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風の章 19

バリバリバリバリバリバリバリ!ドッシン!


「ぎゃあ!」

若い司祭に雷が直撃した。


――グローム?!


「みつけた!」

グロームは左手で司祭の胸元を掴んで右手で拳を握って今にも殴りかかろうとしている。


「殴らないで!」

小僧が叫びながらグロームの方に向かって走りだした。


――おっ?今度はどうした?


あれがグロームの探していた魔物か?正確に言うと、魔物にとり憑かれた人間か。

そう思ってみると、確かにその辺りにドス黒い気がまだ揺らいでいる。


グロームは司祭を殴らず手を緩めた。司祭は、がくりとその場に崩れるように落ちた。グロームの拳がプルプルとして震えている。

すると、司祭の口から何か小さいネズミのような生き物が飛び出た。

ドス黒い気を放つ小さな生き物だった。


「捕まえて下さい!」

と、小僧が小さい魔物を指差して叫んだ。

周りの人間は何を言っているのかわかっていない。見えていないのだ。

グロームが小さい魔物を追いかける。しかし、捕まえようするグロームの手を小さい魔物はするりするりとかいくぐって逃げて行く。


「捕まえて下さい!」

小僧がもう一度叫んだが、殆どの人間達には見えていないんだから仕方がない。


そうこうしている間に小さい魔物は人ごみに紛れてしまった。

グロームが懸命に追いかけるが小さい魔物はちょこまかとグロームの手をすり抜けている。

小僧の周りには人間が押しよせてきて小僧は身動きがとれない。


俺は眺めていた。


――へぇ、あれが人間にとり憑いていた魔物か


人間達は小僧の体を持ち上げ胴上げしだした。

そんな人間達の足元を小さい魔物がちょこまかし、怖ろしい形相のグロームが追いかけている。

が、人間達には見えないからそんな事はお構いなし。

歓喜極まる人間達からお祭のようなにぎやかな気が溢れだし、実際お祭り騒ぎになっている。



俺は愉快だった。


――そりゃグローム。無理ってもんだろ。


――クマがリスを捕まえようとしているようなものだ。上手くいくわけがねぇよ。



一際笑い転げてから、途中でふと思った。


――しっかし、一体何がグロームをあそこまでやらせるんだろう?



俺は誰に言うわけでもないが声に出していた。

「なんかもう見てるの飽きたし、俺もちと動くか」


――俺は人間など助けたりなんかしない。ただ俺はグロームにちとだけ協力するだけだ。


俺はぴゅんと突風に姿を変えて、人ごみの中に紛れ込んだ小さい魔物を一瞬で捕まえた。

手の中にはぼろ雑巾みたいな色をした毛の長いネズミみたいな生き物がいた。


――どうだ、このスピード。


俺は風だからな。こんなネズミもどきなんぞわけないぜ。


すぐにグロームがやってきた。

「どうするんだよ、これ」

俺がプラプラさせながら言うと、

「よこせ!」

グロームが横から奪い取り、

「返せ!」

と、グロームはネズミもどきに凄んでいる。


――言葉通じるのか?そのネズミもどき?


「おいおい、いかにも下等そうな生き物だぞ。言葉は通じないんじゃないか?」

と、俺が言うと、

「このやろう!」

と、今度は力まかせに振り回している。


――そんな方法で盗られたモノを取り返せるのか?


すると遅れて追いついた小僧が、

「ちょっと見せて下さい」

と、ひょいとつまんで持ち上げた。


すると、魔物は音も無く光を放って消えてなくなった。


小僧の手の中には、きれいな色を放つ丸い玉のようなものが2つほど残っている。


「小僧、何をした?」

と、俺が聞くと、

「・・・僕にもさっぱり」

と、小僧も首を傾げている。


「なんだ?それ?」


「気の塊?ですか?」


――質問に質問で答えるなよ。。


なるほど言われてよく見てみれば気を放っている。


――気って塊になるんだ?


「さっきのネズミもどきの魔物はどこいったんだ?」


「どこいったんでしょう?」


――だから質問してるのは俺なんだ。。


「・・・」


俺と小僧とグロームは気の塊に目をやった。

小僧の手の中でそれらはそれぞれきれいな気を放っている。気の塊ははっきりとした形はないみたいで、見る角度によって色や形を少しづつ変えている。



「これどうするんだ?」


「おそらくこれは人間の気の塊だと思うです。だから元の持ち主に返した方がいいと思うんです」


「・・・」


――人間の気って体から出たりするのか?



「戻せるのか?」

と、グロームが口をはさんできた。


「わかりませんが、とりあえず元の持ち主の所に行ってみようと思います」

と、小僧が答える。そして、

「スェーヴィル村まで連れていってくれませんか?」

と、俺を見ている。


――スェーヴィル村?


「っていうか、なんで俺が?」

と、断りかけると、


「頼む!」

と、言うグロームの頭上で、暗雲がゴロゴロと雷鳴を轟いている。


――それがモノを頼む態度か?


凄んで脅かしているじゃないかと思うのだが、一体何がグロームをそこまでさせるのかと思うとその答えを知りたくなった。


「行くぞ」

と、俺は小僧を連れて舞い上がった。


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