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4 推しからの妹認定は、号泣案件です。

ロゼリアの髪が切られる事件があった次の日、私とロゼリアはレオルドの手配した散髪師によって、短くなりギザギザした髪を整えてもらった。

その時、ロゼリアと共にいたのだが、ロゼリアの目元は赤くなっており、一晩中泣いていたのだと察した。

整え終わった後、ロゼリアは一瞬だけ私を視界に入れたが、すぐに目を逸らし、別のメイドを連れて部屋を出て行ってしまった。

それから、二日が経ち、私は再びロゼリアと会う機会を失っていた。


(短い髪のロゼリアたんも可愛かったなあ………!)


髪を整えた後、ロゼリアは椅子に座ったまま鏡を手に持ち、短くなった髪を眺めていた。

その時のロゼリアが、月夜に輝く一輪の赤い薔薇のように見えた。美しく、気高く、だけどどこか寂しそうな感じに思えた。


「って、あ!」


ベッドから勢いよく起き上がり、あることを思い出す。


(花冠、置いてきたままだった!)


ロゼリアを助けに行った時、ロゼリアがメイドに髪を切られてしまった瞬間を目にしてしまい、花冠が入った籠を落としてしまったのだ。

レオルドが来た後は、花冠のことをすっかりと忘れていて、私はロゼリアを心配しながら部屋へと戻ったことを覚えている。

落としてしまった為、花冠はきっと壊れてしまっているだろう。


(壊れている花冠を推しのいる部屋に置いたままにしていたなんて!一生の不覚!!)


拳を強く胸元で握り締め、顔を顰める。

だが、今から花冠を回収しに行っても、メイドがもう捨てているかもしれない。


(なら、何かお詫びの品でも持っていこうかな)


お詫びの品と言っても、ここ最近は自分で作れるものは大体作ってしまった。そのため、手作りのものでは範囲が絞られてしまう。

その時、ふと、ロゼリアの髪が頭に浮かんだ。光によって変わる漆黒の美しい髪を。


(ロゼリアの髪に似合う髪飾りでもあげよっかな………)


私はベッドから降り、部屋を出た。

廊下を進んで行く途中、メイド達は私を見ると深く頭を下げる。

ロゼリアの髪を切られて以来、使用人達に不穏な空気が漂っていた。メイドの中から、レビス家の者に逆らう輩が出てきたのだから仕方のないことだろうが。

使用人達が、探り探りな日々を過ごしているのが、考えずとも分かる。

それと度々、私の髪に目線を向けている。

短くなった私の髪に対して、酷く残念そうな目をしていた。

私として、ロゼリアの髪を切ったメイドに全ての罪から逃げられないように、自ら切ったのだが、そのことにこの家の者は一切気づいていない。


(ロゼリアと同じ髪型なのは恐れ多いけど、お揃いで嬉しいって気持ちにもなってしまう!)

「ねえねえ、パイドゥンさんがどこにいるか、知ってる?」

「え、あ、はい!先ほど、調理室へと向かっていましたよ!」

「そう、ありがとう!」


ニコッと笑い返すと、メイド達の頬がほんのり赤く染まっていく。

なぜ赤くなってるのか分からず、首を少し傾けると、メイド達はもっと頬が染まっていった。

訳も分からないまま、メイド達と別れ、私はパイドゥンがいる調理室へと向かった。

調理室に着くと、パイドゥンが食材の入った箱の前に立っていた。


「パイドゥンさん!」

「おや、ヒカリ様。どうかいたしましたか?」

「あのね、欲しいものがあるの!」

「欲しいものですか?」


パイドゥンは首を傾げながら、こちらを覗き込む。

私は満面の笑みを作り、口を開いた。



「ーーー色つきの紐をください!」



そう言うと、パイドゥンは口が開けたままの状態で私を凝視していた。


「ひ、紐………ですか?」

「はい!」

「それは、何故でしょうか?」


パイドゥンは白い髭を一撫でする。

パイドゥンの瞳孔が揺らいでおり、動揺しているのだとわかる。


「ふっふ…………それは出来てからのお楽しみです!」



********



「よし、いっちょ作りますか!」


パイドゥンが持ってきた籠の中には、様々な色がついた紐があった。

私は薔薇のような赤色の紐を手に取り、別の赤色の紐と組み合わせて編んでいく。

私が今作っているのは、組紐だ。

前世では一時期、組紐を使った髪飾りが流行していた。

私がいた日本では着物という伝統服があり、それに似合う組紐の髪飾りを着けて、夏祭りなどに参加する女子が多くいたのだ。

私のようなオタクは、そのような恋人の遊び(デート)になど一切興味がなく、寧ろ、恋人などは爆発してしまえと思っていたほどだ。恋人たちが夏祭りで『うふふ』『きゃはは』とイチャイチャしている間、私は一人で乙女ゲームを攻略していたのが、今となってはとても虚しく感じる。


(年齢イコール恋人なしだった私にはもう関係ないけどね………あはは!)


