1 転生したらヒロイン!?!?
「――ふああー!!可愛い、神すぎだよお!」
暗い布団の中、暗闇の中に光るスマホに食い入るかのように見る先には、漆黒のストレートの長い髪に、ルビーのように美しい瞳をしており、少しつり目をした美しい女性がいた。
スマホをタップすると、吹き出しから別の言葉が流れてくる。
私、山田光には今絶賛、夢中になっているのがある。
それは、現在若者の女子に流行中の乙女ゲーム『光を君に』だ。
光魔法を持つ平民の女の子が魔法学園に入学し、攻略対象と愛を深め、事件を解決していく物語。
「うへへ……ヒロインも可愛いけど、やっぱり推しの悪役令嬢、ロゼリア・ルビアが1番可愛いよ〜」
このゲームには、2つのストーリーが存在する。
まず、ヒロインルート。その名の通り、ヒロインが学園で攻略対象と愛を深め、事件を解決していく。
そしてもうひとつが、悪役令嬢ルート。学園で断罪された後のお話が続いており、ヴィランたちと愛や事件を解決したりする。
だが、悪役令嬢ルートをするにはヒロインルートを完全クリアしなくてはならず、私は必死をこいて全クリアを達成させ、悪役令嬢ルートをやっていた。
画面の上から、ピコンと通知が飛んでくる。何の気なしに開いてみると、友人から『何処にいるの!?大学の講義間に合わないよ!?』と連絡が来ていた。
「やば!!」
布団の中から勢いよく飛び出し、床に散らかった服を適当に手に取り、着替える。鞄の中に教科書などを無理やり詰め込み、鍵を取り、家を出る。
大学へ急ぐため、自転車に跨り、爆速で向かう。
信号が赤に変わり、私は早く早くと願いながら信号を待つ。
一分ほど待ち、信号が青に変わると再び自転車に跨り、横断歩道を渡る。
―――ドンッ!!!!
(――あれ、いま………何が………?)
目の前が反転し、薄らと見える私の視界には、雲ひとつない青空が見えた。
周りが騒ぐ声が微かに聞こえるが、どんどん遠のいていく。
そして、私はそのまま何も理解できないまま、意識を落とした。
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「――あん………おき、な」
(………なんか、声が聞こえる………もう、やめてよ、眠たいんだから………)
「あんた、早く起きな!!!!」
「うわっ!?」
怒号が聞こえ、勢いよく飛び起きる。
声のした方へと振り向くと、中年に思える女性が少し怒り気味でこちらを見ていた。
(え、誰?)
「まったく、寝坊なんて初めてじゃないのかい?」
「え、寝坊………?」
意識がある。そう思い、自分の手を見ると幼児のような小さな手が見えた。以前よりも肌は白く、骨が薄らと見える程の細さをしている。
(な、なんで………)
正面に顔を上げると、そこには見たことの無い空間が広がっていた。
見たことの無い木製のテーブルに、椅子、クローゼットが備えられており、見るからに病院では無い。
(ど、どういうこと……?私、確かさっき………車に跳ねられたような…………)
記憶が困惑している中、隣にいた女性は不思議そうな顔をしながら言う。
「まったく、今日はお客さんが来るから早く起きなって昨日、言ったじゃないか」
「え、お客さん……?」
「なんだ、寝ぼけてるのかい?シャキッとしな。さっさと着替えて、顔を洗ってきな」
女性はそう言うと部屋から出て行ってしまった。
困惑しながらもベッドから降りると、視点は先程よりも低く、クローゼットやテーブルが大きく見えた。
急いで立て鏡の目の前に立つ。すると、そこには見覚えのある姿が映っていた。
「な、なにこれーーー!?!?」
鏡に映っていたのは、私が夢中になっていた乙女ゲーム『光を君に』のヒロインだった。
ゲーム開始の十六歳の姿しか見ていなかったが、すぐに分かる。
ヒロインは腰辺りまで伸びている月のような金髪に、神秘的な緑色の瞳をしている。そんな、ザ・ヒロインのような姿が鏡に映っていた。
しかも、私の視点でだ。
「ちょ、ちょっと待って……なんでヒロインの姿してるの!?うわ、髪きれ〜………じゃなくて!」
混乱する脳内を沈めつつ、頭の中を整理する。
先程まで、私は車に跳ねられ倒れていた。だが、目が覚めたら知らない女性がおり、知らない部屋にいた。
そして、目が覚めたら私が夢中になっていた乙女ゲーム『光を君に』のヒロインになっていた。
(もしかして私―――転生した!?)
小説のような、漫画のような展開に口がポカーンと空いたままになる。
「ちょっと、いつまでかかってるんだい………って、何も終わってないじゃないか!」
ガチャ、と扉が開き、先程の女性が呆れた様子で部屋を覗き込む。衝撃を受けた表情が顔一面に広がり、眉を寄せた表情でズカズカと部屋に入ってくる。
「どうしたんだい。なんかおかしいわよ、今日」
「え、な、なんでもない!」
ここで違う世界から来た人だと知られてはいけない。知られても信じて貰えないだろうが、知られてしまえば色々と面倒だ。
私は咄嗟に笑顔を繕い、「急いで着替えるね!」と言い、クローゼットを開ける。
「やっぱおかしいね、いつもは敬語なはずなんだけど………」
(え!?)
