Ep.1 第一法則、ガーディアンは自由を許容しない。
とある平和な日の昼下がり。
「……はぁ」
私は頭を抱えた。
私がカフェの隅の席でコーヒーを飲んでいると、いつの間にやらその両隣を挟まれていたのだ。
黒いスーツで、いかにも堅そうな見た目をしている2人の男。
「雪宮ユキさん……ですね?」
「そうだけど、何? アポぐらい取って欲しいな」
「そうすると断られる、と佐伯さんが」
「チッ」
私は再度コーヒーに口をつけた。苦い。砂糖とミルクを入れたのに苦い。なんでこんなもんが好きなんだ人間ってやつは。
私は砂糖を2つ入れた。まだ苦い。さらに2つ入れた。いいね!
こちらのスーツ男2名は、どこかの魔術師組織かなんかの人間だろう。というか国の直属か。
まぁそれくらいは分かる。使い魔を連れているし、魔力を隠す気がまったくない。
……というか、周りのお客さんたちが全員席を外しているのはそういうことか。
人避けの結界でも張られているんだろう。
「単刀直入に言います。我々は、あなたに依頼があってここへ……」
「ヤダ」
「まだ内容を——」
「だから、ヤダ」
コーヒーカップを置く。
こういう依頼の流れは大体が面倒事だ。
大方『1級が居ないし2級も断ってる』ってとこだろう。
「はい、じゃあこのコーヒー代を奢りつつ帰りなさい。イキってこんな店来なきゃよかったかな……」
「少しだけ聞いてもらえますか? 報酬は出します」
「いらんし」
「そ、そんな……」
片方のスーツ男が、なんだか困ったような顔をし始めた。
もう片方はずっと黙って私を見ている。気まずそう。
「キミらさぁ……」
私は溜め息をついた。
「こう、もうちょっと私を本気でやる気にしようとか思わないわけ?」
「……あ、そうでした」
そう言いつつ、片方は自らのバッグに手を入れ、何かを取り出した。
「佐伯さんが“これ渡せ”って……」
「あのメス男何渡したんだ一体……」
渡された紙袋の、上側のテープを剥がして中身を取り出す。
そこに入っていたのは、私が個人的にやっているソシャゲに出てくるダウナーお姉さん系キャラのフィギュアだった。しかも手に入りづらいやつ。
「……なんでも協力しよう! さぁ、用件を言ってくれ!」
私はそう言いながら、カップの底に残ったコーヒーをズズッと飲み干した。
「実は———最近、この都市で不可解な失踪が起きていまして」
「はー」
「複数の一般市民が行方不明になっており、その数は既に3名を超えています。念のため補足ですが、魔術案件です」
「ほーん」
「現時点で我々が把握している限り、関与しているのは少なくとも2つ以上の組織か、あるいは個人だと」
「それで?」
スーツ男2号がようやく口を開く。
「調査と、可能なら制圧を。あなたの実力であれば———」
「いいよ。承った」
「いいんですか?」
「そりゃもちろん。あ、ちなみにお金はちゃんと出してね? 結構面倒そうだし……うん、まぁ……本来は1000万円のところ脅威の90%オフ! 100万円くらいでいいよ」
私は窓の外を見る。
今日はステキな日だ。花が咲いてる。小鳥たちもさえずってる。
こんな日には、私みたいな奴はボランティアでもするべきだろう。
別にダウナーお姉さんのフィギュアを貰ったからでは断じてない。断じて!!!
「そっちじゃ対処出来なかったんでしょ?」
「はい。どうやら敵は高度な隠蔽を施しており……」
「分かった。それじゃあ今日中にやろう、丁度いいし」
「ありがとうございます!」
「あと、このコーヒー代は出して。お釣りは私が貰ってあげるよ」
「え、いやお釣りは渡しませんよ……」
「はぁ、これだから若者は」
クソ老人ムーブをかましつつも、彼らはしっかりとコーヒー代を払ってくれた。お釣りはくれなかった。
「ありがとうございます、兄さん」
魔術関連の組織は昔ながらの慣習が無駄に残っているため、こういうふうに人を呼ぶ奴も多々いる。
別にそれ自体はいいんだが、ひとつ許容できない台詞があった。
「私はお兄さんではない……ダウナーお姉さんだ!」
「「あっはい」」
そう言い残し、私はカフェを去った。
◇とある地下水路
「なんか微弱な魔力を感じる……お、アタリ」
国の犬どもは誤魔化せても、私のダウナーお姉さんアイは誤魔化せないぞ〜〜〜^^
地下水路の横側、幻影で隠されていた秘密の通路を進んでいく。
カツ、カツとわざとらしく足音を立てて歩みを進める。別に音なんて立てない方がいいが、こっちの方がカッコいいからね!
