《短編:転生した“美食の破壊部隊”の料理改革》
俺たちの朝は早い。
まだ夜も開けぬ午前4時。
厨房には熱気とともに怒号が鳴り響く。
「おいっ!この仕込み、誰がやった!?……ったく、岩塩は“フィリーキ産”使えって言ったろ」
「うすっ!俺っす!……うえ?フィリーキ産?……はうっ!?ま、間違えた…」
ゴンッ!!
「うぐわっ!??」
「ったく。……で?“どこ産”使ったんだ?……このほんのり甘い食感――“デザイド産”、か?」
「痛てて…ふわー。さすが親方っす。……確かこの箱…っ!?――“まさに”っす!」
慌てて岩塩の入っていた箱を確かめるビゼン。
拳骨をもらい、涙目の瞳がきらりと光る。
「……しょうがねえな。味自体は悪くねえ。だがな。――オリーフィル侯爵様は美食を究められし方だ。さらには主催は国王ときてる。いい加減なものは出せねえ――今は4時……ったく。間に合わねえじゃねえか」
そう言いつつも、ビゼンの仕込んだ食材に魔力を這わすウィリード。
「しょうがねえ…“緊急避難”だ――はああっ!!」
仕込まれた食材。
それらがキラキラと光輝く。
「……塩味…47……甘味……14………干渉物……2.9――ふう」
食材を構成するうま味成分。
ウィリードのスキル『成分調整』
その成分は“調整”されてゆく。
「…ふわー。相変わらず凄いっす。俺、一生ついていくっす!!」
「……チッ。――おい、バナード」
ビゼンの憧れの瞳。
そしてあふれ出すオーラを無視し。
ウィリードは今回の料理コースを任せてあるバナードに声をかけた。
「はい。――準備は万端です。……今日の食材、どれも一級品ですね――鮮度も問題ない」
「ふん。確かにな。――どうやら今日はご息女の“輿入れ”らしいからな」
つい皮肉じみた表情を浮かべるウィリード。
“以前”の光景が一瞬脳裏をよぎる。
「まあ。“この世界”のお偉いさん方――“あっち”よりは味に対して素直だからな」
「そう――ですね。……大体から、“ジャンクフード”とかないですから…舌が素直なんですよ」
「違いねえ」
※※※※※
王宮、一級調理厨房。
通称『美食の破壊部隊』
実は彼等。
全員が異世界からの転生者だった。
「ふあー……おはようっす」
「遅せえ!!」
そんな中。
新たな人物が、あくびをしながら厨房へと入ってきた。
「んー?まだ4時じゃん。予定通りでしょ?黒ちゃん」
「ウィリード、だ。――昔の名は禁止。言ったはずだが?」
「ごめんごめん…えっと……猛…コホン。バナード、準備は終わってんだろ?」
「おはようございます。エルリックさん。――ええ。仕込みは万全ですよ。あとは第2厨房の皆にレシピを伝えれば終了です」
エルリックと呼ばれた、いかにも軽薄そうな男性は。
おもむろに目を細め、魔力を放出。
やがてその瞳がにやりと歪む。
「ハハハ。あき…コホン。ビゼン、お前またやらかしやがったな?でもまあ。――むしろ喜ぶんじゃないか?侯爵様、少し血圧高いぞ?」
「っ!?お、おい。それは本当か?」
エルリックの何気ない言葉。
それに反応したウィリードは思わず声をあげる。
「うん。あれ?僕この前“親方”に言わなかったっけ?――ほら、このイメージと一緒にさ」
突然4人の脳裏に流れ来るイメージ。
その中の一つ。
まるで処方箋のような文字の羅列の一部に『オリーフィル侯爵:高血圧。脳梗塞の危険』
――そう、記されていた。
「っ!?……やべえ。忘れてた。――お、おい。エルリック。『鑑定』頼めるか?倒れられでもしたら目も当てられん」
「はいはい。しっかりしてよね?お・や・か・た♡」
