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ざまぁ?

眼鏡を外したら美人!!!

定番が好きです。

イケメンの幼馴染とか、眼鏡や長い前髪に隠された美少女のヒロインとか。

本当に、定番が好きなんです。



 彼女、美甘(ミカン)は、いつも分厚い眼鏡と古臭いおさげ頭だった。


 それが彼女の定番。

 それが彼女のライフスタイル。


 そんな彼女には、定番なイケメン幼馴染がいて、イケメン幼馴染がいる故に彼の信者(糞ビッチ)から、いじめを受けていた。


「なんであんたみたいなのが」「ブスが調子こいてるんじゃねーよ」「王子(イケメン幼馴染の数年後には恥ずかしいあだ名)の前から消えて!」


 信者(糞ビッチ)達は、彼女に要求する。

 使い古された罵りの言葉を彼女に突きつけて。


 信者(糞ビッチ)達もイケメン幼馴染も知らない真実。


 そう、彼女は、少女漫画での定番中も定番。


 眼鏡を外したら美人だったのだ!



△▼△


 朝、玄関を開けると、隣の玄関の扉も開いた。

 美甘のイケメン幼馴染こと優斗(ゆうと)が、同じタイミングで登校するのだ。


「おはよ」

「………」


 優斗が美甘の朝の挨拶を軽く無視するようになったのは、かれこれ4年前。

 小学六年生の頃の話だ。

 それまで、同じ学校だったので親のいいつけ通り、一緒に学校に通っていたのだが、それを見かけた優斗の男友達が「優斗、眼鏡の事好きなのか? げへへ」と、からかったのが始まり。

 これまたお決まりの「あんなブス! 好きじゃねーーよ!」という啖呵と共に、その日から優斗の美甘への無視が始まった。



 しかし、美甘は気にしない。


 いや、実は3日程は気にしていたのだが、ふと「どうでもいいや」と思ったのだ。

 それ以来“優斗”というイケメン幼馴染は、美甘の脳内にある『どうでもいい人フォルダ』にカテゴライズされた。


 

 美甘は、ただ顔を合わせたから“挨拶”をしただけで、イケメン幼馴染の優斗だからしたわけではない。彼女は目があったのなら、そこらに歩いている野良猫でも挨拶をしただろう。彼女にとって、優斗は野良猫と同列、はたまたそれ以下だった。



△▼△


「美甘、おはよー」

「おはよ」


 教室に入って、美甘に声をかけてきたのは、中学からの腐れ縁。その名を咲良(さくら)という。


「今日は、珍しくも王子とご一緒? また信者に睨まれるよ~?」

「? 王子?」

「美甘のイケメン幼馴染様の事よ」

「イ…ケメン…お…さなな…じみ?」

「あーーもう! ほら、同じクラスの速水優斗! ほら、窓際にいるでしょ?」

「ああ、クラスメートの男子の事かー」

「……相変わらず、興味がない人間に対して容赦ないわね」


 咲良の説明に、ようやく納得した美甘は鞄から教科書を取り出し机にしまい込もうとした。しかし、中にはゴミが詰まっていて、教科書の一冊もはいる隙間がなかったのだ。


「ぐわ。イケメン幼馴染の信者の仕業ね。ちょっとゴミ箱持ってくるわ」

「………」


 美甘は、机の中に手を突込み、ガサガサガサとその中にあったプリントを広げる。その他、まだ冷たい紙パックジュースを銘柄を見て、美甘は分厚い眼鏡をくいっと人差し指で持ち上げた。


