3 推しを傷つける奴は、許さん。
あれから二週間が経った。
私はパイドゥンと会った後、パイドゥンと共に温室に向かい、そこで花を選んだ。
温室には沢山の花があり、どれもが美しく咲き誇っていた。
ロゼリアに似合う花を選ぼうと、数分頭を悩ませ、結局はカランコエを選んだ。オレンジに白、ピンクに赤の様々な色を花瓶に入れ、ロゼリアに向けて小さなカードにメッセージを書いた。
そんな私の姿を見て、パイドゥンが何か微笑んでいたが、私にはよく分からなかった。
カランコエが飾られてある花瓶をパイドゥンが持ち、私はパイドゥンと共にロゼリアの部屋へと向かった。そして、ロゼリアの部屋の前にいたメイドに花瓶を預け、私はパイドゥンと別れた。
それから、私は毎日、ロゼリアに会おうと何かプレゼントを持って、ロゼリアの部屋に訪れた。もちろん、メッセージカードも一緒に。
だけど、結果はーーー惨敗。
プレゼントはメイドが受け取り、ロゼリアに渡してくれるが、会うことは出来ない。
「ああ〜…………ロゼリアたんに会いたいよー!!!」
ベッドに寝転び、枕に顔をおもいっきりうずくめ、足をバタつかせる。
ここに来てから三週間が経ったが、ロゼリアに会ったのはここに来た初日だけだ。それ以外は、食事の時間でも、廊下ですれ違うこともない。
本当に初日しか会えていないのだ。
(もう一度見たい、幼いロゼリアはレアなのに…………!)
すると、コンコンと扉からノック音が鳴った。
「はい?」
そう声をかけると、扉が開いた。扉の前にいたのはパイドゥンだった。
「ヒカリ様、頼まれていた品が届きましたよ」
「本当ですか!?」
パイドゥンは腕にかけられてあった籠を外し、渡してくれた。
籠の中を覗くと、頼んであった品がしっかりとあることに安心する。
「しかし、そちらで何をなされるのですか?」
籠の中には、色とりどりの花が大量に入っていた。
その中の一花を摘み取り、パイドゥンに見せながら言った。
「花冠を作るんです」
「花、冠………ですか?」
「はい」
この二週間、手作りクッキーやお手製のアクセサリーなどをプレゼントしてきた。
そして今日は、お手製の花冠を作ろうとしているのだ。
パイドゥンは残りの仕事があるため、部屋を出て行った。
私はパイドゥンを見送り、机の上に籠を置いた。
そして、ドレスから着替え、動いやすい作業服に着替えた。
この屋敷にやってきた次の日、私はドレスの採寸をさせられた。人形のように腰回りや肩周りをメジャーで測られ、もう二度とやりたくない。
そのため、私の部屋のクローゼットの中には沢山のドレスがある。だが、私の要望でそこまで派手ではないドレスにして貰ったが、レオルドは何故か不服そうにしていた。
「よし。ロゼリアのため、やるか!」
裾を腕まくりし、花を一つ一つ繋げていく。
たまに茎がポキッと折れてしまい、その花は後で栞にでもしよう。と思い、机に置いておく。
籠の中の花がどんどん減っていき、最後の花を繋げた。
最後の花を繋げ終わり、椅子から腰を上げる。机の上には、色とりどりの花で繋がっている花冠が置かれてあった。
「で、できたあー!」
花冠を手に持ち、その場にピョンピョン跳ねながら喜びを表す。
再び花冠を机の上に置き、私はドレスに着替える。流石に作業服の姿で行くのは、些か礼儀悪いので、一応、着替える。
そして、花冠を籠の中に入れ、籠を腕に通す。
(よし、ロゼリアに会いに行こう!)
私は部屋の扉を押し、軽やかな足取りで部屋から出た。
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ロゼリアの部屋に続く廊下をルンルンと進んでいく。すると、ロゼリアの部屋の方から、ガシャンッ!と何かが割れる音が聞こえてきた。
(今の音………ーーーもしかして!)
私は血相を変えて、籠を大事に持ちながらロゼリアの部屋へと猛ダッシュで走った。
ロゼリアの部屋に着くと、いつも部屋の外で立っているメイドはおらず、扉が少し開いていた。
「ロゼリア!!!!」
ロゼリアの名を叫び、ロゼリアの部屋の扉を勢いよく開けた。
ーーザシュッ!!!!
