序
ニュー速VIPワナビスレでもらったお題「こどく」
三浦加奈子は孤独を愛している。
特に高校からの帰り道、友人二人と別れて一人になった時の孤独感は、当時の彼女にとって最高の快感であった。水風呂に一瞬で肩まで浸かったかのような冷たさと爽快感がある。彼女は、もはやその為だけに全ての友人関係を保っていたと言っても過言ではなかった。
しかし、そのような記憶も、今となっては遠い昔のことの様に思える。
「あ、あがああああああああっ!!!!」
四畳ほどの部屋。その酸化アルミの壁に、断末魔が反響する。
ガシュッ、と。
断末魔の主である中年の男をヘッドロックする彼女の腕の中から、生卵を割るのに似た感触が伝わってくる。
程なくして男の肢体から力が抜け、大理石の床に吸いつくように倒れ伏す。
男の死体は頭が歪に変形している。
彼女はそれを感情の無い目で見下ろしながら、最初に人を手にかけた時のことを思い出していた。
始めはなるべく苦しまないようになどと考えていた。それがそのうち効率を求めだし、今となっては様々な殺し方を試すのにも飽きが来始めている。
だが、それももう終わった。
彼女の左手の甲に刺青のように黒く刻まれた「000000002」という数字の「2」が蠢き、「1」に変わった。
殺す相手が地球上から消え去ったのだ。
それを確認した瞬間、不意に彼女の脚ががくがくと震えだす。
すぐにままならなくなり、死体のとなりにぺたんと座り込んでしまう。
迫りくる何かに怯えるように、無意識に自身を抱きしめる。
間もなくそれは訪れた。
「おっ……ほお……おっ……」
自分の意志とは関係なく声が漏れ出る。目はとろんとし、肌は際限なく上気していく。
今彼女の矮躯に駆け巡っているのは、疲労感と、達成感と、かつてない規模の『冷たい快感』であった。
この広い地球に自分だけしかいない。そう実感するほどに快感が津波のように押し寄せ、彼女を中心に発生した温かい水たまりも押し広げられていく。
もし今目の前に鏡があったならば、自分のはしたない顔面を見ることができるだろう。ボイスレコーダーか何かがあれば、自分のオットセイの様な声が録音できただろう。彼女は押し流されそうになる思考の端でそう推測する。実際は完全に白眼を向いているので少なくとも見ることは叶わないだろうが。
だらしなく開きっぱなしの口から溢れ出た唾液は、身長の割にふくよかな胸をつたって、温かな池に注がれる。
そのうち二、三度強く痙攣したかと思うと、自分の作った池の中に仰向けに倒れてしまった。
薄れ行く意識の中で、彼女は三年前のことを思い出していた。
人類がおもちゃになったあの日。正確には、そもそもおもちゃだったのだが。
まだなし