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3話:ピクルの新しい友達

 ピクルの前では平気なフリをしていたが、ミラは他の生徒たちとの間に距離を感じていた。


 他の生徒たちは、代々続く魔法使いの名家出身。

 家同士の交流もあり、すでに顔見知りの者も多い。

 そんな中に混じる自分だけが、ぽつんと浮いているようだった。


 そのうえ授業の内容も、相変わらずさっぱりわからない。


(ダメだ……大事な語句がことごとく分かんないから、全く頭に入ってこない……

 これ分かるようになる気がしないよ……)


 ミラは勢いよく立ち上がった。

「……図書館、行こう!」


 重たい教科書を抱え、廊下を歩く。

 迷いながら角を曲がった時――


「……あ!」


 少し前を歩く、見慣れた後ろ姿。

(ぴーちゃんだ!)


 授業を終えたばかりなのか、教科書を抱えている。

 嬉しくなって駆け寄ろうとした――その瞬間。


 ピクルは、前を歩く誰かの肩に腕を回して、軽く笑いながら声をかけた。


 ミラの足が止まる。


(うそ!?)


 ピクルの隣にいたのは、見知らぬ女性だった。

 長い髪をゆるくまとめ、上品な仕草で笑っている。

 ピクルと同じくらいの年頃に見えるが、大人びていて、どこか洗練された雰囲気があった。


(な、なにあの人……すごいきれい……)


 しかも――

 ピクルが、あんなふうに誰かに触れるのを、ミラは見たことがなかった。

 自分が抱きつけば照れくさそうに押し返すくせに、だ。


(……信じられない! あのぴーちゃんが!?)


 ピクルは自然な笑顔で、その人物と話していた。

 笑い合う声が柔らかく響く。

 距離が近くて、表情が優しくて――

 普段ミラが知らない顔だった。


(なにそれ……どういうこと!?)


 ミラの胸がぎゅっと締めつけられる。

 居たたまれず、視線を逸らして逃げるようにその場を離れた。


 図書館の近くまで来たところで、ようやく歩みを緩める。

 自分の足音だけが、静かな廊下にコツコツ響く。


(……ずるい。ずるいよ……)


 ミラはうつむきながら、そっと呟いた。

(ぴーちゃんは、年が近い人といる方が楽しいのかな……)