そんなことを考えたり口にしたりしながら歩くこと2分。
長いな……と思い始めてきたタイミングで、道の先から音が聞こえてきた。
これは刃物……剣か何かのぶつかる音だ。よく知っている。
「誰か来てる? まぁいいや、ひとまず少し急ごう」
私は加速し、1秒も経たずに秘密の通路の果てまで辿り着いた。ちゃんと風圧ケアも忘れない。
「おっ、なんか面白そうなことやってんねぇ?」
目の前には高校生っぽい男の子と女の子、それといかにも『悪の教団、やってます!』と主張している装いの男たちが5人程度。
そしてその辺に放り投げられている、魔力抜かれた死体が3人分。
これは———1話だ!
いいね、私も現ファンは好きだぜ。特に帰還モノっていいよね。
「ユウくん! 無茶しないで!」
『へっへへ……ただのガキが俺たちの拠点を見つけれたのは褒めてやろう。だがなァ……甘ぇんだよ! お前らには知らない“裏”ってモンがあるのさ!』
「……」
『お? 向かってくるってのか? いいぜ、魔人の恐ろしさを教えてやるからよぉ!』
うんうん、やっぱここは無言で近づいていくシーンだよなやっぱり。
そういうテンプレ展開好きだよ!
でも念のため加勢するね!!
「とーうっ!」
「はっ?」
『誰———ぐべらぁっ!?』
身体が『く』の字に折れ曲がって吹き飛んでいく教団員(仮称)。
私はそのままくるくると回転し、スーパーヒーロー着地を完遂する。
「膝と拳の痛みは無効化済みだ……!」
「え、あ、だ、誰……?」
ボロボロになっている女の子が私の方を向いて困惑する。男の子の方は険しい視線を私に向けていた。
来たな、自己紹介シーン!
「私は雪宮ユキ———通りすがりのダウナーお姉さんだッ!!」
「声でっか」
「おい今テメー『ダウナーお姉さんじゃなくてアッパーお兄さんだろ』って言ったな!?」
「言ってねぇよ!?!?」
心の声が聞こえてんだよ!!
「こわ……里奈、あの人とは関わっちゃダメだぞ」
「いや、そんな事言われないでも……というか! 前!」
「見えてる見えてる、問題ナシ!」
『なっ……』
私の方へ向かってきた男の拳を握りつぶし、捻る。
そしてその身体を両手で掴み、天へと掲げ———
「あそーれっ♪」
『え、あ……ぎゃぁっ!?』
ちょっとあんまり詳しく説明するとアレなんでぼかすと、教団員くんは教団/員になった。ポテチの袋を開けるみたいな感覚に近いか?
そして、荒い断面から私の全身に血が降りかかる。まっず。
「ひ、ひぃっ……!」
「り、里奈!? しっかり……って、クソが。お構いナシかよ!」
男の子の方にも教団員が飛びかかる。魔術で強化した拳の一撃———普通の人間なら即死だろうが、まぁあの子は大丈夫だろう。
なんか聖剣持ってるし。
というか……私にヤバい奴を見るような目を向けといて、彼も普通に男を真っ二つに両断していた。やっぱ異世界帰りってやつですか!?
お姉さん、気になります!
「おい、というかアンタ何も———殺人鬼?」
「失礼だぞ、推定勇者くん。私のどこが殺人鬼なんだ!? どう見ても超クールなダウナーお姉さんだろうが!」
「いや頭から血被っといてよくそんな……というか、なんで俺が勇者って……」
ビンゴだぜ!
後で記憶いじいじ……は流石に可哀想だからやめておこう。
「おい殺人鬼、アンタも気づいてるだろうが……増えてるぞ、あいつら。これじゃキリが……」
「ん? あぁ、まぁ分身だしそりゃそうだ」
「は? これが分身? 見た目も全部違うし血も出てるのに?」
そうでなきゃあんなスプラッタやらんよ。冗談で済むからあんなことしたっていうのに。
「冗談でもするなよ」
「友達にはウケたんだけどなぁ……」
「縁切れそんな友達!」
「ま、それはともかく……本体見つけたよ」
「どこだ!?」
ん、と呟きながら上を指す。
「中指立ててんじゃねぇ!」
天井に蜘蛛みたいな体勢で張り付いている、気持ち悪い外見の人型。
どうやら気づかれるとは思っていなかったらしい……まぁ結構高度な隠蔽だった。
———だがダウナーお姉さんアイは誤魔化せない!
「かぁっ」
ビッ!と私の口から放たれる青いレーザー。
天井に張り付いていた不審者は腹にぽっかりと穴を開け、下へと落ちてくる。
まぁギリ死んでないのでヨシ!
拘束して魔術協会に届けましょうね〜
「……え、今の何? とても人とは思えないことしてなかった?」
「気のせいでは……?」
別に人間だって口からなんか出すでしょ。ほら……吐瀉物とか。うん。
毎日投稿予定です
面白かったらフォローとか☆☆☆☆☆をしてくれると嬉しいと、ダウナーお姉さんも言っています。
簡単にできますので……




