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魔術便利屋(カニングフォーク)のお仕事  作者: マナ'
第一話「結局、現代にサンタさんなんていないのでした。でも魔術師さんはここにいます」
2/2

Chap.1 所詮ゲーム中毒者に何を言っても無駄なのです

 十二月の寒空の下学校から帰宅して、ホットココアでも飲んで暖を取っていると戸を叩く音が聞こえた。

 町外れの一軒家。交通にも生活にもいまいち便利とはいえない私の家に好き好んでくる人間など数えるほどしかいない。

「開いてるよー。どうぞー」

 入室を許可すると、待ってましたとばかりに勢い良くドアが開いた。来客はバタバタとうるさい足音を立て私のいる部屋へと一直線に入ってきた。

照流(てるる)――!」

 入ってきたのは予想通り私の親友。彼女はそのままものすごいスピードで私の元へ飛び込んできたので、私は私自身とココアを守るべく、十分に引きつけて、椅子から立ち上がり華麗に避けた。

「きゃぅ……!?」

 突進してきた張本人は、変な声を上げつつ止まることもできずそのまま床へとダイブした。なんとも愉快な友人だ。

「鳳……。あんた、イノシシか何か?」

 猪突猛進少女もとい火群鳳(ほむらあげは)は打ち付けたらしい鼻を押さえながら立ち上がった。

「む。ひどいよ、照流。胸に飛び込んできた人は寛大な心で受け止めてあげなきゃ」

「それ、本気で言ってるの?」

「勿論。あったりまえじゃん」

「……キモいおっさんでも?」

 素早く切り返す。すると鳳はむむむ、と口をとがらせてしまった。私だってキモいおっさんなど願い下げだ。というか、年頃の女の子の胸に飛び込んでくるおっさんはどう考えても犯罪者だが。

「でもー。こーんなに可愛い女の子なら大歓迎でしょ?」

 ――まぁ確かに鳳は可愛い。私もそう思う。美人とか、アイドル的可愛さというか、よく分からないが……そう。言うならマスコット的可愛さだ。うちの中学校でも学年や性別を問わず人気がある超人気者だ。

「ねぇ、てるるぅ」

 何故か顔をすりすり寄せてくる鳳。猫か。とりあえず鳳を対面の椅子に座らせた。私は残っていたココアを一気に飲み干す。鳳がなんだか物欲しげな目でこちらを見ていたが、意図的に無視した。

「ところで鳳。何の用?」

「あ。えーっとね。そう、照流が暇してるだろうな、と思って私が暇だったから来たの」

 ……。暇なことは確かに否定出来ない。不本意ながら。でも、鳳がそんな目的もないような目的でここに来たのではないと私はきちんと理解している。

「…………で、今日は何をやってほしいの?」

 鳳がうちに来るといったら、たいてい宿題のことだ。

「おー、よく分かったね」

 えへへーなどと何に対してよく分からない照れ笑いをし、鳳は手提げかばんからクリアファイルを取り出す。クリアファイルには四枚の数学の宿題プリントが挟まれていた。そしてさり気なくすっと私の元へ宿題を押し出した。

「んじゃ、よろしく!」

 元気良く叫び、自分はゲームを取り出したかと思うとマイワールドへとダイヴしていった。

 はぁ…………。

 いつもこれ。結局損するのは頼みを断れないお人好しな私だけ。どうせ、頼みごとなら本業の方のが来ればいいのにな。とかまぁそんな愚痴を言ったところでなんにもかわらないわけで。


 †


「なんでこの問題が解けないの? 公式に当てはめるだけじゃん」

 とりあえず作業を開始してから十五分。私は第一回目の不満を言ってみる。しかし鳳の華麗な対応といったら……。大絶賛ゲーム中な鳳は私に意味深な微笑みを返し、それ以上は何も反応を見せない。ふたたび某終わりを迎えそうにもない最後のファンタジーに没頭する。……いつものこと。そう、耐えなくてはいけない。これでも学力には自信があって、この程度の難易度の問題なら(実際、すごく簡単な問題なのだ)よどみなく解き進めることができる。

 いや、でも……。私がやっても、それはあくまで代わりにやっているだけだ。そう! 友人のためを思うなら、ここは鳳本人に、たとえ私が手伝ったとしても解いてもらうのが一番だ。それが友達というものでしょう。うん、決定。

 私はすかさず鳳のゲーム機を取り上げる。

「あぁ…………。あぁ…………」

 鳳は何とか取り返そうと、えいっえいっと手を伸ばす。しかし私のほうがだいぶ背が高かったりする。上まで上げてしまえば鳳の手が届くことはない。だが鳳はあきらめず、何度も手を空振らせている。ふと、昔猫で遊んだことを思いだした。やっぱ猫だ、こいつ。多分前世は。

 さすがにずっと続けているわけにも行かず、私はゲーム機の電源を消し終止符を打つ。

「あ…………」

 悪いのはどう考えても鳳なのにジト目で露骨にこちらを見てくる。私も負けじと……といきたいところだったけど、やめた。ここは穏便に行こう。

「私が教えてあげるから、ね?」

「…………」

 ぷいとそっぽをむく鳳。さすがに一筋縄にはいかないようだ。とはいえ鳳とはかれこれ五年の付き合いだ。行動パターンや思考パターンは理解しているつもり。私は机の下でこっそりと自分の財布を開いた。一葉さまこんばんは……。短い付き合いでした――!

「シエル・エトイルの期間限定スペシャルケーキを奢るってのでどう?」

「――――――!」

 たしかに今鳳の目が輝いた。でもすぐにそっぽを向いた。まだダメですか。ここまで来たらどうにでもなれ!

「あーーー! もう。期間限定スペシャルケーキセットプレミアム! これでどうだ!」

 言って後悔する私。

「のったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 スイッチが入ったらしい鳳は私の手元にあった宿題を奪い取り、謎のスピードで問題を解き始めた。まったく、解けるなら最初から解いてもらいたいものだ。それにしてもまた他人のことでお金を使う羽目になってしまった。収入がないのに支出ばかり増えていく。どうせ私は馬鹿ですよーなどと嘆きつつクッキーなぞやけ食い。なんにせよ、鳳が自分から勉強してくれたからいいかなぁと一応ここで完結させておく。

 しかし所詮鳳は鳳なのである。案の定十分もしないうちに、シャーペンを動かす速度は最大時の十パーセントまで落ち込んでいた。結局渡しがやる羽目になってしまう。あぁ、お客さん来ないかなぁ。

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