「うるせえ」
※※※※※
実は彼等。
この異世界。
まさに中世ヨーロッパレベルの世界。
異常なスキルを携え、何故かまとめて転生してきていた。
同じ教会の一室で、同時に目覚めた4人。
そして脳裏に流れ込む、この世界の料理事情。
だから彼らは思う。
『この世界の料理事情――出鱈目すぎる!?』
そして気付けば4人。
見つめ合い頷いていたんだ。
『革命を!!この世界の料理――ぶち壊す!!』
そう彼ら4人。
元の世界、地球。
実力がありながら、世渡り下手だった彼らは。
理不尽な運命に翻弄されその生涯を閉じていた。
年齢も。
経験も。
出自も生活していた時代すら。
全てが違った4人。
だが。
『うまい料理で人を喜ばせたい!』
そこだけは一致していたんだ。
彼等の挑戦。
それは幾つもの奇跡を紡いでいく。
※※※※※
厳かなオーケストラの旋律が響く大ホール。
静かに上品に鳴り響く、ナイフとフォークの音。
「ふむ。なんというまろやかな味。陛下。まさに至高の一品。このコンフォート・オリーフィル。心の底からの感嘆を申し上げる」
「ほう?そなたの舌を持ってしても、そこまで言わせるか。…確かに旨い」
豪華な。
それでいてしっかりと“健康に問題にならない”レベルで洗練された美食の数々。
実は国王。
驚いていた。
(むう。あやつらめ。――また腕を上げおったな?……絶対に手放さん)
そして執着。
彼等の運命。
僅かながら、不穏な色を帯びていた(笑)
※※※※※
本日の目的。
王国第2王子とオリーフィル侯爵が息女エルール嬢との婚姻の儀の打ち合わせ。
幾つかの式典を済ませ。
既に若い二人はガゼボでお茶を楽しんでいるころだろう。
その親であるこの国の王ハーデルウィン。
そして王妃のエリザベート。
さらには宰相であるリンテーシュ侯爵までもが。
あまりなじみのない、美しい料理に舌鼓を打っていた。
「時にコンフォートよ」
「はっ」
「……隣国との折衝――そなたに任せよう」
「っ!?ありがたき幸せ」
王族との婚姻。
それは貴族にとって、最上の栄誉。
そして与えられる幾つかの特権。
この瞬間。
コンフォート・オリーフィル侯爵は実質“軍事部門の統括”となっていた。
「宰相、良いな?」
「御意」
※※※※※
――夕刻
王宮内にあてがわれた、異世界人4人の住居。
この世界としてはかなり上質な部屋なのだが…
「はっくしょん…うう、寒いな……」
上等なベッド。
しかし寝心地の悪いそれ。
なにより空調という概念の欠落している世界。
薪で暖を取る程ではない、中途半端な初春は底冷えしてしまう。
毛布にくるまり、ビゼンは今朝の失敗について一人反省会を行っていた。
「俺っちのスキル…『誘導改善』――コントロールできないんだよね…」
そう。
朝の失態。
実は彼、ビゼンのミスだけではなかった。
彼のスキルはまさにギフト。
物事をより良い方向へと導くまさにチート。
しかし。
(はあ。……せめてバナード兄みたいなスキルならよかったのに…)
独り言ちベッドにひっくり返るビゼン。
ふいに思い起こされる過去の記憶。
嫌な感情。
そして。
――心細くなる精神。
(…もう過去の事――関係ないのに……くそっ!)
くるんでいた毛布を脱ぎ捨て、勢いよく飛び起きるビゼン。
「…こんな時は酒っす。……この時間ならみんなサロンかな?――おーい!!」
部屋を飛び出すビゼン。
そしてすぐさまにぎやかになる彼らにあてがわれたサロン。
料理という武器を持つ転生者4人。
彼等の物語は。
まさに今から始まるのだった。
FIN