 胸のあたりが、なんだかもやもやする。

 今までは、ずっと自分とだけと一緒にいてくれたのに。

 その存在が遠くなってしまったように感じる。


 ミラはショックで何も出来ず、しばらくその場に立ち尽くしていた。



 図書館。

 ミラは、教科書だけでは理解できなかった部分を、関連本で調べていた。


「ミラ!」


 声に顔を上げると、ピクルが立っていた。


「こんなとこにいたのか。今、お前のこと探してたんだよ」

 ピクルはホッとしたように笑う。


 けれどミラは、さっきのことを思い出してしまい、目を合わせられなかった。

 そんな様子に気づかず、ピクルは続ける。


「お前、〈マナ・スコア制度〉のこと聞いたか?」


「〈マナ・スコア制度〉?」

 ミラが首をかしげると、ピクルは額を押さえてため息をついた。


「……やっぱ聞いてねぇのか。ったく……」

 机に資料をトンと置いて、真面目な顔になる。


「この学院には〈マナ・スコア制度〉ってのがあるんだ。

 魔法使いとしての評価を、数値で管理してる。

 テストの点数も、授業態度も、全部スコアに加算される。

 逆に、問題を起こせば減点。

 スコアが一定以下になると、落第。

 もっと下がれば退学らしーぜ」


「た、退学!?」

 ミラは思わず大声を上げ、慌てて口を押さえた。

 静かな図書館で、数人の生徒がちらりとこちらを振り向く。


「何それ? そんなシビアなの?」


「今月末に〈基礎テスト〉がある。

 今やってる座学の〈基礎授業〉の内容から出るやつだ。

 ここで点数悪けりゃ、マナ・スコアが減点される」


「さすがに一発退学はねーと思うけど、

 どのくらい減点されるか、教師によって違うらしい。

 最初だし、うまくやらねーと」 


「そんなの全然知らなかったよ……」


「〈マナ・スコア制度〉が説明がされるのは大体最初のテスト直前らしい。

 だけど、みんな“当然”って感じで知ってんだよ」

 ピクルの声には、少し苛立ちが混じっていた。


「この学院の連中は、ほとんどが名家出身だ。

 親同士の繋がりもある。

 だから入学前からインペリアルの制度も授業内容も全部把握してるみてーだ」


 ミラは唇を噛んだ。

 教室でみんなが当然のように理解していた理由――ようやくわかった。


「……ひどい。こっちは何も知らないのに」


「まぁ、ここはそういうとこなんだろ。俺らの方が異質ってだけで」

 ピクルは苦笑して頭をかいた。


「俺も今日、友達から聞いたばっかで。ミラにも教えてやんねーとと思って」


「友達……?」

 その一言に、ミラの心がちくりと痛んだ。

(……きっと、さっきのあの人だ……)


 ピクルが笑って話していたあの女性。

 思い出すだけで胸がざわつく。


 そんなミラの落ち込んだ表情を見て、ピクルがポツリと呟く。

「ミラも、魔法使いの友達を作れよ」


「友達……?」


「ここでやってくなら、横の繋がりがないと生き残れねぇからな」


「気が合いそうな子、いたかなぁ……? 授業に必死すぎて、どんな子がいたか覚えてない」

 ミラはあまり実感が湧かない様子で首を傾げる。


 ピクルはじっとミラを見つめ、ポツリと呟く。

「しばらくは、クラスが違うから。今までみたいにサポートしてやれねぇし」


 そして少し言いにくそうに言葉を続ける。


「それに、魔法使いと使い魔はセットで評価される。

 俺が成績悪けりゃお前も落第。……だから俺も余裕ねぇんだ」


 ミラはその言葉に、胸の奥がきゅっと痛んだ。

 俯いて唇を噛み締める。

(ぴーちゃんも大変なんだ。いつまでも甘えてばっかじゃダメだよね……)


 そんなミラを見て、ピクルは小さく息を吐く。

「俺だって、本当は一緒にいてやりたいけど……」


「――え?」

 その一言で、ミラの顔がぱっと上がる。


「ほんとに!?」


「そりゃそうだろ? 知らない奴らばっかの新しい環境だし、心配に決まってんだろ?」


「そっかぁ〜!」

 さっきまでの沈んだ表情が嘘のように、ミラの頬に笑みが戻る。

 ピクルは思わず苦笑して、軽く頭をかいた。


「とりあえず、俺を安心させると思って、友達作ってくれ。

 気が合わなくてもいい。とにかく情報を回してくれるやつが見つかればいいから」


「……友達かぁ」

 ミラはぽつりと呟き、考え込むように目を伏せた。

 そして、ふっと顔を上げる。


「じゃあさ、せっかくだし――お姫様みたいな可愛い子がいい!」

 突然明るく言い出す。


「は? 今そんなこと言ってる場合かよ!」

 ピクルは思わず声を上げた。


「だって~! 最初の友達は、お姫様みたいな子って決めてたんだもん!

 頭が良くて、優しくて、可愛い子がいい!」


 ミラは女の子の友達がいたことがなかった。

 村は男の子ばかりで、女の子の友達という存在は本で読んだだけ。

 だからこそ、少し夢を見てしまう。


「つーか、もうグループできてるし、今から探すなら“ぼっち”狙いしかねぇぞ」

「えぇ~……夢ないなぁ」

「そもそもそんな奴、お前と友達になってくれんのか?」

「ひどい!」


「とにかく、誰でもいいから友達作れ! 俺、用あるから行くぞ!」


 ピクルはさっさと歩き出した。

 図書館にミラだけが取り残される。


 静けさの中で、小さく呟く。

「……お姫様みたいな可愛い子、いないのかなぁ……」


 その声は、遠くで鳴る鐘の音にかき消された。



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