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第一章

 もし私が○○さんだったら~。そんなことを言う同級生をよくみるが、それは何故だろう。



 もしも?そんなことを話していたってどうにもならないし報われないだけで、意味がない。それなら今の自分で出来ることをひたすら極めることのほうが有意義に思ってしまう。



 

 きっと僕は器が小さいのだろう。




 それにしたってこの年頃の子は周りの目を気にしすぎるのだろうか。もしも~の話も周りの違う誰かを妬み、恨み、尊敬するなのかもしれない。そう考えるとくだらなすぎる。




 自分は自分以外になり得ないのだから。




 僕、橘冬樹はまだ大人になりきれていない子供だ。自分で食っていけず親の保護を受けている17のガキでしかない。だからそう考えるのだろうか。本当に生きることが虚しく思えた。


 高校の教室の窓際の一番後ろの席で僕は何気なく空を見ていた。授業も終わり、10分ほどの休憩の最中だ。とくに何もする気もなくかったのに、前の席の女子が話しかけてきた。腰くらいまである長い黒髪が綺麗な少女だ。


「ねぇ橘くん…」


 僕は返事をせず無視をしてみた。だが彼女は気にせず続ける。


「適材適所って言葉があるけれど君はどこに当てはまり、どこに適している人間だと思う?」


 彼女はいつもこうだ。やたら高校生らしからぬことを話してくる。恋愛とかのガールズトークとか高校生らしいことでも話していればいいのに。

 また無視しようかと思っていたのだが、彼女の声のトーンがやたら真剣だったので、かるく受け流すことにした。


「とくに考えたことはないし、これから考える予定もない」

「だと思ったよ。なら言い方を変えようか。君はここが自分に適した場所だと思っている?」



 少し考えた。まさか間髪入れずに返してきたこともあるが、なによりこの質問は彼女らしくない。彼女、倉重湯仁(クラシゲユニ)はそんなことは絶対言わないのだ。

全てに公平で全てに意味がある、そう本当に思っているやつなんだ。僕とは真逆だ。そんなやつが何故そんなことを聞く?僕は試されているだけなのか。これが倉重湯仁の本性なのかは知らない。だから試してみる意味で


「思っているわけないだろ。思っているなら僕はもっと活発で誰とでも人見知りしないで生活しているさ」


「なら何故そうしないの?」


「誰もがおまえみたいに社交性があって誰とでも話せる性格だと思うなよ。しないんじゃない、出来ないんだよ。自分の考えおしつけんじゃねーよ」


 少し強めに。怒っているふうにしてみた。べつに本当に怒っているわけじゃないけど、彼女の話し方は少しイラっとした。


 だからかもしれない。僕は一言呟くように言った。



「偽善者が…」



 偽善者。僕が一番言われたくない言葉であり、それは高校生という多感な時期に言われたくない言葉のような気がする。これで倉重湯仁も黙って去るだろうと思ったのだが、予想外にも彼女は微動だにしない。

 違う。違った。彼女はまるで生気を抜かれたかのように崩れ落ちた。机にぶつかり椅子のひきずる音かクラス中に響いた。


 彼女は小さく震えていた。そんな彼女に僕は何もやってあげれない。なんせこうなったのは僕のせいだから。いや、もちろんあの言葉が彼女にとってのタブーなのか、単にそれが引き金になっただけなのかわからないが、どちらにしろ僕が悪いのは確かだ。僕はただ立ち尽くした。あの一言がこんなに重いのか。


 彼女は高校生らしからぬことを話し、やたら意味を求める。全てに意味なんてない。そう考える僕には彼女の心境はまったく分からないが、きっと彼女は………脆いのだ。


 教室がやたら騒がしくなってきた。女子は集団となって僕と倉重湯仁を囲った。睨

まれる。視線が痛い。そして罵声が僕に向かって飛んできた。



 僕は罵声から逃げるようにして僕は倉重湯仁を担いだ。というかお姫様抱っこみたいな感じで。

 倉重湯仁を介抱しようとしていた女子もいたが、押しのけた。さっきの言葉でこうなったのか、さっきの言葉が引き金になったのか分からないが、僕のせいだから。僕が責任をとらなければいけない。


 僕は走った。保健室に向かって、ただ全力で。 保健室に着くとすでにドアは開いており、一人の少女が立っていた。


 いや少女という言葉では少し違うか。幼女だ。幼く細い体つき。小さい顔。綺麗な黒髪をサイドにとめてツインテールにしている。

 まるでアニメのような幼女だ。だが一番驚いたのはこの幼女、白衣をきていやがる。そして他には誰もいない。つまり………


 

「何か用かな君」

 

 幼女が喋った。いや、それは普通か。ツインテールを揺らしなから近づいてきた。というかこんな幼女に動揺している暇はない。


「すいません、保健室の先生は何処に…」


「あぁお姉ちゃんなら今買い出し中。…急ぎみたいだね。中入って」


「はぁ…えっと…君は…」


「私は由紀。後藤由紀。この学校の保健室の先生の妹。さ、早く入って」

僕は保健室の奥にあるベッドに倉重湯仁を寝かせた。


「それじゃあ後は頼みます。先生 来たら伝えといて…」


「ちょっと待って。お茶でも飲んでいきなよ。運んでくれたお礼もかねて」

まさか幼女に気を使われるだなんて。


「いや、もう授業始まっちゃうんで」


「いいからいいから。ちょっと話そうよ」

幼女、後藤由紀は慣れた手つきでお茶を注いだ。


「ほら」


「………」僕は言われるがままにお茶をうけとった。うまい。でも、もう行かなければならない。確実に空気が悪いであろう自分の教室に。


「…あの子は彼女?」


「まさか。そんなわけない。ただのクラスメイトってところかな」


「そっか…彼女は大変だね」


「大変?それはどういうこと」「そっか知らないんだ君は。彼女はね、見えるんだよ」


「見える?それって…」

 この幼女は何を言っているんだ。まったくもって僕は理解出来なかった。



「言葉の色が、ね」


 言葉の色。何だそれは。


「何だそれ」「君は理解力が乏しいみたいだね」

 何だこの幼女。


「言葉の色。そのままの意味さ。君は青という色に何を感じる?ほとんどの人が寒い冷たいなどと思うだろう。青、つまり寒色系と言われる色さ。赤は温かいなどの印象、つまりは暖色系になるわけだけれど、もし相手の発する言葉の色が理解できたとしたらどうなる?」



 つまりそれは相手の嘘を見破れるということだ。


「嘘がすべてばれる。見透かされる。ある意味、その人の本質が見えるわけか」


「頭の回転は速いみたいだね。その通り。彼女はその状態でずっと生きてきたわけだから…言葉がどれだけ大切かわかるよね?」


「………」



 僕が言ったあの言葉は彼女にとって本当につらいものだったんだろう。


 見える。


「君は、彼女に何か言ったね?」


 何も言えなかった。とっさに言葉がでなかったんだ。






「言ったんだね。

 …責任とろうか」



 僕は小さく頷いた。

 責任。その言葉は僕の心に重くのしかかった。



 するとベッドで寝ていた倉重湯仁は起き上がり言った。


「なら手伝ってくれるよね」

 

「!?」



「今、この学校で起きている怪事件の解決をね」

 彼女は微笑んだ。

 それはいままでに一回も見たことのない彼女笑顔だった。


 その笑顔は儚げでとても美しくて、見蕩れて小さく頷いた。



 







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