表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/27

15話:コントリビュート・アクティビティ

 翌日。


(全然眠れなかった……)

 昨日のことが頭から離れず、ほぼ眠れずに朝を迎えたピクル。


(ほんとに俺たち”恋人同士”になったのか?……マジで信じられねぇ……)


 朦朧とした頭のまま、合同授業が行われる魔法演習場に向かう。


「ぴーちゃん!」

 ピクルを見つけたミラが、嬉しさを抑えきれず駆け寄ってくる。

 満面の笑みで、抱きつきそうな勢い。

 ピクルは思わず後ろに一歩下がる。


「ちょっ……学校ではいつも通りって言っただろ?」

「あ、そうだった。だって嬉しくて!」

 

 その無邪気な笑顔に、ピクルの心臓はさらに早鐘を打つ。


(いや、別にミラがベタベタしてくんのなんて、いつものことだし……

 冷静になれ、冷静に……)


 必死に平静を装い、ミラに釘を刺す。


「……”あのこと”は秘密にしとけよ」

「分かった!」


 照れたように微笑むミラを見て、ピクルの胸はぎゅっと締め付けられる。


(これ、マジなのかよ……)


 何も変わらないはずだ、そう自分に言い聞かせようとしても、

 二人の距離感がいつもとどこか違うような気がして、

 心臓の高鳴りを止められなかった。


 ——いや、でも……


 ふと冷たいものが胸に落ちる。


(また勝手に期待して、違ったら、キツイ……)



 自分が人型の成体になった時、

 ミラが男として意識してくれるんじゃないか――

 そんな淡い期待を心のどこかで抱いていた。


 だが現実は違った。

 小鳥だった頃と変わらず、くっついてきて、甘えて、可愛がる。


 他の男に見せることのない無邪気さに触れるたび、

 自分が男として意識されていないことを思い知らされ、

 勝手に落ち込んで、傷ついて――


 そんな思いはもうしたくなかった。


(ミラに聞いても答えは出ねーし。

 とにかく、今は深く考えるのはやめよう)


 ピクルは、迷う心を振り切り、必死に平静を装った。




 その日の授業後、ミラとピクルはバーンから呼び出されていた。


「中庭再生の”コントリビュート・アクティビティ《貢献活動》”ですか?」


 ミラは、少し緊張気味に尋ねる。


 インペリアルには、学校に貢献する課外活動として、いくつかの“コントリビュート・アクティビティ”が提示されている。

 貢献度に応じて、マナ・スコアがボーナスとして与えらえる仕組みだ。


「そう。 お前が再生魔法が使えると聞いてな」

 バーンの顔は嬉しそうだった。


「力試しにもなるぞ。

 授業では使うこともないし、評価されにくい魔法だからな。

 “コントリビュート・アクティビティ”に生かさない手はない!!」


 相変わらず熱のこもった口調のバーン。

 対してミラは、いつもののほほんとした態度で、即答だった。


「よく分かんないけど、マナ・スコアもらえるなら、やります!」


 二人のやりとりを横で見ていたピクルは少し眉をひそめ、内心でため息をつく。

(なんか面倒ごと押し付けられるんじゃねーのか……? 

 これ、大丈夫なやつか……?)



 バーンに連れられ、中庭にやってきたミラとピクル。

「こりゃ、ひでーな……」

 ピクルは顔を顰める。


 木々は枯れ、土はひび割れ、雑草一本生えていない。

 空気はどんよりと淀み、以前修復した演習フィールドより痛々しく荒れていた。


「ここは以前、毒魔法の実験に使っていてな。

 魔力汚染されて、もう使い物にならん」


 バーンは周囲を見渡し、口元を緩めた。


「攻撃魔法で壊れた土地の回復とは、ワケが違う。

 魔力汚染された土地を元に戻すには、高度な技術が必要だ。

 力試しにはうってつけだろ?」


 目の前の惨状に反して、バーンの口調はどこか楽しげだった。


「う、うまくいくかな……?」

 ミラは恐る恐る地面に手を触れ、魔力を込める。


 瞬間、足元の土がふっくらと息を吹き返し、小さな草の芽が顔を出す。

 ミラの指先から伝わる生命の感触に、胸が高鳴った。


「すげぇ」

 思わず声が漏れる。

 あれほど汚染された土地を一瞬で――

 ミラの力の凄さを、改めて思い知らされた。

  

「でも、ちょっとだけだよ」

 

 演習フィールドを修復した時とは違い、

 中庭全体ではなく、ミラの触れた足元のごく一部のみが再生されただけだった。


「いや、上出来だ。何も起きないのが普通だからな」

 バーンは満足そうに頷く。

「これから毎日、頼んだぞ」


「え! これめちゃくちゃ疲れるんですよ!

