盲目の恋
「はあー……」
私、雨宮麻莉
二十歳で社会人なりたてのひよっ子である。
先月から化粧品メーカーで働いている
ただまだまだ新米な私、いつも上司に怒られるのだ
「ったく…あのクソジジイ、なにもあんなに怒らなくても…」
今日も仕事でミスしてしまい、雷を浴びされた
「はぁぁ…」
とため息
もうすぐ夕陽が沈みそうだ。
駅の方へと歩いていると
「…どーしたんだろ、あの人」
自転車の前で一人の男性が立っていた
白い杖のようなものを持っていた、よく目が見えな
い人が使うような…
目…見えないのかな?
どうやら自転車の前で止まっているのは点字ブロックの上に自転車が駐車していからみたいだ
うーん…別に、いいよね…他の誰かが助けるでしょ…
今私は自分の事で精一杯なのだ
「……」
「…あの」
助けることにした
「は、はい?…」
相手はびっくりしたようだ
見た目は若そうだか、髪はボサボサで、薄いサングラスを掛けていた
「あの…大丈夫ですか?」
「え…あいや、大丈夫ですよ、はは…」
苦笑いがかえってきた
「いや、でも…そこにいたままじゃ危ないですから…向こうに行きましょう」
グッと男の手を引いた
「わっ」
男は驚いたようだが、すぐ落ち着いた。
とりあえず、近くの公園のベンチに座らせた
「…あのここは?」
「公園のベンチです、すいません…急に引っ張ったりして…」
「いや助かったよ、ありがとう」
男はにこやかに微笑んだ
「いやー、そんなことないですよー!」
正直、めっちゃ照れた
「あ、そーえば何処に行こうとしてたんですか?よかったら送りましょうか?」
と私
「家に帰ろうとしてて…いやでもいいよ、そんな」
「いいですよ、時間あるんで」
どーせ独り暮らし、家に誰もいないし
「あ、ありがとうございます…!」
深々と頭を下げられた
彼の家は駅から少し離れた所にあった、かなり古そうな感じのアパートで、玄関から見えるまででも部屋の中もかなり乱れてて、正直人が生活出来るような様子ではなかったくらいだ。
「ありがとう…あ、よかったらお茶していくかい?お礼ってわけじゃないけど…」
と彼
外はかなり暑かったので、ノドが渇いていた私は
「んじゃお言葉に甘えて」
「ああどうぞ、汚ないだろうけど…」
家に上がった私は4、5畳位の部屋に通された
少しして、お茶とお菓子を持った彼が戻ってきた
「今更だけど…君名前は?」
と彼
「雨宮麻莉です…私も今更ですけど、貴方の名前は?」と私
「僕は高橋暁ホント、今更だね」
はははっ、と笑う彼
…しばらく彼は、私のどうしようもない愚痴に付き合ってくれた。
「それでねー…」
「うんうん」
長話しにも関わらず、彼は一言一言、しっかりと聞いてくれた
「そーえば今日もまた上司のジジィに起こられてさー」
「何かミスでもしちゃったの?」
「そんな大したミスじゃ…でか、完璧超人の私に失敗だのミスだのあり得ませんよー」
「さっきはいっぱいミスしたり…とか言ってなかった?」
「え、あいや…それはその…あれです!聞き間違えですよー!」
「ははは、またまた…ウソついてるような言い方だよ」
「え!?」
「僕…目見えないからさ、耳はすっごくいいんだ」
「……」
「だから、この耳を活かした仕事でもあればなぁ…って思うんだけど…そう都合よく見つからないよ」
急に重くなってしまった空気
「だ、大丈夫ですよ!高橋さんいい人だし、きっと大丈夫!」
「そうかな?」
「そうですよ!」
「…ありがとう、やっぱりいい娘だね君」
「え…?」
「人間って、タフで不思議な生き物でさ、目とか耳とか、どっかが壊れても他の部分でカバーしようとするんだよ、僕場合は耳、相手の声とか、話し方だけで、性格とか…なんとなく分かるんだ」
「……」
私は黙って聞き入っていた。
「だから、君がウソついてるとか、いろいろ分かるんだよ、もちろん、いい娘だってこともね」
「私…バカだし頭悪いしドジだしで…いいとこなんてぜんぜん無いんですけど…」
「あるさ、優しいじゃないか」
「優しい?私が?」
「うん、さっき僕のこと助けてくれたじゃないか」
