零日目;序章
(セカイについて)
――世界から神は消えてしまった。
誰の言った言葉だったか。
どこかの宗教のお偉いさんだった気がするけれど覚えていない。言い回しもなんか違った気もするし。
ただ、そうだろうな、と納得した。
神はいない。
その言葉は心の奥に沈んで、澱としてどす黒く底に溜まって残っている。
しかし、世間では神様と言うものはいるとされている。
幼い頃、ばあちゃんに言われたのだが、この国には八百万の神がいるそうだ。
なんでも、山にも川にも神様がいて、物を大事にして使い続けると魂が宿り神様になったりとかもしてしまうらしい。
今の俺に言わせれば、馬鹿じゃないかって言う話だ。
ばあちゃんが子供だった頃にはいたのかもしれない。
でも、開国して外国と交流を持って数十年、日本と言う国は変わってしまったのだ。
次々に新しいものが作られ、古いものはどんどんと捨てられる。
川には汚水が流され濁り、山は開発で削り取られた。
最近になって、自然を守ろうとか言っているけれどもう遅い。
汚したり削ったりは簡単だが、元に戻すのはその何倍も難しいのだ。
神様と言う奴が綺麗な自然の中や大事にされたものに宿るなら、神様なんているわけないだろう。
だというのに、神を奉る団体は多い。宗教団体と言う奴だ。
大抵、祈れば救われるなんて教義を掲げ、多額の資金を教徒に出させるらしい。
けれど、神に祈ったとしても効果のほどはないんじゃないかと思ってる。
この宗教団体に入ると病気もしないで元気に長生きできると言って勧誘してきたお客様が、風邪薬を買っていたからだ。しかも、風邪薬買ってからの勧誘だったので説得力がない。
病気してんじゃんと心の中でツッコんでしまったのはしょうがないことだろう。
こんなときに、ふと思い出すのだ。
助けてくれる神はいない、と。
高い壷なんかを買って、祈りに時間を費やしても、救われない。
それを思うと、ちりりと胃が痛み、もやもやと割切れない気持ちにさせる。
神のいない世界は、不幸ではない。
けれども、時々残酷な世界ではある。
俺にとっては。