風の章 14
小僧はすぐに見つかった。小僧は神殿の結界の外にいたからだ。
小僧は風通しの悪い半地下の石に囲まれた寂れた部屋の中にいた。寂れた部屋の明かりとりの小さな窓には柵はついているが、そんな事は俺には関係ない。風の通る隙間があれば、俺はどこにだって通り抜けられる。
俺はひらりと中に入った。小僧は固そうなベッドの上にうずくまる様にして座っていた。目をつぶっているので寝ているのか起きているのかわからない。
「よう!起きているか?」
俺が声をかけると、小僧は目を開けて俺を見た。寝てはいなかったらしい。
小僧は鳩が豆鉄砲食らったような顔をして俺を見る。
「就寝前の祈りをしていたんです。どうしたんですか?ヴィー」
「聞きたい事があった」
「聞きたい事ですか?」
「スェーヴィル村で何があったんだ」
「あの村の出来事ですか」
と、小僧は淡々としゃべり始めた。
「僕は、あの村に怪我人を治しに行ったんです。朝から、他の方々も治していたんです。するとひどく嫌な感じのする人がやって来て“東の都の神殿から来たというのは本当か”“馬で3日かかる距離を1日で来れるものか”“お前は本当に神殿から来た者なのか”と言い出したんです。そしたら、嫌な感じが周りの人間にも広がってしまって。それから何だか急に皆が攻撃的になってしまったんですよ。一体どうしたんでしょう」
「ふうん」
俺があの村で見た暗い気を小僧にはそういう風に感じるんだろうか。
「あっ、そういえばヴィーがここまで送ってくれたんですよね。あの時はあんまり意識がはっきりしてなくて。お礼が遅れました」
小僧は姿勢を正して俺の前に立つと胸の辺りで互いの袖に手を入れ、
「本当にありがとうございます」
と、深々と頭を下げた。
「通りがかっただけだ」
と、俺は言った。
それからこう付け加えた。
「乗せてやった事、誰にも言うなよ」
「本当にどうもありがとうございました」
小僧は笑いながら礼を言った。
その時ガチャリと重厚な音を立てて古臭い扉が開いた。