2話:魔法学校最初の授業
入学して三日目。
ミラはすでに、現実の厳しさを痛感していた。
魔法学校なんだから、授業もきっと魔法尽くし――。
そう思っていたミラの期待は、初日から見事に裏切られた。
最初の一ヶ月は、魔法使いと使い魔が別々のクラスで〈基礎授業〉を受ける。
その後、両クラスの〈合同授業〉が始まるらしい。
けれど「最初の『魔法使いだけの〈基礎授業〉』はというと――
――座学。つまり、勉強だった。
(なんで!? 魔法学校なのに、魔法使わないの!?)
インペリアルの入学試験は魔法の実技のみ。
だからミラは、“魔法を使う練習”をするものだと思い込んでいた。
だが実際は、魔法理論・歴史・体系・法則……延々と講義が続く毎日。
黒板にはびっしりと文字が並び、先生の声は止まることなく流れていく。
ミラには初めて聞く単語ばかりで、何を言っているのかまるで理解できない。
それでも、周囲からはさらさらとペンの走る音が響いていた。
(な、なにこれ……!? みんな本当に分かってるの!?)
必死にノートを取っても、単語の意味が分からず、頭の中はどんどん混乱していく。
――〇〇体系の魔法であるXXXXが▲▲▲▲で実現できるというのは、〜〜〜〜・〜〜〜〜が最初に編み出した手法として広く伝播し……
(ほぼ伏せ字みたいになっちゃった! こんなの分かるわけないよ〜!)
思わず隣の生徒に小声で尋ねてみた。
「あの、これって……」
すると、相手は穏やかに微笑んで、小さく首を振る。
「ごめんなさい。今は集中したくて」
「ご、ごめん……」
申し訳なさそうに小さくなり、ミラはノートに視線を戻した。
村で暮らしていた頃、座学なんてなかった。
魔法は“感じるもの”で、“心で動かすもの”。
理論なんて考えたこともなかったのだ。
授業が終わる頃には、ミラはぐったりと机に突っ伏していた。
「……全然わかんない……」
教室の外からは、他の生徒たちの楽しそうな声が聞こえてくる。
みんな笑って話しているのに、自分だけ取り残されているような気がした。
◇
昼下がりのダイニングホールは、学生たちのざわめきで満ちていた。
どのテーブルからも笑い声が上がる中、ミラはトレイを抱えて席に座り込む。
「ぜっんぜんわかんない……!」
――ガッ!
勢いよくフォークで肉を突き刺した。
「先生の言ってること、まっっったくわかんないよ!」
「同じく……」
向かいに座るピクルも、苦々しい顔をしている。
「つーか、あんな勉強ばっかするなんて聞いてねーよな」
「だよね! なんで魔法の実技やらないの!?」
二人はそろってぐったりと肩を落とした。
「まぁ、やるしかねぇよな。ちょっとずつ分かってきたし」
「うそ!? もう!?」
「席近いやつに教えてもらってんだ」
その言葉を聞き、ミラはスプーンを持つ手を止め、少しだけ唇を尖らせた。
「ふーん……そうなんだ」
ピクルの表情が少し柔らかくなる。
「まぁ、来てるのはいいヤツばっかだぜ。
村の使い魔はガキばっかだったけど、ここは年が近いやつが多くて、話も合うし」
ピクルにそう言われて、ミラは周囲を見渡す。
ダイニングホールのあちこちには、ピクルと同じくらいの年頃――20歳前後に見える使い魔たちが集まっていた。
皆どこか誇らしげで、自信に満ちた表情をしている。
使い魔の力は、召喚した魔法使いの力に比例する。
インペリアルに来るような生徒の元には、当然、特別な使い魔が召喚される。
村の使い魔たちとは、まるで世界が違っていた。
「見たことねぇ種類の使い魔も多くて、結構新鮮だ」
ピクルは少し楽しそうに笑う。
その横顔を見つめながら、ミラの胸に小さな棘が刺さった。
(ぴーちゃん……楽しそうだな……)
ミラの浮かない表情に気づき、ピクルが声をかける。
「ミラはどうだ? 他のやつと上手くやれてるか?」
「ええと……うん! そこそこ上手くやってるよ!」
ミラは慌てて笑顔を作り、スープをすくう。
(私も頑張んなきゃな……)
口に含んだスープは温かいのに、胸の奥は、なぜか少しひんやりとしていた。




