認知症による事故死と結論された。死ぬ前の経験が脳に負担をかけ、萎縮をひきおこしたのかもしれないし、逆に萎縮があったからこそこのような異常感覚がひきおこされるのかもしれない。脳の中で彼はいまもまだ死に続けているのかもしれない。





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― 新着の感想 ―
[良い点] ボクが生涯こだわるであろう走馬燈というテーマについて、胸に手を当てるようにじんわりと静かな語り口で穏やかに追窮していく感覚…無限に与えられた時間への愉悦と恐慌とが混在する永遠の深淵をリアリ…
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