風の章 10
東の都ツェーントルの町並みは古い。赤茶色のレンガ作りの建物で統一されている。
――神殿はどこだ?あれか?
こんな人間の多い所になんか近づいたりしないからよくわからない。
見渡すと、都の中心にそびえ立っている塔がある。塔の上には大きな鐘がぶら下がっている。
この都で一番目立つ建物に近づいてみると、建物全体に結界がはってある。これが神殿だろう。
――さて、どうしたものか。
俺は神殿の周りをぐるりと一周した。
――神殿の入口にでも置いていくか。
そう思った時、小僧がむせた。放つ気はまるで昆虫並みで呼吸もかなり弱くなった。
――おいおい、大丈夫かよ?
俺は神殿の入口にでも置いていく計画を捨てて、一番大きな窓ガラスを叩き割って建物の中に飛び込んだ。
体中ピリピリと引きちぎられんばかりに痛い。
中にいたのは、じいさんとばあさんだった。小僧みたいな服を着ているからシェイマに違いない。
じいさんとばあさんは驚きに満ちた顔で俺と小僧を見比べている。
「・・・スィーン?!」
ばあさんは、
「どうしたの?何があったの?スィーン?大丈夫なの?」
と、やかましく駆け寄り、じいさんは物言わずに俺を見ている。
ピリピリとした気を放つばあさんは無視して、俺はじいさんに聞いた。
「お前はシェイマか?」
じいさんは答える。
「いかにも」
俺は小僧を床に置いた。
「小僧を治せるか?」
じいさんが答えた。
「大丈夫です」
ばあさんは一瞬涙を流したようだったが、じいさんの言葉を聞いて安心したのかすくっと立ち上がった。そしてすぐに気丈な顔を作り、取り乱し事などなかったかのように
「清潔な布。それから薬とお湯。必要なものをここに運ばせましょう」
と、部屋を出て行った。
部屋の外では、
「今の音はなんですか?」
「お怪我はございませんか?」
と、窓ガラスの割れた音を聞きつけてやってきた者の声がした。
「スィーンが帰ってきたのよ。怪我をしているから清潔な布。それから薬とお湯。布団も用意して。後は治癒の出来るシェイマ達をすべてここに呼び集めなさい。そうそう、スィーンを探しに行った者たちを呼び戻す事も忘れないように」
ばあさんが次々に指示を出している声がする。
――小僧の事はこれでいい。
「じゃ、後は頼んだぜ」
俺は窓からひらりと退散した。