朝の自室にて
儀式当日、やる気のない王子:ナゴムとお守り役:カナメの会話です。
誕生日の朝、ナゴムは少し憂鬱な気持ちで目を覚ました。
「あぁ、緊張するなぁ。」
溜め息を吐いて窓を見つめる。雲一つない澄みきった青空が広がっていた。
城から少し離れた所には小高い丘がある。そこには天高く伸びた巨木が青々とした葉を繁らせて悠然と佇んでいた。
「おはようございます、ナゴム様。」
背後からの声に驚いて振り返る。
「え、なんだカナメかぁ。おはよう、今日は起こしにくるの早いね。」
「はい、本日はナゴム様にとって大切な日でございますから。」
カナメと呼ばれた青年は笑顔で答える。彼はナゴムの護衛兼お守り役を務めている。兄弟のいないナゴムは彼を兄の様に慕い、信頼していた。
「ねぇ、カナメ。儀式って絶対に受けないといけないのかな?」
「どうされたのですか、ナゴム様?その様な事を申されるとは…」
「だってボク、運動が得意なわけでもないし、勉強もそんなに好きじゃないもの。王位継承の資質なんて、ボクにはないよ。」
「不安なお気持ちは分かります。確かに、一国の王になられるには教養や武術などの素養も必要かもしれません。ですが、それよりも大切な事があるように思います。」
「教養や武術より大切な事って…?」
「それは御自身でお考えください。あまり出過ぎた事は申せません。あらぬ先入観を与えてしまうかもしれませんので。」
「え〜、難しいなぁ。」
口を尖らせてまた外へと視線を移し、丘の上を吹き抜ける風が優しく枝葉を揺らし、サワサワと音を立てている巨木を遠い目をして眺めた。
「相変わらず、あの樹は大きいよね。一番上の方なんて霞んで見えないよ。」
「(あ、現実から逃避されている)
生命の樹は天界に居られる神々と我らの住む地上を繋いでいると言い伝えられています。霞んで見えるのは、頂上が天界に達しているからではないでしょうか?」
「そっか、生命の樹の精霊がその役割を果たしてるんだよね。ボク、まだ見たことないなぁ。」
「…普段は生命の樹の周辺にいるので、こちらから何等かの働きかけをしなければ会うことはできない、と陛下から聞いたことがあります。」
「へぇ、そうなんだ。
知らなかったよ、カナメは物知りだね。」
感心したように呟くと、身支度を整えてカナメに向き直った。
「お待たせ。そろそろ行こうか、父上を待たせるのは良くないよね。」
「そうですね、参りましょうか。」
他愛のない会話で気分が紛れたのか、ようやく謁見の間へと向かう決心がついたナゴムであった。