10話:合同授業開始!ー②
バーンの説明がざっくりしすぎたせいで、生徒たちは一様に困惑していた。
魔法使いが使い魔に指示を飛ばし、魔法を融合させようとするが――
お互いの魔力がぶつかり、反発して弾かれてしまう。
「うわっ! また反発した!」
「魔力が暴発する! 抑えろ!」
そこかしこで爆音が響き、焦げた煙が立ちのぼる。
教師たちはフィールドを巡回し、失敗する生徒たちに個別で声をかけていた。
決まったやり方はなく、どうやらそれぞれの感覚を掴むしかないらしい。
“理屈より体で覚えろ”というバーンの指導も、あながち間違いではなかった。
「……やっぱり頭で考えすぎだ」
中央で腕を組んだまま、バーンがぼそりと呟く。
その声に、生徒たちがビクリと肩を震わせた。
「“理屈より体で覚えろ”って言っただろうが。
頭で合わせようとするから、魔力がぶつかるんだ。呼吸を合わせろ、呼吸を。
相手を信じろ。魔法は気合いと信頼だ!」
(……やっぱり脳筋だな)
ピクルはため息をつく。
一方ミラは、ふむふむと真面目に頷いていた。
「呼吸ね、呼吸」
「お前、わかってんのか……?」
「うん! まずは、“魔力共有”だよね! 早速やってみよ!」
ミラはにっこり笑って、ピクルの手をぎゅっと握る。
「ちょっ……おい!」
ピクルは照れて、ばっとミラの手を振り払う。
「だって”呼吸を合わせろ”って言ってたよ」
「別に触らなくても出来るだろ?」
「えー、でも触った方がやりやすいよ〜」
「まぁ、そうかもな……」
ミラは嬉しそうに再び手を伸ばし、今度は逃さず握る。
結局、ピクルも観念してその手を握り返した。
「じゃあ、送るね」
互いの魔力が触れ合う。
ミラの魔力は、春の陽のようにあたたかく、まっすぐだった。
流れが重なり、二人の間を光が満たしていく。
「簡単だね」
「そうだな……拍子抜けするくらい」
ピクルが軽く手をかざすと、ふわりと風が吹き抜けた。
「なんだこれ? 嘘みたいに、魔力が安定している……」
今までにない感覚にピクルは戸惑いを見せる。
バーンの言う「威力も安定性も桁違いになる」とはこういうことなのか。
ほとんど魔力を込めていないのに、放った魔法は想像よりもはるかに大きかった。
他のペアが何度も弾かれている中、二人だけが静かに成功していた。
「次は、“属性融合”だよね! やってみよ!」
「ちょっ、もう次行くのかよ!」
“属性融合”――複数の魔法の属性を混ぜる。
「ぴーちゃんは火魔法が得意だから、それと合わせるのがいいよね」
「いや、普通、魔法使いの得意魔法に合わせるもんじゃねーの?」
「うーん、私、特に得意なのってないしなぁ」
「いや、“なんでもできる”の間違いだろ、それ」
ミラは今まで試した魔法を、どれも一定以上の精度で使いこなせていた。
単に複数属性を扱えるだけの魔法使いは珍しくない。
だが、どの属性でも安定して威力を出せる者は、ごく稀だった。
「じゃあ、まぁ、その方針で行くか。
炎と融合させるなら、風……か土か……」
「いいね! 炎の竜巻とか、溶岩流みたいにできるね!」
「……それ災害レベルだろ。被害マシそうな土で行くか……」
「じゃあ、せーので魔法出そ!」
「……ちょっと待て、“控えめに”やれよ。
さっきの感じだとかなり加減しないとマジでやばい。学校壊れるぞ!」
「わかってるって!」
「せーの!」
――ドンッ!
二人の魔法が交わった瞬間、爆風がフィールドを駆け抜けた。
ミラの土魔法がピクルの炎を纏い、まるで火山の噴火のように空へ舞い上がる。
衝撃波が走り、演習場の半分が砂煙に包まれた。
「やべー……」
「ちゃんと”控えめ”にしたよ!」
「俺もだって!」
他の生徒は呆然と立ち尽くしている。
バーンが腕を組んでぼそりと呟く。
「……融合魔法が成功した場合、威力は単独時の20倍から30倍になる。
以後、注意して行うように」
淡々と言い残し、再び巡回を続けた。
(いや、先言っとけよ!!)
ピクルが心の中で叫ぶ。
「やっぱり仲良い方が上手くいくってことだよね!」
ミラが嬉しそうに笑う。
「……そういうことかもな」
ピクルは周囲を見渡した。
他のペアは誰一人として成功していない。
魔法使いと使い魔は、主従関係。
魔法使いが使い魔に“合わせる”という発想を持つ者は、ほとんどいないのだ。
主従ではなく、対等に“合わせる”。
それを最初から当たり前のようにやっていたのは――ミラだけだった。
(意外にミラの考えが、最先端ってことなのか……)
思わず笑みがこぼれるピクルだった。
◇
一方、リリアナ、ルシアンペア。
「そ、それでは、始めましょう!」
緊張で声が裏返るリリアナ。
手をぎゅっと握りしめ、ちらりとルシアンを見る。
が、すぐに目を逸らした。
(か、かっこ良すぎて……まともに顔が見れない……!)
頬はほんのり赤く、完全に恋する乙女の顔。
そんなリリアナの態度に、ルシアンはただただ困惑していた。
「……リリアナ様。
もう少し近づいても、よろしいでしょうか?
離れすぎていて、全く魔力を感じ取れなくて……」
ルシアンが一歩近づくたびに、リリアナは三歩下がる。
結果、二人の距離は十メートル以上離れていた。
「そ、そうよね……」
小声で答え、リリアナはようやく足を止める。
なんとかルシアンが1メートルほど手前まで近づいたが――
それでもリリアナは顔を俯かせたままだ。
「あの……できれば、こちらを見ていただけませんか?
目線が合わないと、うまく魔力が合わせられなくて」
(わ、わかってるのよ……! わかってるけど、無理なのよ〜〜!)
意を決して顔を上げる。
その瞬間、ルシアンと目が合った。
ルシアンは、柔らかく微笑む。
(ちょっ……! その笑顔反則すぎる〜〜!!!)
リリアナの手がぷるぷると震え、魔力の波がぐらぐらと揺れ始める。
思わず膝に力が入らず、よろけ――
「リリアナ様! 大丈夫ですか!?」
咄嗟にルシアンが腕を伸ばし、彼女を抱きとめた。
「きゃっ!」
ルシアンの顔がすぐそばにある。
リリアナに動揺が走る。
「も、申し訳ありません! 怪我でもされたら大変ですので……!」
「だ、大丈夫よ……」
(さ、触っ……ちっ、近いっ! 無理〜〜〜!!)
完全にパニック状態のリリアナ。
慌ててルシアンから離れる。
顔は真っ赤で、もはや魔法どころではなかった。
少し離れた場所からミラとピクルが二人の様子を伺う。
「リリちゃん、顔真っ赤だね」
「……大丈夫か、あれ?」
その後も二人は息を合わせられぬまま、演習は終了した。
(リリちゃんたち、もっと仲良くなれたらいいのになぁ……)
ミラは心配そうにその背中を見つめていた。