「ご、ごめんなさい。寝ぼけてたみたいです」
「そうかい?ならいいんだけど………」
疑惑の目を向けられるが、何とか誤魔化せたみたいで心の中で一息つく。
取り敢えず、クローゼットの中の服を適当に取り出し、着替えながら思考を巡らせていく。
まず、ここは完全に『光を君に』の世界だ。何故なら今、私がヒロインの姿をしているのが絶対的証明だ。
そして、先程、鏡で見た姿では、おおよそ九歳の姿をしていた。
ヒロインルートでは、ヒロインの過去も見られ、物語が進む事に、過去を知ることが出来る。
ヒロインルートを全部クリアしている私は、勿論、ヒロインの過去を全部知っている。
ヒロインには親がいない。ヒロインは産まれてすぐに親を亡くし、孤児院に拾われたのだ。
そして、私の今の姿は、幼児の頃のヒロインの体であり、私は幼児の頃のヒロインに転生してしまったことになる。
(え、待って。ということは、私、死んじゃったってこと!?)
確かに、車に跳ねられた時は感じたことの無い衝撃を受けたことは覚えている。そこからは身体が冷たくて、視界も薄らとしていた気がする。
服を着替え終わると、女性が「早く来な」と言い、部屋を出るよう促す。
部屋を出て、女性は私の前を進み、私は着いて行く。
(ヒロインか〜………小説だったら、悪役令嬢とかに転生してるはずなんだけどな〜………って、ん?あれ、ちょっと待って?)
物語が始まると、ヒロインは悪役令嬢と対立する。
(私の推しって………悪役令嬢のロゼリア・ルビアじゃん!え、物語が始まったら、もしかして………対立しちゃう!?無理無理、絶対やだ!!!!)
私の推しである、悪役令嬢ロゼリア・ルビアは『光を君に』の悪役だ。
ヒロインを執拗に虐め、事件を引き起こしていく人物。
ヒロインはどうにか仲良くしようとしたが、ロゼリアは受け入れず、虐めはエスカレートしていった。そして、物語の終盤、ロゼリアは極悪非道な事件を引き起こし、犯人と裁判にかけられた後、ヒロインへの虐めも明らかにされた。そして、ロゼリアは国外追放の刑を受けたのだ。
(絶対無理!推しに虐められるのは褒美だけど、推しが国外追放になるのはマジで無理!)
オタクとして、推しには幸せになって欲しい。そんな気持ちに覆われていると、目の前の扉が開いた。
いつの間に目的の場所に着いていたのか、そう内心驚く。
女性は「入りな」と言い、部屋に入るように促した。
恐る恐る部屋に入ると、目の前には見覚えのあるような男が椅子に深く腰をかけていた。
艶のある漆黒の髪が窓から入る光によって青く輝き、海色の青い瞳は冷めている。顔には薄らと皺があるが、顔は整ったままだ。
全体を見ると、見たことの無い艶をしている生地を使っている軍服を着ており、貴族なのだと一瞬で分かる。
(どこかで見たような…………?)
必死に思い出そうと目を細め、じっくりと男を見ていると、後ろから「コホンッ!」と女性の声が聞こえ、私はハッとし、姿勢を正した。
「お待たせして申し訳ありません。お求めの子は、この子でお間違いないでしょうか?」
「…………」
まるで見定めるかのような目に、背筋が凍り、姿勢を伸ばす。
青い瞳の中に私が写っているのが見える。その瞳は冷めていて、まるで獲物を狙う獣のように思えた。
「――ああ。その子だ」
「!」
男は椅子から腰を上げ、私の目の前にやって来る。
咄嗟に顔が下に向いてしまう。
怖い。逃げないと。本能が、目の前の人物は危ないと警告してくる。
だけど、足には1トンの重りが吊らされている足枷があるかのような重さを感じる。
「……初めまして、俺の、家族になってくれないかい?」
男は目線を合わせるようにしゃがみ、傷が沢山ついている手が目の前に差し出され、覗き込むように私を見ていた。
チラッと男を見ると、男の瞳には少し、ほんの少しだが、暖かい光が宿っていた。
そんな瞳に飲み込まれ、私は無意識に言ってしまっていた。
「―――うん」
男は安心したのか、肩を落とした。男の顔は、先程よりも柔らかくなっており、やはり見覚えがあった。
(誰かに、似ているような…………)
頭に浮かんだのは、推しであるロゼリアだった。
漆黒の髪やつり目の辺りが似ている。無意識に男の顔をまじまじと見ていると、男は立ち上がり、女性に声をかけた。
「手続きしたい」
「はい。では、別室で」
女性が男を別室へと促し、女性は「部屋に戻ってな」と私に一声かけ、そのまま男と部屋を出て行った。
「………なんだったんだ?」
第一話を読んでくださり、ありがとうございます!
このお話はヒロインに転生してしまった主人公が、推しである悪役令嬢を幸せにするために紛争する物語です!
これから気長に投稿していきますので、是非、『転生ヒロインは悪女推し!』をよろしくお願いします!




