風の章 11
――とんだ災難だ。
何か楽しくて、結界の張ってある所に俺が飛び込まなくちゃいけないんだ。体がちぎれるかと思った。
まぁいい。過ぎた事だ。所詮は自然界の小さな生き物の揉め事だ。俺には関係ない。
そして俺の中では完結した出来事になった。
それから、俺は自由気ままにぶらぶらと風任せにあっちへ行ったりこっちへ行ったりしていた。
ふと気がつくと北のアルス山の近くだった。数日前に小僧を送ったスェーヴィル村が見える。すっかり小僧の事は忘れていたのだが、近くを通りがかったものだからつい寄ってみるか~なんて気を起こしちまった。
スェーヴィル村の側まで来ると、数日前とは何か違う事に気がついた。村全体を覆っていた暗い貧しい気がない。もう少し近づいてみた。村には人の姿が見えない。
――どういう事だ?
これはグロームのいたザーパト村と同じじゃないか。グロームならわかるだろうか。グロームなら、何か知っているだろうか。グロームに話を聞けば、何かわかるに違いない。
俺はグロームを探して、ザーパト村に向かった。
それなのに一体どうした事か、ザーパト村にグロームの姿が見えない。風に耳を澄まして、風に乗って流れてくる気配を感じたがこの辺りにはグロームはいない。人間もいない。どうして誰もいないんだ。
完全に肩透かしをくらった。俺にはさっぱりわからん。
俺は風だ。風の性分は風通しの良いのが好きだ。突き当たって行き場がなくなるのはすごく嫌いだ。こういうすっきりしない気分も大嫌いだ。
――どういう事なんだ~!!!
俺の気分に伴い俺の周りの大気がグルグル回りだした。
そこで俺は空を見上げた。日はまだ高い。
頭上には雲ひとつないどこまでに澄んだ空が広がっている。
この空は・・・小僧の瞳の色だ。
そこで気がついた。
――小僧だ。
すっかり忘れていた。そうだ、小僧がいる。小僧ならわかるだろうか。小僧なら、何か知っているだろうか。小僧に話を聞けば、何かわかるに違いない。
俺は、早くこのすっきりしない気持ちとおさらばしたかった。
そう思ったら、いても立ってもいられない。
小僧を置いて来た東の都ツェーントルの神殿を目指して、まっしぐらに飛んだ。