風の章 2
――自然に優しくねぇな。
グロームはところ構わず剣を振りまわし雷を走らせている。時々、雷を直撃した大木が発火している。あれじゃ自然界の生き物も迷惑だろうなと俺は一山ほど離れた辺りで眺めていた。
――どうしたもんかねぇ。
今日のグロームはケンカをしてもつまらない。軽口には乗ってこないし。
早く収まってくれないもんかねぇ。
ヒヒ―ン!
すぐ近くで馬が鳴いた。
馬に乗っていた人間をその場に落として、馬はとっとと走り去って行く。
――こんな所に人間?
人間に気をとられてグロームに気づかれた。
バリバリバリバリバリバリバリ!
腹に衝撃が走った。グロームの剣をまともに食らって胴体がまっぷつだ。
――ついてねぇな。
グロームはまっすぐこちらに向かってくる。
「見つけたぞ!」
途中、行く手を遮る大木を片手でなぎ払い、俺の方を向き直して再び剣を構えた。
グロームがゆっくりと剣を振り降ろした。
一瞬遅れて真空の刃を構えたが、体が裂けちまっているから思うように動かない。
「うおおおお」
グロームは雄叫びのような声を上げながら剣を振り下ろしてきた。
眩しい雷鳴と雷光が俺に迫ってくる。
――避けられねぇ。
が、グロームの雷電はどこにも当らない。
――あれ?
「大丈夫ですか?」
背後から人間の声がする。
――今のは?この人間がやった事なのか?
「どこだ!」
グロームはうろうろと辺りを見渡している。
その姿はまるでクマか何かの大型の動物ようだなと思った。
「ゆるさん!」
グロームは喚きながら森の奥に消えていった。
背後の人間は結界がグロームから俺を隠したらしい?
――あれ?どういう事だ?
俺は背後の人間に問い掛けた。
「お前・・・俺が見えるのか?」
背後の人間はこくりと頷いた。
「お前・・・俺を助けたのか?」
背後の人間はこくりと頷いた。
――
――
――な、なんだと?!
「なんで俺が人間なんかに助けられなきゃなられねぇんだ!」
俺がイライラすると大気がグルグル回り出した。
背後の人間が大気の流れに吹き飛ばされそうになっている。
「・・・あの、すみません。貴方は動けなさそうでしたし、あのままですと僕にも雷が当たりそうだったので、一緒に結界に入れてしまいました」
――確かにあのままじゃ、こいつも危なかった。
――不可抗力か。不可抗力なら仕方ない。
「・・・じゃ、お前は俺を助けたわけじゃないんだな?」
背後の人間はなにやら考えている。
「だ、か、ら!お前は自分を守るために結界を張ったら、たまたま俺も中に入っちまったんだよ!わかったか!」
背後の人間は一瞬ビクリと大気を揺らした。そしてこう言った。
「はい、僕は自分の身を守っただけです」
「当然だ!人間は弱い!限りある命だからな!自分で自分を守る義務がある!」
太古の昔から俺は人間ごときに助けられた事など一度もない。
「だが俺は強い!人間ごときが俺を助けるなんて勘違いにも程がある!わかったか!」
か弱い人間は近くの木にしがみつきながら答えた。
「わかりました!おっしゃる通りです!」
「わかればいいんだ!わかれば!」
ふぅと息を吸い込むと俺の気持ちが落ち着いた。そして大気の動きも緩やかになった。