BLOSSOM
桜。闇夜。月光。
俺なんかお前に絶対届かない。わかっている。
何度手を伸ばせど、決して振り返る事は無いだろう。
散った桜が舞う。雲に隠れて朧気になった月を背に、お前は微笑む。袖が黒髪が風に揺れる。
今日は二人だ。今日だけは二人きりだ。
橋の上。灯籠。雨の匂い。
ようやくお前と共になれる。
気のせいか、琵琶の音色が微かに響く。
行灯が遠くで惑っている。
構うものか。
お前が愛しくて仕方無いんだ。
刀を振るうと、お前は俺に寄り掛かった。
橋の灯火が朱を照らす。
その朱に塗れた唇と交う。
嗚呼、永遠の幸よ。
そして行灯は橋の下で折り重なった男女の死体を見た。