風の章 1
「許さん!」
いきなり目の前に姿を現したグロームはひどく憤慨していた。
グロームの心模様など俺には関係ねぇ。
「よう、グローム。おっかねぇ顔してどうした?」
俺はいつものように軽口を叩く。
が、今日のグロームはちと様子がおかしいかった。
いつもなら前置きなく切りかかってくるか、そうでなければゴロゴロと喉を鳴らして笑い飛ばす奴なのに今日に限っては黙って立っている。・・・剣を構えながら。
――?
「なんだよ?顔色悪いぜ。真っ黒だぞ。って黒いのはいつもの事か!」
俺が笑ってもグロームは静かに立っている。・・・剣を構えながら。
――?
「なんだよ!見苦しい顔して!用がねぇなら向こう行けよ!」
追っ払ってみようとしてもグロームは静かに立っている。・・・剣を構えながら。
――?
「どうしたんだよ?なんかあったのか?」
さすがに俺も心配してやった。それでもグロームは静かに立っている。・・・剣を構えながら。
すると暗雲の中でグロームの体が光りだした。
――稲光
体が雷を蓄えて小刻みに大気を震わせている。
――雷鳴
そしてこんな事を言い出しやがった?!
「返答に次第で切る!何をした!」
――おかしいじゃねぇか?!
グロームが俺にお伺いを立てているだって?!
お前は他者の話を聞くような奴じゃねぇだろ?!
本当にどうしちまったんだよ?一体?!
そうこうしている間にもグロームの中の雷が静かに剣先に蓄積されていく。
静かに圧力をかけられても、グロームの憤慨の理由が全くわからない。俺はただ水浴びしにこの森にやってきただけなんだ。
「知らねぇよ!」
俺が答えると同時に、振り下ろされたグロームの剣が光を放ち、落雷が俺の真横を通り過ぎた。
バリバリバリバリバリバリバリ!
俺の背後で大木に雷が直撃した。
――なんてひどい奴なんだ!
罪も無い大木を黒こげにしやがって。。自然界の限りある命がこれだけ大きくなる一体どれぐらいの時間がかかると思っているんだ!超自然界の存在としては有るまじき行為だねぇ。全く。
そんな事お構いなしにグロームが怒鳴る。
「俺は本気だ!次は外さない!何をした!」
「本当に知らねぇよ!」
言ったところで無駄だ。怒りで我を忘れたグロームの耳には入っていない。
グロームは再び剣を構えて雷を作っている。
――めんどくせぇ!よくわかんねぇけど受けて立つぜ!
「かかって来いよ!」
次の瞬間、俺は風の気を手に集め真空の刃を作った。
そして、グロームが剣を振り下ろすと同時に真空の刃を投げた。
バリバリバリバリバリバリバリ!ドッカン!
真空の刃が雷を二つに裂いた。
それから立て続けにグロームが剣を振り下ろす。それに合わせて俺は真空の刃をいくつも投げる。眩い雷が轟音と共にいくつにも炸裂している。
「どうしたんだよ?」
俺の話なんか聞いちゃいねぇ。グロームは次々に雷を走らせている。頭に血が上り見境なくなっているんだ。
――やっぱりいつもグロームか?
見境なく暴れ出す辺りがいつもグロームなんだが・・・それにしても何やら内に秘めたモノがいつもと質が違う気がする。どういう事だと思案していると、グロームは再び剣を構えているのか見えた。
――まだやるのか?
俺も再び真空の刃を構えた。が、ふっと真空の刃を消した。
――飽きた。
そして疾風に変化してその場から速やかに撤収した。
俺は風だ。風の性分はいつまでも同じ所には留まってはいられないんだ。