「そんな当たり前な…」
「普通の人には、なかなか出来ないことだよ、困ってる人を見ても、どうせ誰かが助けるとか他人任せたでさ…終いには皆見てみぬフリさ」
「…」
私も…シカトしようとしてたんだけど…
「だけど君は助けてくれた、手を差しのべてくれた…そのとき…すっごく嬉しかったんだ」
時間は酷いドS野郎だ、キツい時には長くなり、楽しい時は短くなる、もう外は真っ暗である。
「それじゃ…気をつけてね」
と彼
「うん…」
と私……
………なんか煮え切らない
もっといたい…
「雨宮さん?…」
と心配そうな彼
「あの…また来ていい?」
「え?」
「…えと…掃除とかしてあげるからさ…その…」
「いやそんな…いいよ、仕事大変なのに僕のことなんて…」
「いえ、こっちこそいろいろ愚痴聞いてもらったんで」
「そ、そう?ありがとね」
「うん!」
次の日から、私は毎日のように彼の家に通いつめた。
掃除は正直苦手だったけど…自分で言ったことだし、頑張った
掃除とかが終わると、毎回私の愚痴が始まる
「それでさー…」
「うんうん…」
すっきりするし、何より楽しかった。
「しかも親もさ、あんたはバカなんだから今の会社クビになったら次はありえないよ…って!そんなこと言われる筋合いねーっつーの!」
「いやでも、心配してるんだよ、きっと」
「ふー、だといいけど…」
「…やっぱうらやましいなぁ…雨宮さんは」
「え?」
「毎日楽しそうだよ」
「うん!ここに来ることがもう毎日楽しくて」
「僕と…いてかい?…」
「うん…私ね…ここに来るようになってから、ホント毎日楽しくなって…嬉しいんだよ」
高橋はドキッとして、顔を赤らめた
「…僕なんかといっしょにいて楽しい…か……照れるなぁ」
「ホントに…ありがとね」
私は、心から感謝した。
今思えば…このとき、私は…貴方のことが好きだったのだろう
…でも…私はバカだった…この楽しい時間は、いつまでも続かなかった…。
「高橋さーん!」
いつも通り、私は彼の家を訪ねた
しかし返事がない…
あれ…?
玄関のインターホンを押した
すると……
ガチャ
ドアが開く音がする
「はーい?」
ドアの向こうから出てきたのはおばさんだった。
…あれ?部屋間違えたかな?
「あのぉ…どちら様でしょうか?」
と聞くおばさん
「えと、友達…です」
なんと言ったらいいかわからなかったから…とりあえずそう言った。
「…ああ貴女が」
「え?」
「あの子がよく話してたわ」
「あの子って…」
「ああ、申し遅れました…私、高橋暁の母です」
「高橋さんのお母さん…」
「ええ、最近はよく貴女ことばかり話してるわよ」
「えへへ……」
少し照れくさいな、それより…
「あの…高橋さ…暁さんは?」
お母さんの前だし、こう呼ぶことにした。
「……」
しかし…それを聞いた瞬間、黙ってしまった…
暫く、沈黙が続く
…やがてお母さんが口を開き、沈黙を破る。
「…言いづらいけど……死んだわ…昨日…」
「は…?」
…え?、は…?あ、ああぁ…?…??
わからない…え?…意味わからん…へ?
「昨日…私と買い物の途中で…私の目の前で車に…」
お母さんは言いながら泣き崩れてしまった
…頭の中が真っ白になった…途中の話しはほとんど耳に入らなかった………
少し日がたって…彼の葬儀が執り行われた
葬儀は親族のみで行われたが、私は特別に招待された。
彼の遺体を目にして私は、その眠っているような彼に向かって…なにも言えなかった……
それから刻が流れた…
あれから2年…
彼の言葉を胸に、私は頑張っている
上司のいびりにも怯まず、辛いこと、投げ出したくなることも、全て乗り越えようと努力した。
彼が見守ってくれていると思えば…頑張れる
今日は彼のお墓に来た
やっぱりこの場所、あの人の前が、一番落ち着く…
「暁…」
私は…頑張ってるよ
「…ありがと、暁…貴方のお陰で、頑張っていられるよ…」
ありがとう…そして……
愛してるよ…暁……
<完>
かなり時間かけて書き上げました!
少しバットエンドな内容物になってしまいました…
評価よろしくお願いです(´ω`)