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風の章 5
北のアルス山のふもとにあるスェーヴィル村には、あっという間についた。山のふもとは日が暮れるのが早い。村はすっかり薄暗くなっている。
「どうもありがとうございます。とても助かりました。それに思ったより寒くなくてよかったです」
「俺が冷たい大気を退けておいてやっているからな」
「そうだったのですか。本当にありがとうございます」
と、小僧が話しているのは遮るように、俺は言った。
「乗せてやった事、誰にも言うなよ」
小僧はきょとんとしている。俺の言わんとする意味がわからなかったらしい。
「人間なんか乗せたなんて知れたら不名誉なんだよ」
小僧は、ああそうかという顔をして、
「わかりました。絶対に誰にも言いません」
と答えた。
「本当にどうもありがとうございます」
と、もう一度、小僧は礼を言った。
そして、姿勢を正して俺の前に真っ直ぐ立ち胸の辺りで互いの袖に手を入れ深々と頭を下げた。
それから俺達は別れた。