「このジュースは東館の自販機しかない。そして、このプリントの現国は美木多先生が作ったもので…東館で美木多先生が担当している2年のクラスは……」

「出た。美甘の推理」

「咲良、2-Bの信者って誰かわかる?」

「ちょっと待ってねー。Bクラスの友達にLINEで聞いてみる」


 咲良は慣れた手つきでスマホを操作し、1分もたたないうちに、美甘が欲しい情報を提示した。


「5人いるよって」

「その中で、今日、朝練があった人は?」

「……ちょい待ち……えっと、3人かな。内、2人がテニス部だって」

「なるほど」


 東館のそばには丁度、テニス部の部室があった。

 点と線が繋がる。


――次の日。


 Bクラスのとある女子、2名の机の中にはビッシリと隙間なくゴミが詰められていた。



△▼△



 ある日、イケメン幼馴染の優斗と美少女が一緒に下校していた。


 帰る家の方向が同じなので、美甘とばったりと出会った。


「……あ」


 なぜか、動揺する優斗。そして、期待を込めた目で美甘を見つめる。

 目が合う二人。


「さようなら」

「………」

「…優斗君?」


 美甘は何も表情を変えず、目が合った(・・・・・)ので帰りの挨拶をする。

 優斗は美甘が期待していた表情をしなかった事に、内心腹を立てていた。

 一緒にいた美少女は、この異様な空気に女の勘を働かす。




 ――それが、昨日の出来事。



 美甘は現在、見知らぬ不良3人に絡まれていた。


「誰とでも、ヤルってほんと?」「眼鏡とおさげって昭和の人かよ。もさい女ー。こんなんじゃ、勃つのも勃たねーわ」「さっさとヤッちまおうぜ」


 三種三様、好き勝手な事を言って、ジリジリと美甘に近づく不良3人。


 美甘がこの場所に呼び出されたのは、下駄箱に入っていた一通の手紙によるものだった。


“話があります。誰にも言わずに、来てください”


 ピンク色の可愛い便箋。そして…つい昨日嗅いだ……甘い香り。


 美甘は、分厚い眼鏡を人差指でくいっと持ち上げた。


「2-A在住。出席番号は6番。好きな食べ物は苺。嫌いな食べ物は貝類。ただし、好き嫌いのデーターは中学の卒業アルバムの情報なので更新されている可能性があり。加納物産の一人娘で、学年内“お嫁さんにしたい女子NO.1” 身長160センチに対してスリーサイズ上から88・60・86の加納礼香(かのうれいか)さんが、あなた達に、これって」


 3人に渡したのは、先ほどのピンク色した可愛い便箋だ。


「ええ!! あの礼香ちゃんが?!」「ちょ、貸せよ! 誰にも言わずに来てってだって!  可愛い字!」「まじかよー。って事は、誰でもヤル女って……」


「「「礼香ちゃんの事か!!」」」


 興奮気味の不良3人に対して、美甘は肩を竦めてその場を立ち去ったのだった。



△▼△



 また別のある日の事。


 美甘が、眼鏡をはずし髪もおろして登校してきた。


 ざわめくクラスメイト。

 明らかに顔色を変えたイケメン幼馴染。


「おい、誰だよ…あの美人!」「げ、眼鏡の席に座ったぞ」「うそぉ」


 隣のクラスの生徒も噂を聞きつけ、廊下に集まる。

 人ごみをかきわけ、美甘の元にやってきた友人咲良だった。


「美甘、おはよー。珍しいね。眼鏡、どうしたの?」

「…咲良? おはよ。…朝、踏んで…フレームが折れて…慌てて出たから、髪も結べてない」


 美甘は眉間にしわを寄せ、目を細めて咲良を見る。

 そんな美甘に、咲良は手を振って「こりゃ、見えてないわね」と呟いた。


「お母さんが、眼鏡屋さんに持って行ってくれるって言ってた。それで、昼休みには届けてくれるって」

「そうかそうか。昼休みまで、この咲良様が美甘のエスコートをして進ぜよう」

「うん。よろしくお願いいたします」


 ニコリ。


 ドキーーーーン!!


 咲良(友人)に向ける美甘の笑顔に、彼女を盗み見していたギャラリーのハートは撃ち抜かれる。

 機嫌が悪くなるイケメン幼馴染。


 授業の度に異性の教師は必ず美甘を2度見し、だらしがなく口許を緩める。

 休憩時間にトイレへ行く途中も、すれ違う男子生徒は湧きたち、視力不安定な事によってオドオドしている(ように見える)美甘に対して、庇護欲を勝手に沸かせていたのだった。



