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風の章 18

東の都ツェーントルでは、神殿の前の広場に人が集まっていた。

青い制服に身を包んだ兵士達が剣を携え盾を持って一列に並んでいる。


そこへ、小僧が縄で両手を縛られて連れられてきた。


広間に集まっている人が皆それぞれ声を張り上げて身を乗り出してきた。

その興奮気味の人間達を兵士が武力で押さえ込んでいる。


――裁判が始まるのか。


なんでもいいが人が集まっていると、いろんな気が混じっていて気持ちが悪い。いや、気持ち悪いを通り越して吐き気すら感じる。

俺は、胸焼けに耐えながら、少し離れたところか様子を見る事にした。


小僧は、広場の真ん中に連行された。

広場の真ん中には、大きめのテーブルのようなモノが用意されている。テーブルの真ん中には柱が一本立っている。

そして、小僧をそのテーブルの上に立たせて柱にくくりつけ始めた。


じいさんとばあさんが飛び出してきた。しかし、すぐに周りの兵士達に取り押さえられてしまった。


じいさんとばあさんは、懸命になにやら叫んでいる。


まぁ、話がややこしくなると言われている事だしと俺は様子を見ていた。


小僧を柱にくくりつけ終わると、小僧の足元に薪やワラや枯れ草のようなものを置いた。

それから、火をつけた松明を持っている兵士がやってきた。

その火で小僧の足元の薪に火をつけようというのか。

そして、胸にキラキラと勲章をつけた偉そうな兵士が大声を張り上げた。

「これから、魔物に憑かれた者を処刑する!」


その言葉を聞いた瞬間、交じり合った気が大きく動いた。攻撃的な気と悲観的な気が大気の中で揺らいで行き場を無くして膨れ上がった。取り囲む人間達が半狂乱なったのだ。大声を張り上げる者、泣き叫ぶ者、手を振り上げる者・・・。

膨れ上がった気はいつ四方八方に破裂してもおかしくなかった。

その破裂しそうな気を押しとどめているのは火のついた松明だった。


――ああ、気持悪い。この嫌な緊張感。絶えられない。


火のついた松明を持っている兵士が一歩前に進んだ。


――おっ?なんだ?あれで小僧の足元に火をつける気か?


火を消すなんて簡単な事だ。ちょっと強い風を送ればいい。しかし、手を出すなと言われているし・・・。


俺が思案している中、幾人かが押さえ込む兵士達の間をくぐり抜けた。そして、小僧達の足元に両手を広げて身をていして立ちはだかった。

兵士達の中にも納得のいかない者がいるようで、剣を構えて小僧を守ろうとする者もいる。


小僧を守るようにやってきた人間達の気が小僧を守るように幾重にも重なっていく。


ヒューーーン!


大気をを切り裂く一筋の亀裂が小僧に向かって走るのを感じた。


矢だ。小僧をめがけて真っ直ぐ飛んでいる。


――さて、どうしたものか。


俺は、少しばかり風を起こして飛んでいる矢をあおった。


パシュ!


一瞬、誰もが静まり返って息をのんだ。矢は小僧の頭の横に刺さっている。次の瞬間誰もが矢が飛んできた方を振り返った。

そこには、弓を構えている者がいた。長い青い布を頭から被っている。布の端には銀色の刺繍が施されている。格好からして司祭のひとりと思われる。

「下がれ!」

と、叫んだ。よく通る覇気のある声だった。声から察するにけっこう若い。

その若い司祭が次の矢を構えようとしている。

先に布が巻きつけている矢に手を伸ばした。そして、その矢の先を松明の火に近づけた。ぼうっと、音を立てて矢の先に火がついた。

今度はそれで小僧の足元の薪に火をつけようというのか。

若い司祭は、火のついた矢を構えた。

その様子を見ていた人間達は、誰も動こうとしない。

若い司祭の放つドス黒い気が辺りのざわめく気を押さえつけているのだ。


ビューン!


矢が放たれた。


――さて、今度はどうする?


俺はぎりぎりまで堪えてから、真空の刃を放った。真空の刃は飛んでいる火のついた矢を縦方向から真っ二つにしてやった。矢は小僧の足元にぽとりと落ちた。

しんと静まり返っていた群衆が、一斉に歓声のような叫び声をあげた。小僧の周りから明るい太陽のような気が広がっていく。その勢いにのって群衆はあっという間に兵士達を押しのけた。そしてある者は小僧を助け出し、ある者はじいさんと大ばあさんを助け出した。

ドス黒い気は跡形もなくどこかに消え去っていた。


その時だった。急に辺りが暗くなった。


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