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エピローグ

カラン~コロン~カラン~コロン~


頂に白い雪を残した山の谷間に祝いの鐘が鳴り響いている。この辺りの夏は短い。人々は短い夏をより楽しむために祭り事も祝い事もこの季節に執り行う。

村中の人間が集まって祝福をしている中、白い服に身を包んだ花嫁が礼拝堂から姿を表した。幸せそうに笑う花嫁は雪のような白い肌をした美女なのだが、その横に立つのは実にぱっとしないどこにでもいるような男だ。


そして、その様子を遠くから見守る黒い影がひとつ。黒い影をさらに遠くから、眺める白い影がひとつ。

限りある時間の中で生きている自然界の者と果てしない時間の中で存在している超自然界の者の両方に見守られながら結婚式は静かに執り行なわれた。


白い影は黒い影の存在に気がついていたが、かける言葉もないので素通りした。


結婚式で巻かれた色とりどりの花びらが風に吹かれて静かにどこかに飛んでいった。




北のアルス山のふもとまで来た。

村では東の都ツェーントルからやってきた司祭や修道者達が村人達に神の教えと知識を広め薬や日持ちする乾物などといった食料や物資を配っていた。都から離れた小さな村にもやっと神の慈悲と恩恵が届くようになったという事だ。




それから東の都ツェーントルの上空を通った。

見るとはなしに下の方に視線を落とした時に・・・目が合ってしまった。


――ついてねぇ。


小僧は真っ直ぐ俺を見据えてくる。そのまま通り過ぎようとしたのだが振り切る事が出来きない。


――どうして俺は自然界の小さな生き物には優しいんだ・・


己に苦笑しながら思わず舞い戻ってしまった。


「よう」


「お久しぶりです」

と、小僧は微笑を称え穏やかな気を周りに放っている。


この数年で小僧の気の領域はずいぶん大きくなった。

出会った頃は側にいる人間ぐらいにしか影響を与えてなかったのに最近では東の都ツェーントル全体に影響を与えている。小僧の穏やかな気が都全体を包んで都全体を穏やかなものに変えているんだ。


「こんなところでどうしたんだ」

俺達がいるのは風通しの良い神殿の塔のてっぺんだった。大きな鐘がぶら下がっている。この鐘を鳴らすと都中に響き渡る。


「ヴィーが通る気がして待っていたんです。お久しぶりです。お元気でした?」

小僧は両手を広げて俺の首をしめやがる


――何しやがる?!離せ!小僧!


と、言いかけて思いなおす。自然界の小さな生き物には優しくしなくては。


「まあな」

と、俺が答えると同時に、


「こんな所で何をしているのですか!」

と、ばあさんが息を切らしながら階段を登って来た。

いつもながら嫌なばあさんだ。トゲトゲしい気を放って俺を威嚇していやがる。


「大教母、今日は本当に良い天気ですね」

と、小僧は淡々と答えている。


小僧にばあさんの放つこの圧力のかかったトゲトゲしい気が感じられないのか?!


「こんな所で白い魔物と一緒にですか?!」


どうもこのばあさんは俺の事が嫌いらしい。

ばあさんは早く俺を追い払いたいのがひしひしと伝わってくる。


――ババアは苦手だ。

俺は人間が思っているよりもずっと繊細なんだぜ。


「じゃ、またな」

と、俺がふわりと舞い上がると、


「待って」

と、小僧が俺に飛びついてきた。


「何だよ?」


「頼みがあるのですが」

と、小僧が言うのと同時に、


「何所へ行くのですか!戻りなさい!」

と、ばあさんは大きな声を出した。

言葉は小僧に向けられているがトゲトゲしい気は俺をチクチクとつついている。


――耐えられん。


俺は逃げるようにその場から離れた。小僧を連れたまま。


「今朝夢を見たんです。助けを必要としている人がいるのです。僕をそこまで連れて行ってください」


――俺の知った事か!


「なんで俺がそんな事をしてやらなくちゃいけない。俺がお前をそこまで運んでやると思っているのか」


「はい、運んでくれます。僕が夢を見たのも、こうして今日貴方が通ったのもすべては神様のお思し召しなのです」


相変わらず訳がわからん事を言う奴だ。


「そっちじゃありません。西に向かって下さい」


眼下では、ばあさんがトゲトゲしい気を放って威嚇している。

頭上では、澄み渡った空がどこまでも続いている。

こんな良い天気に同じ所をぐるぐる回ってちゃつまんねぇもんな。


――ちとぐらい付き合ってやってもいいか。


「乗せてやった事、誰にも言うなよ」


「もちろんです。絶対に誰にも言いません」


そして俺達は東の都ツェーントルから西に向かった。

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