 ――昼休み。


 美甘は、母からのメールを貰って校門前まで急ぐ。

 咲良も一緒についていくと言ってくれたが、運が悪い事に部活での集まりがあったのだ。


「美甘、大丈夫? ちゃんと見える?」

「うん。大分、慣れてきたし、校門前までだから平気」

「知らない人に声をかけられても、ついていったらダメだからね」

「? うん」


 いつもの美甘になら言わないような事を咲良は言い残して、部室まで走って行った。

 一人残された美甘は、目をパチパチさせて教室を出る。


 手すりを持って、階段を下り一階までゆっくりゆっくりと降りていった。ぼんやりと歩いていたのがいけなかったのか、最後の一段を踏み外し、美甘の身体はぐらりと前から落ちようとした、瞬間。


「うわ、ぶなっ!」

「!!」


 誰かに抱きしめられる感触。


「大丈夫か? みーちゃん?」


 懐かしい声。 

 遠い昔、よく聞いた“みーちゃん”という独特なイントネーション。

 ドクドクと心臓の音がした。それは美甘のものなのか、はたまた懐かしい声の持ち主の者なのか。


「ありがとうございます」


 抱きしめられた身体を両手で押し距離をとった後、ニコリと笑ってその人がいる方向に笑いかけた。


「!!」

「じゃあ」

「あ、待って!!」


 壁に手をやり、壁伝いで下駄箱を目指していたのに、その手を掴まれる。


「校門前だよな? 一緒に行ってやるよ」


 そのまま、手はギュッと握りしめられて、美甘の返事を聞かずに、つかつかと前に進む()

 ぼんやりとした視界の中、声とズボンを穿いている事によって、美甘は声の持ち主を“彼”と判断したのだった。


「……眼鏡、はずした所…初めて見た」「なんで、俺に教えなかったんだよ……」「くそ、俺の4年間はなんだったんだ」「これからは、さ、俺の前だけにしてくれよ、な」


 ボソボソと耳を真っ赤にしながら、彼は美甘に一方通行ながら話しかけ続ける。

 それに対して美甘は「はぁ」「ひぃ」「ふぅ」「へぇ」と適当に相槌を打っていた。


 下駄箱で靴を履き替え、校門前まで一緒に行く。

 そこには、そわそわした美甘の母の姿があり、その姿を確認した彼は、会釈をしその場を離れた。


「みかーん。ほら、持って来たわよ」


 眼鏡屋の紙袋を高々と上げて、美甘の前まで駆け寄る美甘の母。


「お母さん、ごめんね。ありがとう」


 母から眼鏡を受け取り、すぐさま眼鏡をかける美甘。

 美甘の視界に、クリアな世界が舞い戻る。


「うふふふ。さっき一緒にいた男の子って、優斗くんでしょー」

「?」

「喧嘩をしていたと思っていたけど、いつの間にか仲直りしたのね」

「? あ、お母さん、もう時間がないから行くね! 眼鏡ありがとー」

「はいはい。今夜はカレーにするから。 いや、お赤飯がいいのかしら?」

「カレーもお赤飯も好きだよ。じゃあねー」


 いつもの分厚い眼鏡をかけた美甘は、母に向かって大きく手を振った後、機微を返して教室へ向かった。


「おい」


 下駄箱で靴を履き替えていたら、さっきの声の持ち主が声をかけてきた。


「先ほどは、ありがとうございました」


 美甘は改めて礼を言った後、彼に背を向け上靴の片方の異変に気付く。

 時間がなかったのか、片方の上靴には中途半端にペンキが塗られていた。

 それを見て、美甘は分厚い眼鏡を人差指でくいっと上げた。


「うわ………ごめん。それって、俺のファンクラブの子の仕業だよな……。ちゃんと、言うから。俺達(・・)が付き合っているって言ったら、あいつらもこんな事やめると思うし」


 ごちゃごちゃと何かを言っている彼に、美甘は一言。






「あの……あなた、誰です?」






 美甘は、眼鏡を外したら美人という少女漫画定番な少女だった。

 

 しかし、少女漫画定番な性格の持ち主ではなかった。

 恋に夢見る少女ではなく、定番のイケメン幼馴染に恋に落ちる事もなく、その存在すら頭から抹消した。ドライな性格だった。



 唖然とした表情で美甘を見る彼。

 分厚い眼鏡の奥で訝しげな瞳をした彼女。



 目が合ったので、とりあえず



「こんにちは」



 挨拶をしてみた。









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