ヤケクソになりながらも最後の紐を編み終え、薔薇色をした組紐の髪飾りが完成した。


「完成〜!!初めて作った割には、結構良い出来かも!」


リボンの形をした組紐は綺麗に編まれており、自分の手先の器量さに驚いてしまう。

髪飾りを両手に持ち、両手の中に包まれている髪飾りを眺める。

髪飾りから目線を上げ、髪飾りを机に置き、籠の中を覗き見る。



「ーーー………そうだ!」



ふと思いついた考えに、私は籠の中へと手を伸ばした。

そこから一つの紐を取り、手を動かしていく。


(待っていてね、ロゼリア!)



********



それから一日が過ぎ、私は今、ロゼリアの部屋へといた。

あの事件以来、ロゼリアの部屋は移動され、なんと私の部屋と近くなったのだ。そのため、行き来をするのが楽になった。

ロゼリアの元の部屋は物置として使われることとなり、ロゼリアは二度とあの部屋へは戻らないだろう。

私は腕に掛けられた籠を一度目に入れ、深く息を吸い、吐いた。


「あの、ロゼリア……様に、会うことはできますか?」


ロゼリアの部屋の前に立っていたメイドに声をかける。メイドはニコッと笑い、「少々お待ちください」と言い残し、部屋の中へと入って行った。

それから数分待つと、メイドが出て来て、「どうぞ」と優しく微笑み、扉を開けた。


(は、初めて入れてもらえた!)


これまではロゼリアと会う事はできなかった。それはロゼリアの意思だったのか、それともあのメイドがわざと私からロゼリアを突き放そうとしたのか、わからないが、やっとロゼリアに会うことができる。


「し、失礼します………」


ニヤけてしまう口角を必死に抑え、部屋の中へと踏み入れる。

そこには、窓際に座り、ティーカップを口元に運んで優雅に茶を嗜んでいるロゼリアがいた。窓から刺す光に漆黒の髪が青く輝き、絹のような肌がより一層白く見える。

ロゼリアの瞼が開き、つり目の奥にあるルビーの瞳が私を捉えた。


「よくお越しいただきましたわ。どうぞ、お掛けになって」

「は、はい」

(ロゼリアたん、爆かわ〜!!!!)


ルビーのような赤いドレスに身を纏っているロゼリアを目にし、心の中で暴れる感情を顔に出さないように必死に抑えながら、ロゼリアの向かいの椅子へと腰をかける。

メイドは私にロゼリアと同じお茶を淹れ、頭を下げて部屋を出て行った。

それから、ロゼリアはもう一度お茶を口に運び、ゆっくりとティーカップを置いた。


「あなたは、最近はどうですの?」

「え、あ、最近………とは?」

「そ、それは………その、あの日以来、元気でしたの………?」


あの日。それはロゼリアの髪切り事件のことだろう。

ロゼリアの耳が薄らと赤く染まっており、ロゼリアの短くなった髪からはっきりと見えた。


「はい。ロゼリア、様もお元気でしたか?」

「え、ええ。何ともなかったわよ………」

(ーーー嘘だ)


ロゼリアは嘘をついている。

ロゼリアの瞳孔が酷く揺れており、動揺していることがあからさまにわかる。そして、ロゼリアの部屋に入った時も、一瞬だが空気が沈んでいた。


(きっと、ロゼリアはまだあの日のことを引きずっているんだ。無理もないけど、その状態が続くと、我儘になってしまう!)


だが、ここ数日では、ロゼリアが我儘を口にしたという話を聞いていないから、まだ我儘にはなっていないのだろう。


「そ、それで、今日は何のようかしら?」

「あ、それは………」

「?」


首を傾げるロゼリアが視界に入るが、私の意識はその奥を見つめていた。



「ーー………あの、花冠………」

「!」



私の目線の先には、私が作った花冠が壁に掛けられてあった。花冠は歪んでおり、花弁がついていない部分もある。

落としてしまったのだから、どこかが壊れていても仕方がないが、なぜロゼリアの部屋に飾られているのだろうか。


「ロゼリア、様………………なぜ?」

「…………」


ロゼリアは無言のまま、花冠を見つめていた。ロゼリアの目が一瞬だけ温かく見えた。その目を見て、ロゼリアはどうして花冠がここにあるのかを話す気がないのだと、わかった。


「あなたに、聞きたいことがあるの」


ロゼリアは花冠から目を背け、私に目を向ける。つり目をしたルビーの瞳が私を貫く。


「なぜ、あの時、あなたは自分の髪を切ったの?」


ロゼリアは自分の短くなった髪を一つ掬い上げ、毛先を弄る。毛先を見つめる瞳は、どこか寂しげに見えた。


「あのメイドを逃さないためには、時間を稼がないといけませんでした」

「でも、髪を切る必要はなかったのでは?」

「え、あ、それは〜………そのぉ〜……」


ロゼリアの言う通り、あの時、自分の髪を切る必要は無かった。しかし、ロゼリアのルビーの瞳が光を失っていく姿を見て、ロゼリアが闇に堕ちていくのを阻止したく、咄嗟に髪を切ってしまったのだ。

だが、このことをロゼリアに話すことはできない。

その為、ロゼリアからの問いに素直に答えることは出来ず、口が上手く動かない。


(もう、どうにでもなれ!)


