風の章 4
「どこまで行く気だったんだよ?」
「えっ?」
「急いで馬を走らせていただろう」
「北のアルス山のふもとにあるスェーヴィル村まで行くつもりです」
「その格好でか?」
「?」
「スェーヴィル村の辺りはまだ雪残っている。あの辺りの人間はもっと厚手の布を着込んでいるぞ」
「そうなんですか」
「まぁいい。送ってやる。頼んでないけど、お前の結界に入っちまった礼だ」
俺自身が驚くような申し出に、小僧は一瞬戸惑いをかくせない顔をした。それからにっこり笑って、ぺこりと頭を下げた。
「お願いいたします」
そこで俺はちょっと己の姿を省みた。
――泥だらけだ。
「ちょっと待っていろ」
「はい?」
「泥だらけだ。洗い流してくる」
俺はぴゅんと川までひとっ飛びした。
それから、川の水で体についた泥を流し、数秒後には小僧の所に戻った。
「待たせたな」
小僧は俺を見て、少し驚いたようだった。
「真っ白できれいなんですね」
と、言って、
「キラキラと光っている」
と、目をキラキラさせて俺を見ている。
「ふん」
と、澄ましてみたが誉められているらしいから悪い気はしない。
「馬の姿になったら乗れるか?」
「はい、ありがとうございます」
そこで俺は空を走る風の馬に姿を変えて、小僧を乗せて空に舞い上がった。
――しっかし、俺はなんだってこんな人間なんかを運んでやっているんだろう。
俺達は超自然界の生き物は自然界の気で形作られている。気というのは、草でも木でも動物でもすべて生きているモノが持って、知らず知らずのうちに周りに放っている。それが俺達の体を形成し力になっている。その中では人間の放つ気は特殊だ。人間は感情が複雑で思っている事と言っている事が矛盾していたり、ころころ変わったりする。だから人間の放つ気も感情に会わせてころころ変わる。気持ちの良い気を放つ奴はいいが、腹黒い奴なんて側にきただけで気持ち悪くなる。だから俺は人間の気が嫌いだ。決して人間に近づかないようにしていた。
しかしこの小僧は違う。大気のように自然で穏やかな気を絶えず放っている。これがシェイマ特有の気なんだろうか、それともこの小僧の気なんだろうか。よくわかんねぇがこの小僧の気は悪くない。むしろ気に入った。