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《短編:転生した“美食の破壊部隊”の料理改革》

掲載日:2026/05/25

俺たちの朝は早い。


まだ夜も開けぬ午前4時。

厨房には熱気とともに怒号が鳴り響く。


「おいっ!この仕込み、誰がやった!?……ったく、岩塩は“フィリーキ産”使えって言ったろ」

「うすっ!俺っす!……うえ?フィリーキ産?……はうっ!?ま、間違えた…」


ゴンッ!!


「うぐわっ!??」

「ったく。……で?“どこ産”使ったんだ?……このほんのり甘い食感――“デザイド産”、か?」


「痛てて…ふわー。さすが親方っす。……確かこの箱…っ!?――“まさに”っす!」


慌てて岩塩の入っていた箱を確かめるビゼン。

拳骨をもらい、涙目の瞳がきらりと光る。


「……しょうがねえな。味自体は悪くねえ。だがな。――オリーフィル侯爵様は美食を究められし方だ。さらには主催は国王ときてる。いい加減なものは出せねえ――今は4時……ったく。間に合わねえじゃねえか」


そう言いつつも、ビゼンの仕込んだ食材に魔力を這わすウィリード。


「しょうがねえ…“緊急避難”だ――はああっ!!」


仕込まれた食材。

それらがキラキラと光輝く。


「……塩味…47……甘味……14………干渉物……2.9――ふう」


食材を構成するうま味成分。

ウィリードのスキル『成分調整』


その成分は“調整”されてゆく。


「…ふわー。相変わらず凄いっす。俺、一生ついていくっす!!」

「……チッ。――おい、バナード」


ビゼンの憧れの瞳。

そしてあふれ出すオーラを無視し。


ウィリードは今回の料理コースを任せてあるバナードに声をかけた。


「はい。――準備は万端です。……今日の食材、どれも一級品ですね――鮮度も問題ない」

「ふん。確かにな。――どうやら今日はご息女の“輿入れ”らしいからな」


つい皮肉じみた表情を浮かべるウィリード。

“以前”の光景が一瞬脳裏をよぎる。


「まあ。“この世界”のお偉いさん方――“あっち”よりは味に対して素直だからな」

「そう――ですね。……大体から、“ジャンクフード”とかないですから…舌が素直なんですよ」


「違いねえ」



※※※※※



王宮、一級調理厨房。

通称『美食の破壊部隊』


実は彼等。


全員が異世界からの転生者だった。


「ふあー……おはようっす」

「遅せえ!!」


そんな中。

新たな人物が、あくびをしながら厨房へと入ってきた。


「んー?まだ4時じゃん。予定通りでしょ?黒ちゃん」

「ウィリード、だ。――昔の名は禁止。言ったはずだが?」


「ごめんごめん…えっと……猛…コホン。バナード、準備は終わってんだろ?」

「おはようございます。エルリックさん。――ええ。仕込みは万全ですよ。あとは第2厨房の皆にレシピを伝えれば終了です」


エルリックと呼ばれた、いかにも軽薄そうな男性は。

おもむろに目を細め、魔力を放出。


やがてその瞳がにやりと歪む。


「ハハハ。あき…コホン。ビゼン、お前またやらかしやがったな?でもまあ。――むしろ喜ぶんじゃないか?侯爵様、少し血圧高いぞ?」


「っ!?お、おい。それは本当か?」


エルリックの何気ない言葉。

それに反応したウィリードは思わず声をあげる。


「うん。あれ?僕この前“親方”に言わなかったっけ?――ほら、このイメージと一緒にさ」


突然4人の脳裏に流れ来るイメージ。


その中の一つ。

まるで処方箋のような文字の羅列の一部に『オリーフィル侯爵:高血圧。脳梗塞の危険』

――そう、記されていた。


「っ!?……やべえ。忘れてた。――お、おい。エルリック。『鑑定』頼めるか?倒れられでもしたら目も当てられん」


「はいはい。しっかりしてよね?お・や・か・た♡」

「うるせえ」



※※※※※



