風の章 7
そういやグロームはどうしただろうか。
俺は己の気を大気の中に広げた。
気を四方八方に広げると必然的に体が薄くなって大気に溶ける。
そうやって感覚を大気に同調させて遠くの物事を感知する。
そしてグロームを見つけた。
グロームはザーパトいう村の一軒の貧相な家の前にいた。
家に明かりは着いてなく、グロームは暗闇の中で大きな巨体を小さく丸めて身動きせずにじっとうずくまるように座っている。グロームの頭上では、まだ暗雲が立ち込めていて、時折ゴロゴロと雷鳴がとどろいている。それでも先程よりはずいぶん落ち着いている。話し合いの余地はありそうだ。
俺はグロームを感知した所に大気に溶けた己の気を集めて形成し直した。
「よう」
「……よう」
と、顔をあげたグロームを見て、俺は驚いた。体はボロボロで所々千切れて体を形作っている気が垂れ流しになっている。そして憔悴しきっている顔で呟いた。
「…さっきは悪かった」
「誤解が解けたのなら、それでいい」
と、俺が答えた。それで、俺達のケンカは終わりだ。
俺は、グロームをまじまじと眺めて聞いた。
「どうしたんだよ」
「やられた」
「見ればわかる」
それから、
「誰に?」
「何で?」
と、いう俺の質問には、グロームは何も言わずただ頭を振るばかりだった。
俺がそれ以上何も言わずに黙ると、グロームも暫く口を開かなかった。
そして、やっと一言しゃべった。
「…さっぱりわからない」
「ふうん」
当事者のグロームがわからないモノを、第三者の俺にわかる筈がない。
「何かわかって話をしたくなったら聞いてやる。俺のところに来い。もちろん話したくない時は来なくていい」
そう言い残して俺はその場から離れる。
グロームの喉から押し出した低い声が大気を振動させた。