風の章 16
兵士が一人入ってきた。
その後ろには、ケガをした小僧を連れて飛び込んだ時に部屋にいたばあさんがついてきている。
兵士はばあさんを中に入れると、やはり物言わず目礼をしてガシャリと古臭い扉を閉めた。
そして兵士はばあさんを残して立ち去った。
兵士の足音が遠ざかるのを聞きながら、小僧がばあさんに話かけた。
「大教母様までどうなさったのですか?」
そんな事はお構いなしに、ばあさんは俺を凝視してこう言った。
「何故魔物がここにいるのですか?!」
ばあさんの刺さるようなチクチクとした気が俺に向かってくる。
じいさんがばあさんを制した。
「これこれ、大教母殿。
こちらの風神殿が先日スィーンを連れて来て下さったからスィーンは助かったんですよ」
じいさんが宥めると、ばあさんは目を吊り上げ
「その説は誠にありがとうございました」
と、姿勢を正して俺の前に立つと胸の辺りで互いの袖に手を入れ頭を下げた。
口では礼の言葉を述べているが刺さるようなチクチクとした気を放っている。
すると、小僧が、
「大教母様、紹介します。友達のヴィーです」
とか抜かしやがった。
「俺がいつ友達になった?」
と、言う俺と、
「魔物と人間が友達になれる筈ありません」
と、言うばあさんの声が重なった。
小僧は淡々と抗議する。
「そんな事はありません。ヴィーは僕が困っている所を二度も助けてくれました」
「たまたま通りがかっただけだ」
と、俺が言うと、
「そうですよ。魔物は気まぐれなんですから」
と、ばあさんが俺の言う事に加担してくれる。
――怒るべきなのか喜ぶべきなのか。微妙だ。
俺にわかるのは、この3人の中では一番の俺に友好的でないばあさんが一番俺の事をわかっているようだ。
「これこれ、ここにおられる風神殿は確かにスィーンの事は助けて下さったのです。人間に害を成す者を魔物と定義するならば、風神殿は人に親切にして下さる良い精霊ではありませんか」
と、じいさんがばあさんを諭している。
――魔物だ精霊だって?そりゃ人間が勝手につけた名称だろうが?!
と口を挟みたい所だが、ばあさんの方が先に口を開いた。
「人でない事に変わりありません」
やっぱり俺に一番友好的でないばあさんが一番俺の事をわかっている。
どうでもいいけど、ばあさんの刺さるようなチクチクとした気が常に俺を威嚇している。
こういう気は苦手だ。
後は人間達の問題だ。
「じゃそういう事でまたな」
と、俺は早々に退散した。