すると、目の前にはロゼリアの艶があり美しい長い髪の一部を手に強く握りしめている、あのメイドがいた。
メイドは私が来た事に酷く驚いており、ロゼリアは床に膝をつき、自分の髪に触れながら涙を流していた。
部屋の中には、私が選んだ花の花瓶が床一面に小さな破片が散らかっており、手作りのクッキーやアクセサリーが粉々の状態で床に落ちていた。
ロゼリアは粉々になったクッキーとアクセサリーの一部を大事そうに腕の中に抱えており、それを見た途端、私の視界が赤く染まった。
(ーーー許せない)
花冠が入っている籠が私の腕から落ちていき、俯いたままゆっくりメイドの方に近づいていく。
メイドはそんな私に驚いたのか、刃物を私に向ける。
「く、来るな!」
しかし、私はそんな言葉など気にせず、どんどん近づいていく。
今の私がどう見えるのか分からないが、メイドの目は恐ろしさで染まっていた。
そして、メイドの目の前まで来て、足を止めた。目の前には刃物があり、あと一歩前に進んだら、刺さってしまう。
拳を強く握り、勢いよく上にあげた。
「ーーーこの、この馬鹿野郎があー!!!!!」
「うっ………!?」
メイドの顎に私の拳が勢いよく当たり、メイドは殴られた反動で尻をつく。手に持っていた刃物が私の足元に落ちる。
(推しの聖なる髪を触った挙句、その髪を切るなんて!)
私足元に落ちてある刃物を拾い上げる。
チラッとロゼリアの方を見ると、ロゼリアの瞳がどんどん光を無くし、黒く染まっていくのが見えた。
(やばい!!)
私は咄嗟に自分の髪を掴み、手に持っている刃物で勢いよく切り落とした。
月のように長い髪は床にパラパラと落ちていく。メイドは私のそんな行動に驚愕していた。私は刃物をメイドの前に投げ、膝をついているロゼリアに抱きついた。
「いやあーーーー!!!!!!」
わざと、誰が聞いても悲惨な叫び声をあげ、部屋の中から外まで響き渡らせる。
メイドは何かを察したかのように、血相を変えて、勢いよく立ち上がり、部屋の外へと向かう。
部屋を出ようとした途端、メイドの胸元から血飛沫が舞った。
メイドはそのまま背中から倒れ込み、胸元に手をやり、床に蹲りながら悶えていた。
「………ーー公爵、様」
「…………」
メイドの先を見るとそこには、光が一切刺さらない冷めた瞳がメイドを見下ろしており、右手に黒い剣を持ち、メイドに向けているレオルドがいた。
レオルドはメイドの首元に剣先を向ける。
「ーーこいつを捕えろ」
レオルドはメイドから目を離さないまま、冷めた声が部屋に響く。
後ろに控えていた騎士たちがメイドを取り押さえ、引き摺りながら部屋を去って行った。
(ロゼリア…………)
ロゼリアに目を向けると、ロゼリアはまだ腕の中に粉々になっているクッキーやアクセサリーを抱いており、自分の髪を強く握りしめいた。
「強く握りしめたら、髪が痛んじゃいますよ」
「ーー………っ」
毛先がギザギザになっている髪を強く握りしめているロゼリアの手を私の手で優しく包み込み、髪から離してあげる。
ロゼリアの目線が少し上がり、その先を見るとレオルドが立っていた。
(うへへ、絹のような肌に触っちゃった………!)
「ロゼリア………ヒカリ、無事か?」
レオルドは剣をしまい、床に膝をつき、私たちと同じ目線に合わせる。
私はレオルドに視線を向け、ニコッと笑う。
しかし、レオルドの眉が歪み、険しく、そしてなんだか悲しい瞳をしていた。
「私は平気です、でも………」
私はロゼリアに目を向けた。
髪が切られる前に助けることは、出来なかった。幸せにすると言ったのに、幸せにできなかった。
後悔が心の中を支配していく。
「ロゼリア、顔を見せてくれ」
「ーー…………っ」
ロゼリアは顔をあげると、ロゼリアのルビーの瞳から大粒の涙が溢れ出ていた。
ロゼリアは私の腕の中が抜け、レオルドに抱きつく。
レオルドは更に眉が歪み、ロゼリアを力一杯抱きしめる。ロゼリアはレオルドの腕の中で、子供らしく泣き叫ぶ。
(やっぱり、もう一発殴ればよかった!!)
心の中で手を強く握りしめ、般若になりそうな顔を出さないように必死に無を維持する。
その後、レオルドに言われ、私は自室へと戻るよう言われた。まだロゼリアが心配だったが、ここは父であるレオルドの役目だろうと、身を引いた。
部屋に戻り、立て鏡の前に立つ。そして、短くなった髪を一つ掬う。
勢いよく切ったため、毛先はギザギザで悲惨な状態だ。
(ま、ロゼリアのためだから、このことに対しては後悔してないんだけど…………)
私が後悔してるのは別にある。
ロゼリアが悲しむ前に助けることが出来なかったことだ。
ロゼリアと仲良くなり、そこからいつも一緒にいて、『髪切り事件』を起こさないようにする計画。この計画は二週間前にはすでに失敗していたのだが、私は諦めずプレゼントを送り続けた。
しかし、それが良くなかったのだ。ロゼリアを守るため、計画を練り直すのが良かったのだ。
(はあ………ロゼリアの為に、もっと深く計画立てた方がよかった)
事件は起きてしまったのだから、今更後悔しても仕方がないのだが、心の中はどんどん後悔の色に染まっていく。
(ロゼリア、大丈夫かな………?)




