風の章 12
黄昏時、東の都ツェーントルをオレンジ色の光が包んでいる。
そして小僧は見つからない。
結界の中の神殿にいるのだろうけど、さすがに俺ももう一度結界の中に飛び込む気になれない。
――胸の中がすっきりしない。
――もやもやする。
――わけがわからん。
俺の中でやり場のない苛立ちがぐるぐると渦を巻いている。
俺の感情に合わせて俺の周りで大気がぐるぐると渦を巻き始めた。
渦はどんどん、どんどん、大きくなって・・・
ゴゴゴゴゴゴゴォォォォォ・・・
神殿の上に竜巻を形成した。
竜巻は神殿の屋根を巻き上げ、窓を割り、地上の大木を引き抜かんばかりの勢いで揺すり出した。
その時だった。
見た事のある黒い巨体が出てきた。
「ヴィー、落ち着け!」
グロームだ。
「貴様、一体、今までどこにいたんだ」
「ヴィー、気を静めろ!落ち着け!」
「貴様に聞きたい事があった」
「わかったから落ち着け!人間が巻き込まれる!やめるんだ!」
「人間だと?!そんな事、俺達の知った事か!」
「ヴィー!落ち着け!」
「なに言ってるんだ?俺はいつも通りだぜ」
そう言いながら俺はグロームに近づいていった。竜巻も動きだす。
竜巻は近くにあるものを片っ端からふっ飛ばし吸い上げていく。
するとどこからか小僧が出てきた。
「ヴィー!」
小僧は軽いので、あっという間に竜巻の中に吸い上げられた。
俺がせっかく助けてった小僧の命を今度は俺が奪うのか。それもなんだか目覚めが悪そうだ。
俺は天空に舞い上げられた小僧を捕まえた。
「よう!」
小僧が口を開いた。
「ヴィー、どうしたんですか?落ち着いてください」
「俺は落ち着いているぜ。いつも通りだ」
小僧は辺りを見渡した。
竜巻の中では玉砕された石材や木材がぐるぐると渦を巻いて飛びかっている。時々こっちに向かって飛んでくる異物を俺が吹っ飛ばす。俺は当たっても問題ないが小僧は自然界の小動物だからな。
小僧はそんな様子に目をやってから淡々とした口調で俺に言った。
「とりあえず僕を地面に降ろしてもらえませんか?」
「そうか」
そのままストンと小僧を地上に降ろすと、竜巻もストンと消えた。
地上は突然起こった竜巻でひどい有様だった。廃墟と化している。
それでも自然界の生き物には危害は加えてない。
何度も言うようだが俺はこう見えても自然界の小さな生き物には優しいんだ。
そうこうしていると1つの瓦礫の中からグロームが立ち上がった。
すると、
「どうしたんだ?」
「大丈夫ですか?」
「怪我がないか?」
と、人がわやわやと集まってきて、不安や動揺や苦痛といったわずらわしい気が辺りに広がりだした。
――胸くそ悪い気だぜ。
「行くぞ!グローム!」
そして俺とグロームはその場から姿を消した。