私は言い訳を考えることを放棄し、頭の中が上手く回らないまま、口を開く。



「ーーーロ、ロゼリア様とおそろいにしたかったからです!!」



ロゼリアと私の間に、深い沈黙が流れる。

ロゼリアは目を大きく見開いており、私を凝視していた。


(ちょっと待って、私今なんて言った!?え、私『ロゼリアとおそろいにしたかったから』って、言ったよね!?なんてこと言っているの!?)


冷や汗が垂れ、太ももの上に置いていた拳をより一層強く握りしめる。

チラッとロゼリアの方に目を向けると、ロゼリアはまだ目を見開いた。


(ほら、ロゼリアが困ってるよー!)


心の中の私が、山の上で叫んでいる姿が頭に思い浮かぶ。

現実から逃げるかのように、心の中に行こうとすると、ロゼリアの声が私を現実に戻した。


「ーー……淑女として、髪はとても大事なものよ。長くて美しい髪が淑女の象徴。私は、それを失ってしまったのよ………」


ロゼリアは俯いたまま、話す。

俯いたままのロゼリアからは上手く表情を見ることが出来ないが、おそらく悲しい目をしているのだろう。

なんとなく、そう思った。


「ロゼリア様、確かにあなたは淑女としての象徴を失ってしまったのでしょう。でも、私から見たロゼリア様は、とても美しく見えます」

(ロゼリアたんの長髪も良かったけど、短い髪もロゼリアの魅力を最大限に活かしている……流石、私の推しは顔面偏差値が高い!)


ロゼリアの顔は、魅惑のつり目にルビーの瞳。その上、鼻は高く、輪郭はとてもスラっとしており、美しい。顔が良いとなんでも似合うと、前世の友達がよく言っていたが、それは本当だったらしい。


「ロゼリア様がどんな姿になっても、私は必ず言います。あなたはーーー世界で誰よりも美しく、完璧なんです!」


私は椅子から腰を上げる。そして、床に置いていた籠の中に手を伸ばし、組紐を手に取った。

薔薇色の組紐を両手に大切に包み込み、ロゼリアの元へと行く。

ロゼリアの背後に立ち、ロゼリアの髪に触れる。

髪の一部を掬い、組紐で結んでいく。


「はい。ロゼリア様、今日はこちらを持ってきました。ぜひ見てください」


私はロゼリアに手鏡を渡す。

手鏡を受け取ったロゼリアは、鏡に写る自分の姿を見て、瞠目する。


「………これは」

「やっぱり、ロゼリア様には赤が似合いますね」


鏡の中にはロゼリアの髪に組紐が結ばれており、薔薇色の組紐が窓から刺す光によって輝いていた。

そんなロゼリアは、やはり世界で一番美しいと言える。

私はロゼリアの元から離れ、ロゼリアの向かいの椅子に再び腰をかけた。

ロゼリアはまだ手鏡を手放さず、鏡を見つめていた。


「気に入ってくれましたか……?」

「………ええ。とても、可愛いわ」


ロゼリアは組紐に触れ、ロゼリアの口元が柔らかく綻ぶ。

そんなロゼリアに、目を見開く。


(な、な、何その可愛い笑みは〜〜!!!!!)


ロゼリアの子供らしい笑みを目にして、心の中の私が両手で顔を押さえて暴れている。そんな姿を必死に態度に出さないように、自分を律する。


「ーー……ねえ、今日からあなたのこと、『ヒカリ』と呼んでも良いかしら?」

「え、あ………え!?」


突然、ロゼリアから名前を呼ばれ、体が硬直する。

ロゼリアはそんな私を見て「ふふ」と、口元を緩ませ、柔らかく笑っていた。


「実は私、昔から妹が欲しかったの。だから、本当はヒカリと会った時、嬉しかったのよ」

(え、え、ええ!?!?)


ロゼリアは口元に手をやり、クスクスと笑う。

楽しそうに笑うロゼリアを目の前に、私の視界はクラクラと揺れる。頬は林檎のように赤く染まり、ロゼリアを直視することが出来ない。


「ねえ、ヒカリ。私のーー妹になってくれる?」

「…………」


ーーー………バタン!!!!



目線がどんどん横に傾いていき、最終的に床に体を打ちつけてしまう。


「え、だ、大丈夫!?血、鼻から血が出てるわよ!?」

「だいじょうぶでしゅ〜…………」

「大丈夫なように見えないわよ!?ちょっと、誰かいらっしゃる!?」

(ロゼリアたん、に………推しに、名前、呼ばれた………幸です!)


鼻から垂れる血の感触を感じながら、胸元で手を強く握りしめる。


(ロゼリアたん、可愛かったなあ〜………)


視界はどんどん薄れていき、最終的には私はロゼリアの腕の中で意識を手放した。



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