実は彼等。

この異世界。

まさに中世ヨーロッパレベルの世界。


異常なスキルを携え、何故かまとめて転生してきていた。


同じ教会の一室で、同時に目覚めた4人。

そして脳裏に流れ込む、この世界の料理事情。


だから彼らは思う。


『この世界の料理事情――出鱈目すぎる!?』


そして気付けば4人。

見つめ合い頷いていたんだ。


『革命を!!この世界の料理――ぶち壊す!!』


そう彼ら4人。

元の世界、地球。


実力がありながら、世渡り下手だった彼らは。



理不尽な運命に翻弄されその生涯を閉じていた。


年齢も。

経験も。

出自も生活していた時代すら。


全てが違った4人。


だが。


『うまい料理で人を喜ばせたい!』


そこだけは一致していたんだ。



彼等の挑戦。

それは幾つもの奇跡を紡いでいく。



※※※※※



厳かなオーケストラの旋律が響く大ホール。

静かに上品に鳴り響く、ナイフとフォークの音。


「ふむ。なんというまろやかな味。陛下。まさに至高の一品。このコンフォート・オリーフィル。心の底からの感嘆を申し上げる」


「ほう?そなたの舌を持ってしても、そこまで言わせるか。…確かに旨い」


豪華な。

それでいてしっかりと“健康に問題にならない”レベルで洗練された美食の数々。


実は国王。

驚いていた。


(むう。あやつらめ。――また腕を上げおったな?……絶対に手放さん)


そして執着。

彼等の運命。


僅かながら、不穏な色を帯びていた(笑)



※※※※※



本日の目的。

王国第2王子とオリーフィル侯爵が息女エルール嬢との婚姻の儀の打ち合わせ。


幾つかの式典を済ませ。

既に若い二人はガゼボでお茶を楽しんでいるころだろう。


その親であるこの国の王ハーデルウィン。

そして王妃のエリザベート。


さらには宰相であるリンテーシュ侯爵までもが。


あまりなじみのない、美しい料理に舌鼓を打っていた。


「時にコンフォートよ」

「はっ」

「……隣国との折衝――そなたに任せよう」


「っ!?ありがたき幸せ」


王族との婚姻。

それは貴族にとって、最上の栄誉。


そして与えられる幾つかの特権。


この瞬間。

コンフォート・オリーフィル侯爵は実質“軍事部門の統括”となっていた。


「宰相、良いな?」

「御意」



※※※※※



――夕刻


王宮内にあてがわれた、異世界人4人の住居。


この世界としてはかなり上質な部屋なのだが…



「はっくしょん…うう、寒いな……」


上等なベッド。

しかし寝心地の悪いそれ。


なにより空調という概念の欠落している世界。

薪で暖を取る程ではない、中途半端な初春は底冷えしてしまう。


毛布にくるまり、ビゼンは今朝の失敗について一人反省会を行っていた。


「俺っちのスキル…『誘導改善』――コントロールできないんだよね…」


そう。

朝の失態。


実は彼、ビゼンのミスだけではなかった。


彼のスキルはまさにギフト。

物事をより良い方向へと導くまさにチート。


しかし。


(はあ。……せめてバナード兄みたいなスキルならよかったのに…)


独り言ちベッドにひっくり返るビゼン。


ふいに思い起こされる過去の記憶。


嫌な感情。

そして。


――心細くなる精神。


(…もう過去の事――関係ないのに……くそっ!)


くるんでいた毛布を脱ぎ捨て、勢いよく飛び起きるビゼン。


「…こんな時は酒っす。……この時間ならみんなサロンかな?――おーい!!」


部屋を飛び出すビゼン。

そしてすぐさまにぎやかになる彼らにあてがわれたサロン。



料理という武器を持つ転生者4人。


彼等の物語は。



まさに今から始まるのだった。




FIN


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