 全部は無理ですよ!」


「そうだなぁ。 あの木、一本。 あれができたら完了としていいぞ」

 バーンは、完全に枯れてしまった木を指差す。


「一応まだ根はありそうだしな。まだ”簡単な方”じゃないか?」


「”簡単な方”って……」

 ミラは頬を膨らませる。


「ちなみに達成した場合のボーナススコアは”100”だ」


「100!?」

 ミラとピクルは声を揃えて驚く。

 1年間コンスタントに優秀な成績を残した場合に与えられるポイント数だった。


「”特別待遇”だ。頑張れよ」

 そう言ってバーンは去っていった。


 バーンの背中を見送り、ピクルが尋ねる。

「できそうか?」

「うーん、何日かかければ出来るかなぁ……?」


 ミラは少し不安そうに頭を巡らせながらも、手元の魔力の流れを確かめていた。



 その日以降、ミラは毎日中庭に通って、枯れ木の修復作業に取り組んだ。

 

 最初は思うように緑が戻らず、うまくいかないこともあった。

 それでも、何度も試し、魔力の強弱や流れを微調整していくうちに、

 少しずつ要領が掴め、確実に再生できる感触が生まれていた。



 そして一週間。


「やったー!」

 ミラは歓喜の声を上げる。


 ついに、一本の枯れ木が完全に再生した。

 緑の葉が茂り、光を受けて輝く枝には、小鳥たちが集まり、さえずりを響かせる。

 小さな昆虫も舞い、土の香りがふわりと立ち上る。


 再生されたのは、その木の周りのごく限られた範囲ではあったものの、

 中庭は当初のどんよりとした空気から一変し、安らぎに満ちていた。


 ミラは思わず駆け寄り、木の根元に手を置いた。

 小鳥たちは警戒せず、自然とミラの周りに集まる。


「可愛い……!」

 笑顔をこぼすミラの頬が光を帯びる。


「感謝してんじゃね、こいつらも」

 ピクルは肩をすくめる。


「嬉しいなぁ……」


 その中に、一羽見慣れない種類の鳥がいた。

 ふわふわの毛並み、丸々と太ったフォルム。


 ミラは思わず胸に抱き寄せ、木の根元に腰を下ろす。

 小鳥は逃げることなく、ミラの胸に体を預けた。


 腕の中にすっぽり収まるくらいの大きさで、

 ふわりとした重みを感じる。


「この子も何か特別な鳥なのかなぁ……?」


 ミラは、小鳥を抱きしめ、撫で回しながら、目を細める。

 そしてふと、呟く。


「なんか、ぴーちゃんの小さい頃みたいだね?」


 その言葉を聞いて、ピクルの肩がわずかに上がる。


「え……あぁ、そうかもな……」


「嬉しいなぁ……やってよかった」


 ミラは、小鳥を愛おしそうにぎゅっと抱きしめた。

 

 その仕草に、ピクルの胸がズキリと痛む。


 ――ああ。

 やっぱり。


(変な期待なんか、するもんじゃねー……)


 自分が小鳥だった頃を思い出す。

 ミラはこうやって、自分のこともぎゅっと抱きしめて可愛がっていた。


 ミラが、この小鳥を自分だと思っているわけじゃない。

 そんなことくらい、分かっていた。


 ただ、その抱き方と表情の「区別のなさ」が、

 今の自分への態度にも重なって見える。


 思わず目を逸らし、ぎゅっと手を握りしめる。


(ミラの中で俺は、まだ小鳥の時のままなんだろうな……)


(大丈夫。どうせ、そうだと思ってたから……)


 ピクルは深く息を吐き、覚悟を決めるようにミラの方を向き直した。

 しかし、ミラはそんな胸の内には全く気づかず、相変わらず小鳥たちと戯れている。


 目が合うと、嬉しそうに微笑み返してきた。


「この子達が喜んでくれるんだったら、

  もうちょっと続けてみようかなぁ……?」


 その無邪気な表情を、ピクルはじっと見つめる。


「……そうか、頑張れよ」


 そして、いつも通り何でもないように笑みを返した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