風の章 22
東の都ツェーントルの入り口で小僧を降ろした。
すっかり日も沈んで、白い町並みがコバルトブルーに沈んでいた。
俺は小僧に聞いた。
「シェイマは魔物が見えるんだろう?」
「はい、見えます」
「じゃなんで見えるのに、あの若い司祭は魔物にとり憑かれたんだ?」
「彼はシェイマではありませんから」
「どういう事だ?」
「シェイマというのは、超自然界の存在を認識できて、接触・交信又は交流できる人の総称です。司祭というのは、神殿の中においての役職の名前です」
――?
「つまりですね。すべて司祭がシェイマだとは限らないのです。人々に神の教えを広めるのと、困っている人を助けるのが司祭の仕事です。超自然界の存在を認識できなくても務まります」
――?
「ふうん」
――人間のやる事はよくわかんねぇな。
「そっか。じゃあな」
「どこ行くんですか?」
「どこへだって行く。俺は気の向くまま風の吹くままだ」
俺が飛び去ろうとすると小僧が慌てて声をかけた。
「ヴィー!いつも僕を助けてくれてありがとうございます。ヴィーは本当に良い精霊なんですね」
「俺、別に精霊じゃないんだけど」
「そうなんですか。じゃ、風の神様ですか?」
「俺達の仲間にはそうやって人間に手をかす奴もいるんだろうけど、とりあえず俺は違う。俺は只の風だ」
「わかりました。それより僕の所によって行かないんですか?」
「何故?」
「せっかく友達になったのに」
「俺と小僧じゃ理が違いすぎる」
「別にいいじゃないですか。自分にないモノを相手が持っているから相手を尊敬できて良い関係を築けるのでしょう」
「人間なんか尊敬できるか!」
「そうですか。僕はヴィーを尊敬していますよ」
「ふうん」
「じゃ、またな」
俺は突風に姿を変えて、とっとと、東の都ツェーントルから離れた。
視界の片隅で、小僧が袖に手を入れシェイマ流の礼をしているのが見えた。
俺はここ数日のグロームの憔悴した顔や必死になった顔、腑に落ちなかった言動を思い起こしていた。
人間に変な思い入れをするなんて、俺には全く理解できない。
――人間なんてさっぱりわからねぇ。
――人間なんて関わるもんじゃねぇ。
――人間なんて近づかないも限る。
俺にわかるのはそれだけだ。
一応これで“風の章”おしまい♪
次話の“エピローグ”は、次の“大地の章”に繋がる話になります♪